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副作用

「カレン様、元気になれる特製ドリンク持って参りました」


 公爵の代わりにブラン伯爵を見送ったあと、しばらく姿を見せていなかったミクリが戻ってくる。


「ありがとう……これは?」


「午前中、カレン様も体調が優れなさそうでしたので、ヤドラ医師に相談して調合してもらいました。奥様仕様とのことでございます」


「私……仕様?」


「……はい」




 なぜ目を見ないのっ!? 私仕様ってことはいったい何が入っているのか分からないってことかしら……え、怖いですわ……でも、せっかく彼女が気遣って調合してもらったものですし、ヤドラ医師の腕なら効果は絶対なのでしょうけど。午後からの衣装合わせで確かに疲れていますし、うーーーん。


 瓶を受け取ったまま硬直するカレンに、ミクリが慌ててフォローする。


「ごっご安心下さい!! 中身は……分かりませんが、疲労回復、貧血予防以外の効果はないと確認しておりますので」


「えぇ、そうね。ありがとう、あとで頂くわ……そういえば、ブラン伯爵の体調は大丈夫だったのかしら?」


 今まで、エル様のことを口に出したことはない。しかし、未来の夫が領地運営という大きな仕事を任せた以上、あからさまに話題にしないのも不自然になる。


 これくらい聞く分にはむしろ自然ですわね。


「はい、何度もお礼をおっしゃられていました。あとは、カレン様にも宜しくお伝えくださいとのことです」


 っ!? 私のいないところで私のことを気にかけて下さったということかしら。あのエル様が、私のことを!? 認識して!!?? メッセージまで託してくださった!!!???


「〜〜〜〜っ!! ゴクゴク」


 溢れる感動を抑えるように渡されたドリンクを一気に飲み干す。


「あっ、カレン様。くれぐれもお飲みになられる時は疲労の程度に合わせるようにと……疲労時には薬でも、量が多ければ効き過ぎるからと注意が……」



 ミクリからの追加情報が耳に入る前に、あっという間に飲み干してしまった。


「え、今なんて……」


 ドクンッ


「っ!?」


 心臓が……今大きく飛び跳ねたような……


「カレン様? 全部飲まれたようですが、大丈夫ですか?」


「えぇ……ところで、ヤドラ医師は医務室にいるのかしら?」


「はい。先ほど薬を渡されてすぐにお昼休憩をとるからと言っていたので、おそらく寝ているかと」


「そう、ありがとう。少し用が出来たから行ってくるわ」


「あっ、カレン様、お待ち下さい。屋敷内といっても、医務室までは距離がありますし、お一人では危険ですので……」



 ミクリが心配するが、構わず医務室へと向かう。本人に直接言わなければいられない衝動にかられる。


 分かっていましたのに、胃薬と睡眠薬ですっかり油断してしまいましたわ。


 鼓動が徐々に速くなるのを必死で耐え、ミクリが慌てて護衛を呼ぶ間もないほど、気づけば走るように医務室に向かう。


「失礼しますわっ、ハァハァ……ちょっと確認したいのだけれど、副作用って一体!!」


 ノックも忘れ、勢いよくドアを開ける。


「え!?」


「カレンっ!?」


「っ!!??」



 ヤドラ医師の上に覆いかぶさるように公爵が腕をつかんでいる。


「公爵様、レディの前でなんてものをお見せしてるんですか」


 ヤドラ医師の言葉に公爵は慌てて立ち上がる。


「ちがっ、違うだろうっ。護衛兵を無理やり帰した元凶が何をっ……カレン、誤解だ」


 口調はいつも通り、だが明らかに焦っているのが分かる。カレンに説明しようと近づく公爵の腕をつかむと、そのまま胸に抱きつく。


「カレッ……どうし……」


「ハァ……こっ、公爵様」


「!!!???」


 目を潤ませ、顔は真っ赤になっている姿に公爵まで心臓がはね上がる。


「なんだか、おかしぃ……んですの……ハァ」


「おやこれは。もしや先ほどの副作用が?」


 ヤドラ医師の言葉に、公爵はカレンの肩をそっと支えながら聞き逃さない。


「副作用とは?」


「あっ、いえ。公爵様が私に熱く詰め寄る前に可憐な侍女頭さんが相談しに来ましたので、滋養強壮の漢方薬を煎じてお渡ししただけです」


「それで……このような状態だが?」


「いえいえっ、疲労程度に合わせた量を飲むように今回はちゃんと事前にお伝えしておりますよ。ですが、どうやらこのご様子ですと一度に飲まれたのかと」


「ハァッ。それで、副作用は害のないものだろうな? 返答によっては先日の件と合わせても1年帰ってこられない渡航船に乗ってもらうことも覚悟してもらう必要があるが」


「まさかっ、ハハハ。次期公爵夫人にそのようなりすくのあるものをお渡しするわけじゃないじゃありませんか!!」


 そう笑いながらも、内心、薬湯に少量とはいえ自白剤を飲ませたことを知られなくて助かったと安堵する。


「副作用を言う気はないのか?」


 公爵の言葉に気温が下がったのかと錯覚する。目の前に立つこの屋敷の主は、仕事には熱心だが、同じように医師の仕事に情熱を持つ自分の良き理解者でもあった。予算を無視した高額な医学書を勝手に発注した時でも、実験に使う予定だったねずみを全匹逃してしまって大騒ぎになった時でも、どこか大目に見ていた。だが、今回に限ってはそうではないらしい。次期公爵夫人のこととなると、目の色が変わる。

 


「……そうですね。今までのご様子から見て、どうやら副作用が強く出やすいようですが、害のあるものはありませんのでご安心を」


「そうか。だが、明らかに苦しそうだが……」


 先ほどから身体を密着させるように寄りかかる彼女からは、走ってきてから時間が経つというのに、いまだに苦しそうな息づかいが聞こえる。


「はい。滋養強壮の効果も強く反応が出れば欲情に変わります」


「よっ!?」



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