勘違いと甘い公爵
なんですの!? なんですの!!?? なんなんですの!!!!????
ウェイド公爵は軽い食事を自ら運び、驚くことにそのスープを食べさせようとしてくる。
「あっあの、ウェイド様? そんなこと……」
「ん? 熱くないよう少し冷ましている。心配なら僕が先に確認しようか?」
スプーンを唇に近づけ、もう少しで触れてしまうのではないかという距離でこちらを見る。運んできたカトラリーを見る限り、予備のスプーンはないように見える。
そんなことをしたら、間接キッ……
「いいえっ!! 自分で食べますので!!」
「そうか……ではベッドに座りながらでは食べにくいだろう? 僕の膝の上に座って……」
「全く問題ありませんわ!!」
どういうことですのっ!? ウェイド様が私のお世話をするだなんて何か秘密裏に今後の相談をするのかと思っておりましたのに、全くその気配がありませんわ。それどころか、この笑顔はなんですかっ!? こんなキラキラした表情されても分かりませんわ。何を察しろということなんですか!? いいえ、諦めてはダメですわね。既に分かりきったことをわざわざ口に出してしまったせいでご不快にさせてしまっているんですから。ここで私が安易にその真意を尋ねれば、今度こそ見限られてしまう可能性も……まさか、私は今試されているのでは!? そうですわ、空気を察して周りに知られることなく自分の要求に応えよと!! そういうことですのね!!!!
これは……そうですわ!! リドル公爵家の当主様が、婚約者との関係が実は偽装状態だなんてスキャンダルですものね。まずはその練習といったところでしょうか。
妻はビジネスの場に直接出ることはないが、夫婦仲の良さは一定の信頼関係に影響をもたらす。特に、ウェイド公爵のように外国との交流にも積極的に参加するとなれば、夫婦同伴のパーティーにお呼ばれされることも少なくない。妻同士の円滑な交流も、夫側からすれば重要な情報源になるのだ。
「…………いえ、やはりお願い……しますわ」
「? あぁ、パンを追加してこようか?」
「そうではなく、その……お……お膝……」
「ん?」
「おおおおおお膝に……」
「膝?」
試されてます。今、確実にウェイド様は私の演技力を試されておりますわ!! ここでお膝に乗せてくださいと言わなければ!!
「おおおおおおおおお膝にっ!! 何か、ブランケットを……お願いします」
「分かった。すぐに用意させよう」
失敗ですわ。
そもそも、フリとは言えこんな恥ずかしいことを皆さんされているのでしょうか。ずっとエル様のことを想ってきただけに、他のご令嬢とのお茶会でもまともに深い恋愛話をしたことがありませんわ。
わざとそういう類の話を避け、恋愛には興味のないスタンスを装ってきていた。
「……あの、ウェイド様」
「まだ寒いか?」
「いえ、温かいですわ……その、皆様への御礼状を書くのは執事の方にお願いしますわ。その代わり、どうしても直接お礼したい方をお呼びしたいのですが……」
ブランケットを膝にかけ、優しく微笑んでいた公爵は一瞬眉をひそめる。
「……まだ十分に休めていないだろう? 無理は……」
「お茶会といった大がかりはことは致しませんわ。出来れば妻としての今後の相談を、そうですね、ニーナ伯爵夫人にお願いしたいですわ……確か、彼女の夫のエ……ブラン伯爵と今後会われるのですよね? その時一緒に夫人に来ていただけると私としても嬉しいのですが」
よしっ、こう言えばウェイド様も合格点出してくれるのでは!? 彼女との親睦を深め、そのお姿を少しでもその瞳におさめたい……そのお気持ち、とてもよく分かりますわ。そして、これこそが私のミッションでございますわよね。あくまでも、私のわがままで、そして次期公爵夫人としての配慮も忘れずに自然にその流れを持っていく。どうでしょうか!?
「…………」
「…………」
「……分かった」
やりましたわぁ!!!! あぁ、ようやく、この屋敷に来てようやく私の立ち回りが分かってきましたわ。
「ただし、もう1週間は休んでからだ。彼を呼ぶのもその頃にしよう」
「ご配慮ありがとうございます」
分かってますわ。急に会うだなんて心の準備が必要ですものね。私も、またエル様に会えるだなんて、今から身体が熱くなってしまいますわ。
「カレン様、もうお身体はよろしいのですか?」
「えぇ、大丈夫よ。心配かけたわね」
さすがに夜の寝床をまだ一緒にするわけにも行かないので、夕食までウェイド公爵からの手厚い看病をしてもらったあと、客間へとミクリが迎えにくる。
「申し訳ありませんでした。私がカレン様の体調を気をつけて配慮すべきでしたのに……」
「もうその話はなしにしたはずでしょう? それに、まだ担当侍女でもないのだから、あなたが気にすることじゃないわ」
まだ私は立場上お客様なんだから。
本来、自分の屋敷から連れてきた侍女たちがこの期間お世話を担当する。
その彼女達を誰もつれてこなかったのは私の判断なんだから、気にすることではないのだけれど。
一見明るく振る舞っているが、まだ落ち込んでいるのが分かる。
「……もう時間も経ったし、お湯の用意を部屋にしてくれるかしら? 身体を洗ってくれるのを手伝ってくれたら助かるわ」
「っ!! かしこまりました…………念のため、ヤドラ医師に確認して参ります」
一瞬、苦虫をかむような表情でヤドラ医師の名前を口に出すが、それ以外はしっかり仕事モードで気持ちを切り替えられたようだ。




