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3話 悲しい恋


「で、なんだよ。」

「お時間をとっていただき、ありがとうございます。」

「段取りはいい、オレとトコロの蜜月邪魔してんだから早くしろ。」


 トコロと二人で帰ろうとしていたのに、この男に邪魔されて滅法機嫌が悪い。


(てか、墓参りの帰りに声かけんなや。)

「以前も話したように、我々使節団は天与の力を世界のため、平和のために行使しようという目的のもと活動しています。」

「あぁ、そうだったな。」


 ここの兵士たちとはそれなりに会話している。植物の生態なり、分布なり、危ない区域なり......


「あなたとゴサクラ様は、婚約者ではないんですよね?」

「は?なんだ急に。」

「真剣な話です。」

「......あいつ本人が断っているんだから、もう理由はそれでいいだろ。」


 トコロは先日に限らず、何度も断っている。

 それにいくらあいつでも.....


(あんな大昔の約束を覚えているわけもない。)

「.......彼女があなたに好意を寄せていることは明白です。そして、あなたも然り....」


 真剣な顔で柄にもないこと言いやがったこいつ。


「村の方々にも伺いましたが.......相思の仲にもかかわらず、あなたは婚姻や交際を明言していない。」

「あぁ、そうだな。」

「それはなぜですか?」

「別に理由なんて.......つか、アイツがずっと言ってるだろ。」

「あなたに聞いているんです。あなたは、彼女への好意はともかく、交際の名言はしていない。違いますか?」

「それは.......」


 言い返してやろうとか思ったが、けれどなぜだか言葉が出ない。


「もしや.....それは、彼女への劣等感や、あるいは......」

「ーっ!」


 自分でも指摘したくなるほど、わかりやすい動揺を見せてしまう。


「彼女はあなたに好意を寄せている。そして、同年代の相手は互いだけ.....聞いたところによれば、昔からの付き合い出そうで。」


 誰だ、そんなペラペラ人んとこのプライベート話しやがったのは。


「あなたは.......自らが釣り合わないと思いながらも、現状にかまけている。」

「やめろ。」

「否定はなさらないんですね。」

「っ..........そりゃ否定できるかよ。アイツは面も良くて、スタイルも良くて、優しくて、強くて、ふとした仕草が可愛くて.....そんで......」


 あげ出したらキリがない。だが、オレは.......


「彼女は、あなただけが世界、全てと言っています。その想いは大変素晴らしいでしょうしかし.....」

「.....」

「本当に、もしこの海によって閉鎖された国....このヤマト村から出ても、彼女は同じことを言えますか?」

「それは......」

「貴方も学問や研究に携わっている。ならば、貴方自身も理解できるはずです。」

「........」

「彼女の世界を、貴方が縛り閉ざしていると。彼女に、貴方以外のいる世界を見せようとしていない。」


 人がずっと気がかってたことを、ズケズケと言いやがって。


「お世辞ではなく、貴方の学問や研究に関する腕や頭は十分、我々にも近い水準にある。同伴はできなくとも、彼女とともに使節団の一員としてその力を役立つことはできるでしょう。」

「役立てるって...別に、オレは....」


 世界のために、ひたすら本を読み耽ってたわけでも、そこら中を探検してたわけでもない。

 ただオレは.........


「仮にだ。もし仮にオレが納得しても....…結局アイツは残るだろ。参加するって言ったとしても、意地でもオレを連れてこうとさせる。()()()()()()()オレのこと大好きなんだから....」

「えぇ。ですね。しかし、その大切な貴方から.....同伴を拒まれれば、どうでしょうか。」

「は?」


 オレがアイツを拒む?そんなん、天地がひっくり返ってもありえないだろ。


「もし、彼女が本当に大切なら.....彼女を自由にするべきではないでしょうか。」

「っ......」

「貴方自身、そういった負い目があるのなら........少し考えていただきたい。世界のため、平和のため......あるいは、彼女が相応しい相手と幸せを築くために。」


 ファラリウスは静かに、そして少し力強い声でオレに訴えかける。眼差しを揺るがせず、最後に続けてこう言った。


「貴方に好意的な者は使節団にいます。もし必要であれば、いつでも見合いの席を設けましょう。では......」


 そして後は、何か言うわけでもなく立ち去っていった。


「............何が好意的だクソが。」


 苦し紛れに呟くものの、この日の会話がひどく頭にこべりついてしまった。

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