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薬湯の効果


 仕事の早い彼女にしては、思ったよりも待たされたように思う。他の侍女達が先にお湯を運び、着替えの準備をしていったが、肝心の侍女頭がまだ来ていない。他の者に手伝いを命じてもいいが、医師に確認すると言った彼女の気遣いを無下にも出来ない。


 やっぱり身体が疲れているのかしら。早くお湯で温まりたいですわ。


 そう思いながら、彼女が戻ってくるのを待つ。


 コンコンッ


「入って。時間がかかったの……ね」


「ぐぬぬ、カ……レン様……お待たせしてしまい、申し訳……ありません」


「えっ、あの、それは……」


 カレンは見たこともないほど巨大な瓶を、なんとか両手でふらつきながら運んでくる。


「ハァハァ……あの男のっ、いえ、ヤドラ医師のご指示で、お湯にこちらのっ、ハァ……薬を混ぜ薬湯にするようにと」


 息を切らしながらも、緑色の液体をドバドバとお湯に入れていく。


「そう、それで……こんな重いものを1人で?」


 リドル家には多くの使用人がいるはずだ。こんな重たい瓶を、それも侍女頭が運んでいようものなら、誰かが声をかけるはずだ。それ以前に、ミクリが指示をすれば代わりに運ぶ者などいくらでもいるはずだ。


「はい。あのおとっ……ヤドラ医師がカレン様のもとへ持っていくと聞かないものですから……あの破廉恥男は!! ヤドラ医師は……絶対に下心があるはずです!!!! いいえっ、なくてもこれから入浴をするカレン様のお近くにあんなケダモノを近づけるわけにはいきません。私が運ぶといった手前、他の手伝いを頼むわけにもいかず……お時間がかかってしまい申し訳ありません」


「いいのよ。なんとなく分かるわ」


 あぁ、きっとなんとか振り切ろうとしたけど、ずっと着いてきて他の人に頼むに頼めなかったのね。


「…………それにしても、これは入っても大丈夫なのかしら?」


 なぜか少し冷えたはずのお湯が、瓶の薬を入れると温度が上がったように蒸気が増え、緑色のお湯からはハーブの香りとは別に、嗅いだことのない臭いがする。


「それは大丈夫です。ヤドラ医師は旦那様が認められたこの国でも指折りの名医ですから」


「っ!! ふふふ」


「どうされましたか?」


「いいえ、そうね。なんだか身体に良さそうだわ」


 

 冷えていたわけではないが、身体がお湯にじんわりとほぐされていくような気持ちになる。


 なるほど、確かに薬湯ですわ。身体中が温かくなっていくようですわね………というよりも、どんどん身体が熱くなってきたような……


「はぁ……はぁ」


「カレン様? どうかされたのですか?」


「なんだか、身体が熱いような……」


「まだ入ったばかりですが……っ!? カレン様!! お顔が真っ赤に!! すっ、すぐに上がりましょう」


 ミクリが慌ててタオルを持ってくる。









「カレン様のお薬に何を入れられたのですかっ!?」


「この私が悪いものなど入れるわけないだろう。疲労回復とお肌の美容効果、頭痛改善に便秘解消、食欲増進、安眠促進、それ以外にも高血圧、心労、胃もたれ、免疫向上……」


「分かりました。あなたの医師としての腕は信用しています。ですが、現にカレン様のご状態は苦しそうで……」


 慌ててお風呂から出た後も、カレンの状態は良くならない。それどころか胸を苦しそうに押さえている。


「うぅっ……」


「うーーーーーーん、薬の効果を抑え込んでいるのでは? まだカレン様の診察を直接したわけではあひませんので断言できませんが。ちょっとどいてもらっても……」


 ミクリに呼ばれるも、なぜか中に入らせてもらえない為、かろうじて横たわっている様子のカレンを遠目からしか確認出来ていない。もっと近くで診ようと足を入れようとすると、全身でミクリがそれを阻止する。


「ダメです!! まだ……旦那様にご報告していないんです。なので、たとえヤドラ医師であろうと、旦那様の許可なしにカレン様の診察は許されません」


「?」


 一瞬、侍女頭の言っていることが理解できなかった。真っ先に公爵様に報告するのでは? 当然、薬を提供した自分が責められるだろうが。そして、もし状態が良くならなければ地下牢に閉じ込められ、尋問にかけられる可能性もないことはない。公爵様の冷酷な部分なら理解しているし、身近な者からの暗殺に何度もあってきたのだから仕方がないことなのだろう。


「私を心配してくれたのか?」


「……違います。一刻も早くカレン様を診て頂きたかっただけです。それで、薬の効果を押さえ込んでいる、とはどういうことですか?」


「効能の1つに自白剤が入っているんだ」


「はい? あなた……カレン様になんてものを……やはりすぐに旦那様に報告すべきでした」


 罪人に使われるそんなものを使うだなんてと、信じられない表情で侍女頭は睨んでくる。


「いや、待て。そうじゃなくて!! ほら、まだここに来たばかりらしいから、きっと言いたいことも言えないだろうかなと思ってね? 自白剤って言ったけど、そんな強制的なものではなくて……ほんの少し気をゆるめられたらなぁ的な? ほら、心を開いてくれたら早くこの屋敷に打ち解けられるんじゃないかという私の配慮的なね!?」


 


 

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