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変化

 確かに絶品でした。それはもう、完璧だと称賛するレベルで。いつもなら残す量を全部食べてしまいましたわ。


「お口にあって何よりでございます」


 料理長は頬を真っ赤にさせ、安堵の表情で胸を撫でおろす。



「カレン様、あとで消化に良い薬を持ってきますね」


 ミクリがこっそりとささやく。





「ふぅ。胃がはち切れるかと思ったわ」


 朝食のあと、ミクリが持ってきた薬のおかげでようやくひと息つく。


「大丈夫でございますか?」


「えぇ。少し散歩をしたいのだけど、案内してくれる?」


 そういえば、ウェイド様に案内されて以来、庭に出ていない。食後の散歩も兼ねて歩いていると、突然背中に雷に打たれた感覚になる。


「?」


「どうされましたか?」


「いえ……ねぇミクリ、この庭ってもしかしてどこかにつながっているのかしら?」


「はい。あちらの塔にも出入り出来るようになっております」



 あの塔って、書斎とか来客を招く部屋が集まっているところよね。今日、エル様が来るって言っていたけれど……まさか、もう……



「ん? カレン?」


 ぴぎゃあああああああっ!!!!???? ウェイド様に、エル様ああああああ!!!!!!!!



 心臓が口から飛び出そうにな内なる精神を抑え込み、表情は無のまま、ゆっくりと挨拶のポーズをとる。


「…………ウェイド様に、ブラン伯爵……おはようございます」


「お久しぶりでございます。婚約パーティ以来ですね」


 エッッッル様が私に話しかけられていらっしゃるわ。あぁ、朝食をたくさん作って下さった皆様に感謝ですわ。この胃がはち切れそうでなければ朝の散歩など思いつきませんでしたもの。


「今朝は、食事を一緒にとれずすまなかった」


「いえ、私の出身地に寄せた料理のご用意、感謝致しますわ」


「それと、昨夜は……いや、伯爵夫人への手紙は渡しておいた」


「はい。まさか出会って3秒で手紙を渡され、そのあとはすぐに領地経営を全て任せると言われた時には驚きましたが」


 あああああっ、困ったように笑っていらっしゃるわ。お手元にある手紙は、私が触ったところで、万が一にも手汗がつかないよう細心の注意を払いましたが、まさか目の前で間接タッチを拝見出来るなんて。


「妻も早く会いたがっていましたので、喜ぶかと。お誘いありがとうございます。こちらの庭にはよく散歩されるのですか?」



 ぎゃああああああっ、微笑みがっ、こんな真正面から私に微笑みがああああっ!!!!!!


 あまりのまぶしさに頭がくらくらしてしまう。


「今日はたまたまで……ふっ、夫人に宜しく、お伝え下さいませ。私、少し陽の光に当たりすぎたようで……先に失礼します」


「カレン様っ、だいじょう」


「大丈夫か?」


 なんとか正気を保ちながらこの場を離れようとすると、ミクリより先に公爵が動く。


「っ!!」


「僕はこのまま彼女を部屋まで連れていくから、ミクリ、彼をお見送りしてくれ」


「かしこまりました」


「えっ、ですが……まだ来られたばかりなのでは?」


 いくらなんでもまだ午前中、どう考えてもそんなに時間は経っていないはずだ。


「必要な引き継ぎはとっくに終わっている」


「はい。私としてはかなり好条件で逆に申し訳ないところですが……ウェイド様のお役に立つなら喜んでお受けさせてもらいました。それに……実は私も少し体調が良くないことを来て早々にウェイド様に見抜かれてしまいまして」


 エル様の言葉に思わず顔をあげる。確かに、疲労が溜まっているように顔色が悪い。体重も、前に会われた時より少し痩せたようだ。


「ミクリ」


「はい、当屋敷の栄養飲料をいつくか見繕(みつくろ)っておきます。それと、契約金は明日にはお屋敷にお届け致します」


 公爵の言葉にミクリは慣れているかのような動きをする。


「我が屋敷の専属医は優秀ですから、どうぞご安心下さい」


「ハハッ、それはありがたいです。では、私も本日は失礼致します」



 エル様がミクリに付き添われて帰っていく姿を見送ると、身体がまるで固まってしまったかのようなら動けなくなる。


「どうした?」


「いえ…………」


 私ったら、あんなに顔色が違うのに、ぜんぜん気づきませんでしたわ。自分のことばかりで……それに、結果的にはウェイド様との親交の機会を奪ってしまうなんて。


「歩けるか?」


「はい、大丈夫です」


 そっと公爵が支える手から離れる。


「お仕事の邪魔をしてしまい申し訳ありません。少し休んでから行きますので……」


「そうか、では僕もここで休んでいくことにしよう」


 っ!? えぇ、最近すごく忙しそうでしたのに、そんな悠長なことされててよろしいので!?


 思わず聞きたくなる言葉を飲みこみ、そのままじっとしていると、公爵は大木の木陰にあるベンチにハンカチを敷き、そのまま手を差し出してくる。


「どうぞ、お手を」


「あ、あの」


 あっ、思わず手を取ってしまいましたわ。つい、反射的に。仕方ありませんわっ、この状況で手を取らなければ不仲説が流れても困りますものね。そう、これは、仕方なくですわね?


 座ると風が涼しく、もうすぐ秋になりそうだと実感する。


「本当に、お時間は大丈夫なのですか?」


「あぁ、そろそろ業務を分担しなければ私生活に支障が出るだろう?」


「そうですわね。私も早くウェイド様のご負担を軽く出来るように精進しますわ」


「え?」


「?」


「……体調はもう良いのか?」


 少しの沈黙が続いた後、公爵はカレンの髪が風で乱れている部分を耳にかけなおす。


「はっ、はい。少しくらくらしただけで、もう大丈夫ですわ」


「そうか、良かった。食事は気に入ってくれたか?」


「えぇ!! 量がすごくて驚きましたけど、私の出身地の馴染みの料理まで用意されていて驚きましたわ」


「明日からは毎日用意させよう」


「いいえ。私は前のメニューも好きでしたわ。毎朝あのような豪勢な料理では大変ですし、それに私はこのリドル家の地に嫁ぐんですから、この土地の食事をいただきますわ」


「…………しかし、君が育った地に比べるといささかシンプルだったろう?」


「私あの量を食べてしまうと太ってしまいます。料理長に、もう少しサラダを中心にして欲しいくらいですわ」


「あぁ、分かった」



 

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