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王族


「大丈夫だから」


 公爵の言葉で落ち着きを取り戻す。エスコートをしながら自然に守ってくれているのが分かる。


 優しく振る舞ってくれていますが、いつもより真剣な眼差しですわ。


「カレン、すぐに侵入者について確認してくる。念のため、前回のこともあるから、部屋に護衛をつけるから安全な部屋で待っていてくれるか?」


「きっ、危険ではないですか?」


 思わず公爵の服をつかむ。


「大丈夫だ。既に捕えているはずだから、目的を確認してくるだけだ」


「えっ、もうですか?」


「この屋敷に侵入してきた時点で見逃すようなことがあれば全員クビだ。二度も同じ失敗する無能を許すわけがないだろう?」


 いつものように優しくほほえんでいるが、その笑顔がなぜか怖い。


 

「すぐに戻る」


「……分かりましたわ」


 いつのまにか、屋敷の中には護衛が隊列をつくり、中に入ると同時にカレンの身の回りを固める。


「お部屋までご安心致します」


「えぇ、あの……ミク、侍女頭はどこに行ったのかしら?」


 ヤドラさんがエル様やニーナさんと馬車で出ていったのなら、ミクリさんは開放されているはずですわ。


 不審者と聞いた以上、途中からいなくなった侍女頭の安否も心配だ。


「すぐに呼びに行って参ります」


 護衛の1人が席を立つ。心配ないという割には、部屋の中ですらおおがかりの警備体制だ。



 状況を聞こうと、声をかけようとしたその時、侍女達の悲鳴と大声が聞こえてくる。


「何がっ!?」


「動かないでくださいませ。公爵様の命によりカレン様を部屋から出さないようにと(おお)せつかっておりますので」


 でも、もしミクリだったら? 他の侍女達に危害がいっていたら?


 このまま1人安全なところで待っているなんて出来ませんわ。


「……私も行きます」


「いえ、ですから……」


「カレン様っ!!」


 ミクリが息を切らしたように部屋の中に入ってくる。


「っ!! 良かった。無事だったのですね。先ほどの悲鳴は一体……それに今までどこに……」


「申し訳ありません。旦那様の指示で一時的に身を隠しておりました」

 

「ウェイド様の?」


「はい。実は……」


「事情は僕から説明しよう」


「ウェイド様!!」


「言っただろう? 確認だけだからすぐに戻ってくると」


 いつもと変わらない公爵の優しい表情に一気に緊張がとける。


「ご無事で良かったですわ。でも、先ほどの悲鳴は一体……」


「侍女の中に君の失脚を狙う不届き者がいたんだ」


「え?」


 ミクリも下を向いて辛そうにしている。侍女頭として、自分を責めているのだろう。


「彼女からブラウン伯爵夫人の菓子に細工をした者がいる可能性があると相談があった」


「細工ですか?」


 確かに、ニーナさんが苦しみ出した時、ヤドラ医師を呼びに行くのに侍女頭のミクリが直接動いたのには驚きましたが……


「侍女の中に犯人がいるかもしれない可能性がある以上、誰かを動かすよりも私が動き、そのまま旦那様にご報告に行っておりました」


 護衛もいてその他大勢がいる中で私に直接危害を与える可能性は低いですものね。


「侍女頭は何かあった時戦力にはならないからな。その代わり、異変にいち早く気づき報告するよう任せている」


 公爵は少し申し訳なさそうに謝る。


「それでも、君が1番頼りにしている者がいなくなって不安にさせてしまったな。すまなかった」


「いえ、公爵家であれば当然のことですわ。ですが、なぜニーナさんを狙ったのでしょうか」


 リドル家の婚約者の座を狙うのならばカレンの口にするものに仕掛けをすれば良い。


「それは、本人達からあとで説明してもらおうか……」


「っ!!??」


 ロープで縛られた侍女と気の弱そうな男が連れてこられる。


「あぁ、あとで行くからさっさと地下に……」


「お許しくださいっ!! 屋敷に入ったことは本当に申し訳ありませんっ、ですが……自分は本当にただの新聞記者でして……決して暗殺などと滅相なことをしようとしたわけでは!!」


「…………」


 よく喋る自称新聞記事の男と、全く何も話そうとしない侍女。男の方は侍女が引き入れたとすればこの厳重な警備の中侵入出来たと分かる。だが、侍女は?


「あの、ウェイド様」


「ん? どうした?」


「リドル家の使用人は全て……」


「あぁ、必ず身元調査が入る。僕が直接引き抜いた者でもない限りはそれなりに身分が保証されているが、一部例外はある」


 公爵は地下牢に連れていくよう命じ、そのまま全員を下がらせる。


「あの、大丈夫ですか?」


「身元調査を外すのは、僕が連れてきた者かあるいは、王家から紹介された者だけだ」


「っ!?」


「正確には、あの侍女は王族のダガレ殿下からの紹介で来た」


「それは……つまり」


「あぁ、君の身の安全を強化する必要があるな。それと、手段は選んでいられなくなった」



 ダガレ殿下は現王の弟で、愛娘を溺愛していることで有名だ。そして、その娘であるアイリン殿下こそがウェイド公爵へ結婚をと噂が出ていた相手だ。


 噂では、ウェイド様が権力を手に入れる為、王族側が公爵をコントロールする為にとアイリン殿下との縁談話が持ち上がりそうだと聞いたことがあった。だが、なかなか進まないこの話に、社交界ではもう1つの憶測が飛び交うようになった。





――ウェイド公爵には想い人がいる――





 政略結婚が当たり前だった貴族同士の縁談の中で、エル・ニシェード・ブラン伯爵のように、恋愛結婚をする者も近年では出てきた。


 通常は、そうした恋人を第2夫人として迎え入れる者がほとんどだが、王族が第2夫人などありえない。





――合理的なウェイド公爵らしからぬ行動だ――





 そんな噂が大きく広がる前に、公爵として無難な結婚相手であるカレン侯爵令嬢が婚約に至ったのだ。







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