0話 君との思い出/お前との日常
ジャンルはファンタジー?冒険もの?かな。
異世界転生ではない。
今回は主人公2人の関係性の話です。
「おおきくなったら、けっこんしよう。」
それは何も知らない時の思い出。ただただその瞬間に芽生えた純粋な心情だけで交わした約束。大人になる頃には、当然忘れてしまうような、そんな約束。もう覚えているはずも無い約束。
それでも、ボクは.................
★★★★★★★
「ん〜…………ふあ〜っ、はぁ。今ぁ何時だ?」
温かい日差しが、窓から流れ満ちてくる。そのぬくもりと眩しさが朝を告げ、オレを叩き起こす。もう少し寝かせてくれよ。
「母さん畑かな。」
寂しげな寝床からキョロキョロと周りを見るも、優しい母さんも、飲んだくれのズボラ親父もいない。
外を確認しようと思い、戸に手を添える。
「お早うツガル。お母さんなら、ついさっき出かけていったよ。」
「おう、出たな。」
「朝から随分な挨拶だね。」
戸を開けると、待ち伏せしていたかの様に佇む女性が一人。穏やかな表情でこちらを見る。
「早う、トコロ。」
「うん、お早う。」
「今起きたばっかだから、のんびり行って来い。」
「あぁ、有難う。これ、来る前に獲れた魚。」
「お、悪いな。」
受け取った魚を台所の卓に乗せたあと、手と顔を洗い、口を濯ぎ、寝巻きからぱぱっと着替える。
「ついでにこれも持ってって。」
「はいっ」
脱いだ寝巻きをトコロに渡す。彼女がそのまま湯浴みに行っている間に、朝食の支度をする。
「すぅ~……はぁ~…」
「おーい嗅ぐなー。」
窯に火を点け、熱が広がって行くまでの間に、母さんが収穫していた野菜とトコロから受け取った魚の下拵えを済ませる。
(魚の他ん所は保存食にでもするか。)
井戸から組んできた水を鍋に注ぎ、窯の上に置く。煮立ってきたら魚の頭と野菜、味噌をぶち込む。網の上に、処理をした魚の切身を乗せ、窯ん中へぶち込む。昨晩の残りの白米を、とりあえずお椀にぶち込む。
トコロが湯浴みから上がり、同時くらいに調理を終える。コップで水を汲み、茶碗に汁物を注ぎ、皿に焼き魚を乗せ、二人分の食事を並べる。
「良い湯だったよ。」
「そうか。けど、もう少しあったまってきても良かったんじゃないか?外で待ってたんだろ?」
「いいよ、せっかくの料理が冷めてしまうからね。」
「あー…風邪引かねぇようにな。」
凛とした穏やかな表情で応える彼女に、少し呆れ気味な心配をする。ほぼ毎朝、刀の鍛錬や水辺での狩猟をして汗を流した後、今朝のように外で待っている。
十余年の付き合いになるが、具合を悪そうにしている所を滅多に見たことがない。天賦の生命力だろうか、それとも整えまくった生活習慣を続けているのだろうか。
はたまたオレが知らないだけなのだろうか。
「そうだ。たまには一緒にはいらないかい?君が十歳の頃迄は一緒に湯船に浸かっていたのに、最近はもうこっきりないじゃないか。」
「八~九年も前と今を比べんじゃあないよ。
早よ食え、冷めんぞ。」
「うん、いただきます。」
「おう。お上がれ。」
静かに、御菜と米を口に運ぶ。オレも同じ様に食事を始める。我ながら上手く出来たのではないだろうか。なかなかに美味い。
「今日も美味しいね。」
「ん……」
紅みを宿した艶やかな黒髪。長いその髪の後ろは一つに纏められ、頸が顕となっており、その紅みもあって美しさだけでなく勇ましさも感じられる。引き込まれる様な、深くそして鋭い瞳に、随分とまあ長い睫毛、そして整った眉。活々とした張りの有る健康的な肌。シュッとした鼻に、可愛らしい耳。口元は、なんというか、色気がある。
「じっと見つめて、どうかしたのかな?」
「あぁ。見惚れてるだけだから、気にすんな。」
「おや、有難う。」
コップを手に取り、溢れてしまいそうな褒め言葉共を流し込む様に水をガブ飲む。コップを覗く様に目を向けると、底に薄く貼った水面に一つの顔が映る。
焦茶で耳に被さるくらいの長さがあるボサボサの髪。その下には、大きな目、くっきりと濃い眉、一重の下にある短い睫毛。更には存在感の無い鼻と不機嫌そうな口が並んでる。
直前に彼女を見たということもあり、視界に入ったこの男が一際冴えなく見える。
(なんだ、このちんちくりん。)
★★★★★★★
深い茶色でフワフワな髪に、ぱっちりとしていて、そして透き通るような瞳。小さい鼻と口、もちっとしていそうな、でもしっかりと引き締まった美白の肌。その容姿は、いつまでも純粋な彼自身を表している様な、そんな印象を与えてくる。今直ぐにでも飛びつき愛でたい。
「ん?どうした。」
「惚れていたよ。」
「はいはい。ほれ、水。」
「あぁ、有難う。」
追加で注がれた水の面に、一人の女性が映る。
男か女かわからない中性的な顔に、雑に束ねられた少し紅い黒髪。鋭い目付きと相まって、どことなく怖い印象を与えてしまう。
(誰だろうか、この美形。)
「……」(あぁ、)
「……」(あっ、)
(あれオレか。)
(これボクか。)
コップを静かに置き、一息つく。
(いくら湯浴みの直後とはいえ、多少は化粧の一つでもしたほうが良かったかな。)
(湯浴みしてる間に、もう少し面ァ整えてたほうが良かったかもな。せめてもう少し髪を……)
この反省は何度目であろうか。けれど、つい手を抜いてしまう。否、気を抜いてしまう。特別見栄を張る様なこともせず、何か特別なことに期待もせず………この他愛も無い、些細なやり取りが心地好い。
「あぁ、そうだ。この後時間あるかな?」
「ん?あるよー。何ぃ、デート?」
「そ。近くの林で、花が咲いていたんだ。初めて見る種類だから、君にも見せたくて。」
「あいよ。」
彼は優しい声で答えた。談笑を続けながら食事を進めた
そのあと、彼が湯浴みを済ませて、身なりを整えるまでの間に食器を片付けた。
「あぁ、あと.....…また妖が出たそうだ。用心しよう。」
「マジか」
刀を携え、ツガルの隣に立つ。
彼も籠と本を手提げ、僕に添う。
「じゃ、行こっか。」
「ん。」
読んでくださりありがとうございます。100話くらいで完結の予定です。バトルもあります。