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初めてのご招待

「ウェイド様!!」


 部屋に戻ると、一瞬満面の笑みを浮かべ、慌ててすぐに表情を戻す彼女が出迎える。



 あぁ、今の笑顔可愛かったな……


「どうした?」


「ふふっ、思ったよりも早くお返事がもらえたんですの」


 その手紙にはブラン家の紋章が入っている。


「ニーナ伯爵夫人がお茶に来てくださるんです」


「そうか」


「はい」


「…………」


「あの、ブラン家のお屋敷が近いこともあって、いつでも来てくださるみたいなんですけど」


「そうか」


「いつが良いかと思いますか?」


「?」


「あっ、いえ。ウェイド様にも是非ご挨拶をとお返事に書かれているのですが、ご都合はいかがでしょうか?」


「それならいつでも構わない」


「そう、ですわよね。では、さっそく週末にでも……いえ、明日にでもお呼びいたしますわ!!」


「そうか」



 なぜかこちらの表情を伺うように話す姿に、まだ客人として遠慮しているのではないかと気づく。


「カレン、この屋敷はもう自分の住まいだと思って過ごして欲しい。僕の妻は君だけだ」


「分かっておりますわ」


「そっ、そうか………分かっているのならいい…」


 思ったよりも肩すかしをくらったような返事が返ってきたが、彼女が遠慮していないのであればそれにこしたことはない。



 彼女がこの土地で親しい友人が出来ることは僕としても喜ばしい。ブラン伯爵はその仕事の能力で評価しているが、領地が近く同じ年頃の妻がいるという点も大きかった。



 しかし、明日呼ぶとは、よほど早急に話したいことがあったのか? 僕がエル伯爵に彼女との関係を相談しようとしたように、彼女も同じなのか?


 まずい。そんなに急ぐほどの深い悩みが!?


 なぜだ!? 婚約を急いだことか? 屋敷に匿ったというのに、不審者を入れる失態のせいか!? それとも、僕と同室で息が詰まっているとか……


「心当たりが多すぎる……」


 これは、すぐに対応しなければ。









「ミクリさん!! 明日にはニーナ伯爵夫人をお出迎えするから、頼んでいたお茶を出しててくれる?」


 まさか、こんなにすぐに返事が来るなんて。彼女からすれば大きな仕事を夫が任されたのだから、妻として付き合いをよくしようとするのも理解できますが。


 それでも、明日だなんて、急だったでしょうか……ですが、ウェイド様は婚約パーティでエル様を会わせて下さっただけではなく、何度も屋敷に来ても不自然ではない関係をすぐに構築されましたもの!! 私だって、いい加減ウェイド様のお役に立たなければ申し訳が立ちませんわ。



 そう、こんなに元気がもらえるのですから。


 エル様を初めてお近くで見た時、遠い地で1人で来た不安など飛び去った。2度目の拝顔では、この方に会う為ならどんな試練でも受け入れる覚悟が出来た。


 きっと、ウェイド様も公爵としての重圧の日々のプレッシャーを癒されたいと思っていられるはずですわ。私がウェイド様の妻として、しっかりその役割をこなさなければいけませんわね。



「そうと決まれば、あたためていた計画をさっそく実行ですわ」



 貴婦人たちを集めるお茶会は、まだ婚約者である立場で、リドル家に招待など出来るわけがない。まして、正式に夫婦になるまでは、暗殺者すら送られる可能性があるのだから、来客を呼ぶことも前例がない。だが、相手が既に公爵が領地の管轄を任せる契約をしたエル・ニシェード・ブランの妻であれば公爵の仕事をサポートする意味をなす。暗殺とまではいかなくとも、婚約者であるカレンの失脚を狙う者も多い。


 カレンがニーナ伯爵夫人を招待しても、外聞上でも問題ない。


 そこまで考えられているなんて、さすがですわ。当然、エル様の仕事ぶりあってのことでしょうけど。





「カレン様、そろそろお休みになられては?」


 話自体は急ではなく、以前から部屋の飾り付けやお茶菓子の取り寄せなどはしており、使用人達がそこまでばたつくことはなかった。だが、当のカレンが入念なチェックで遅くまで休もうとしなかった。


「そうね、もうこんな時間!? ありがとう。もう部屋に戻るわ」


 いつもなら公爵が部屋に戻るのを待つ側だったが、今夜は珍しく先に寝入っているようだ。



 さすが、公爵家ともなると心待ちが違うのですわね。私なら明日エル様に会えると考えるだけで寝れなさそうですのに。


 そのまま起こさないようにそっとベッドに入る。こうして公爵の寝顔を見るのはツボ押しをして以来だ。


「また落ち着いたら、触れてもいいのでしょうか」


 前髪を少しだけつまんでみる。


「…………」


「明日は私、頑張りますから」


 張り詰めていた気持ちが一気にゆるむ。そのまま深い眠りについていた。





「うーーん」


 昨夜遅く寝入ったからか、いつもよりも遅めに目を覚ます。当然、公爵はいない。


「っ!! 寝過ごしましたわ……朝食……は食べている時間はないですわね」


 いつも朝食は一緒に食べる。約束したわけではないが、いつのまにか2人のルーティーンとなっていた。



「今日は、ウェイド様の為ですのでっ」


 そのままあらかじめ決めていた衣装、ヘアデザインをしてもらう予定だったが、どうやら侍女達が盛り上がってアレンジを加えたようだ。


「カレン様っ、とてもお綺麗ですわ」


 その完成の美しさに、いつもは表現の大きいミクリでさえも、息をのむ。




「……本当ね。でも、申し訳ないのだけど、もう少し落ち着いた感じに直してくれるかしら」


「どっ、どうしてですか? 本当に、リドル家の奥様としての気品と美しさが溢れ出ていらっしゃいますのに」


「私はまだ婚約者よ。ここまで着飾るのは気が引けるわ。それに、私だけ気合いの入った格好では、急に今日招待した伯爵夫人に嫌味に見えてしまうわ」


 それに、今日の主役はニーナ伯爵夫人ですもの。彼女より目立っては、ウェイド様にも合わす顔がありませんわ。




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