遺跡の異物
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異物と呼ばれたその玉は、王都の遺跡から発掘される。
三大大国の一つ、オスルレイス王国。大陸全土を襲った大地震。
人的被害は少なかったものの、大国内に数多くある各地の遺跡は崩れ落ち復旧作業が行われていた。他の国にはない数多く古代遺跡を有する王国は観光事業に大打撃を受けることとなる。
だがそれらの復旧作業を見ようと新たな観光事業として多くの見物客を生んだという。そんな復旧工事の中、王都スレイス内の遺跡で数十個の謎の玉が見つかった。発掘されたのは青白く光る手のひらサイズの数十個の玉。
最初にそれに直接触れたのは、遺跡内に仮設された詰所の所長である。集まった玉を確認しようと作業用グローブを外し玉に触れ……次の瞬間、玉からは蛇腹のような何かが伸び所長の全身に絡みついた。
恐怖で叫ぶ所長は数秒後には体中をその何かで蹂躙され、周りにいた他の作業員を驚かせた。
そして所長だった何かは、全身を固い金属に覆われ甲高い奇声を上げた後、近くにいた副所長の体を拳で貫いた。
阿鼻叫喚となり詰所から逃げ出す作業員たち。近場に設置さらら詰所に配備された警備員に助けを求めた時には、壁を破壊して出てくる所長だった物体が警備員に迫ってきていた。
警備員の1人が恐怖に駆られ、腰に下げていた銃で発砲する。物体の腹部に当たった銃弾はカツンという甲高い音をさせるだけだった。
無意味と思われた発砲により、少なくともその物体の足をとどめることができていた。その隙にもう一人の警備員が、備え付けられたレーザー砲を取り出しその封を解く。
恐怖のためかおぼづかない手を必死に動かし、その封が解けるのと物体がこちらに迫ってくるのはほぼ同時であったが、幸いなことに一瞬早く引き金が引かれレーザー砲から放出される光の束により、その所長だった物質の胸は打ち抜かれた。
その後、知らせを受けた王国により警備兵と共に研究員も派遣され、その玉は厳重に保管された。当然の事ながらあの変わり果てた所長の遺体も回収されたが、やはり全身が隈無く金属と変異していたことしか分からなかった。
事件から1年。各地ではその"異物"がいくつも発見された。王国は異物により変異してしまった者を“変異者”と呼び人権が剥奪され即座に破壊されることになった。
すでに遺跡の復旧作業には、万が一に備え警備員が常にレーザー砲を携帯しながら巡回することが義務付けられ、出土した異物は厳重に保管されていた。
そんな中でも事故は起こる。偶然落ちてきたものが顔に、あるいは熱さから袖をまくっていた者の腕に、またある時は好奇心から……そのたび現場は大混乱となったが、警備員のレーザー砲により変異者は即座に破壊されていた。
変異者の中には、左腕に大きな筒を携え拳大の岩の弾丸を放つ者、両足から噴き出る炎で高速で動き回る者、大声で周りの動きを封じる者もいた。これらは変異者の固有の能力なのだろうと結論付けられた。
遺体の研究の結果、変異者の構造は様々でありその固有の能力は軍事転用できそうなものでもあった。当然その全ては王国により秘匿されていた。
そんな中、王都から遠く離れた王国の西、クラークという田舎町にある遺跡で新たに4つの異物が出土した。その現場作業員、新見義人はその異物の1つをポケットに忍ばせていた。
新見義人は高校を中退し、素行も悪く22才となる現在まで女に金を集り生活してきた。
そんな彼が遺跡の復旧工事に日雇いで入り込んだのは彼なりの目的があった。キツイ作業を終え、日当を受け取った新見は繁華街へ足を運ぶ。そして酒を飲み気分を高揚させていった。
新見は飲み続け、すでに日当ばかりか持ち金を越えた金額を飲み続けている。
お酒の味など対して分からぬ新見だったが、"高いからうまい!"そう思って高い酒を飲み干した。途中吐き気を覚えトイレに駆け込むと、すっきりしてはまた飲んでという大豪遊。
新見は人生で一番と言って良いほどの幸福感に包まれた。そんな新見の幸せも、裏から出てきた大男により現実へと引き戻される。
新見の前に立ち、「お客様、大変お飲みになっておりますが、会計の方は大丈夫でしょうか?」と笑顔でそう言う大男であったが、その目は笑っていない。
「そろそろ頃合いか」
ぼそりと呟いた次の瞬間、新見はポケットに手をつっこむと奇声を放ちながら立ち上がった。
『あ”あ”あ”あ”あ”ーーー!』
機械音のような奇声で叫んだ新見。全身の痛みを全て吐き出すように叫び続けた後、新見の頭がすっきりと覚醒する。押さえつけようとした男の首は無残にも握り潰されいた。
大量の血しぶきに賑わっていた店内が大混乱となる。
すぐに裏から警備員が店に備え付けてあるレーザー砲を持ち身構える。繁華街のお店なら強盗対策にレーザー砲を常備するほど物騒な世の中だ。
そんなレーザー砲を向けられた新見は……機械となった口元を緩ませる。
◆◇◆◇◆
つまらない人生に自暴自棄となり"もう死んでも良いかな?"そう思っていた俺が、最後に華々しく歴史に名を残そうと思って行動した結果がこれだ。予想に反し意識がはっきりと残っている。
現場の噂では変異者は全身が機械の体となり、内臓はおろか脳なども見当たらず、王国でも未だに詳細が分かっていないと言われているにも関わらずだ。
今まで破壊された変異者についても同じだったのか?いや違うな。今までの変異者は一辺倒に破壊を繰り返していたはずだ。少なくとも話に聞いた変異者はそうだった。
俺は冷静に周りを見渡し、警備員の男がこちらに武器を向けているのが確認できた。視力も向上したようで、その警備員の手元まではっきりと見ることができた。
あの先からまっすぐに放たれるだけの武器なのだろう?
警備員の指の動きに合わせて少し横へと移動する。直後に放たれたレーザーは背後の壁を破壊した。
体も良く動く。両足に力を籠めてその警備員の元へと駆け出すとその首を掴みねじり切った。
『あ”ーー!最高だ!』
俺の口から機械音のような声が発せられていたが、何もかもが機械になっているのだから当然なのだろう。違和感を感じてしまうのは、この心が俺自身のものだからだと実感した。
もう一度、足に力を籠め繁華街の壁を破り地面に着地する。3階の一室だったはずだが俺には問題の無い高さだったようだ。さらに気持ちが高揚する俺は保管所に向かって走り出した。
まだ回収されてなければ、保管しとくならここだな。現場に戻ると詰所の中にある金庫の前に立つ。
俺の蹴りにより大きな音と共に金庫の口がひしゃげ中が見え、3つの異物は残っていた。
試しに指で突いてみたが、何も起きないことに少し残念に感じた。さらに異物を取り込むこみパワーアップするかも!と思ていたがどうやらそうはならないようだ。
だが考えてみれば再度の変異で今度こそ意思のない破壊者と変貌することもあったかも……その可能性に気付き身震いした。
俺は3つの玉を持ち出し、隣に立てられている建物へと入る。街に戻らずに暮らす奴らが寝泊まりする場で今夜は5人が眠っていた。
その中の1人の顔に異物を押し当てる。途端に蛇腹なような管が伸びその男の全身を貫いてゆく。叫ぶその男はあっと言う間に変異者へと変貌した。
そして俺の前に片膝をつき頭を下げた。
どう言う事だ?こいつも意思を持ち俺の下に付こうと頭を下げている?
俺は目が覚め騒いでいる他の作業員達の命を拳で奪いながら『何か言ってみろ』と話しかけた。
しかしその変異者からは何も返ってはこない。試しに頭を殴ると『ガッ』という声が出たので話せないわけでは無いようだ。
なんなんだこいつ!そう思った時、その変異者に重なるように何かが見えた。
<L1/飛行>
意味が分からない。
俺は『飛んでみろ』と声を掛けた。馬鹿みたいなことをと思ったが言わずにはいられなかった。
そして目の前の変異者は背中の出っ張りから青い火を噴き建物の天井を破り空へ飛んだ。
俺は戸惑いながらも『もういい!降りてこい!』と命じるとそいつはゆっくりと降りまた膝をつく。
変異者はそれぞれ別の能力があると聞いたな。こいつの能力は<飛行>というわけだ。じゃあ俺は?俺の能力はなんなんだ?そう自問した時、目の前に表示が現れる。
<L1/支配>
そう言う事か……自分の能力を確信した俺は目の前の変異者、飛行男に『付いてこい!』と命じ外へ出る。
再び街へと繰り出すと薄暗い路地には女が2人。俺は異物を女の1人の顔に目掛けて投げつけた。
異物をぶつけられた女が「ぎゃ!」と悲鳴が上げるやいなや、変異者と変貌し、俺の元にやってきて片膝をつく。やはり変異者は俺の支配下にあるようだ。
もう1人の女は混乱しながら叫んでいる女を指差しながら、飛行男に異物を渡して顔に押し付けるよう命じた。
黙って受け取る飛行男は、怯える女の顔に異物を押し付けると、奇声を発し変異者と変貌した。そして女は……目の前の飛行男に殴りかかっていた。
ガシンという大きな音がし吹き飛ばされる飛行男。その勢いのまま俺にも向かってくるその変異者の拳を慌てて避ける。チラリと確認すると<L1/剛拳>というのが見えた。
剛拳女か……飛行男は左肩がかなり損傷しているようだし、あの拳は危険だ。
だが今ので俺自身により異物を接触させねば支配は発動しないのだろうという事も理解できた。俺は女の拳を躱し左胸を殴りつけ、バキンと言う音と共に剛拳女は崩れ落ちる。異物は心臓部分に定着すると言う話は本当だったようだ。
次の瞬間、倒れ込んでいる剛拳女だったものから何かが流れ込んでくるのを感じた。
<L2/支配/剛健>
これは、力を吸収したという事か?L2はなんだ?ライフ?レベル?良く分からないがパワーアップしたという事だろう。この調子で必要な能力を奪っていけば最強になれる!そう思った。
そう言えば、と俺は慌てて飛行男を見る。剛拳女は俺の一撃でも破壊できたんだ。剛拳により殴られた飛行男は破損しているに違いない。飛行の能力が消失されるのはどう考えても損失だ。
そう思ったのだが、予想に反し飛行男はまだ動けるようで俺の前にまた膝をつく。咄嗟に俺が『避けろ!』と叫んだからか致命傷では無かったと結論づける。そんな飛行男を……俺は蹴り上げ破壊した。
<L3/支配/剛健/飛行>
これは良い!思いのままに空を飛び気持ちが高揚する。そして地上にいる女を見ると、能力は<跳躍>であった。
ちっ!この力は要らないな。そう思いながらただ一人残った跳躍女に『付いてこい!』と命じ俺は王都へ向かった。
王都には大量の異物が保管してあるはずだ。全て奪って俺が有効に活用してやる。俺は気分よく歩きだした。
◆◇◆◇◆
俺が力を得てから一年。王都へ向かう途中の街でも異物を回収し下僕と能力を増やした。
新たな能力は熱波/風牙/見切り/電撃。下僕とした変異者は跳躍女の他に、熱源、塩水、轟音の能力持ちだった。被ったり不要だと思った能力持ちについては下僕にしている。
王都の保管所は厳重な警備となっていたが激しい戦闘の末、保管庫近くまでたどり着いた。自棄になった警備兵20名ほどが保管庫にダイブし敵味方無く混戦となってしまった。
その騒動で、下僕の<塩水>持ちが破壊され、俺自身も一度攻撃を受け左足を損傷したがそれはすぐに修復された。かわりに<見切り>が消失しL7がL6となった。警備員の予想外の展開に呆気に取られて反応が遅れた俺のミスだ。
その後、他の警備兵により保管庫を爆破され、大量の異物が消失したのがさらに痛かった。それでも数十個の異物が確保でき、爆破に巻き込まれずに生き残っていた10名を新たな下僕に加えておいた。
その中で<堅牢>という能力は取り込んでおいた。
こうして12名に増えた下僕に命じ、遺跡の周りにバリケードを作る。それが終わると近場から人を攫わせ別室に押し込めておく。俺はもっと強くなる!そう思うと夜は中々寝付けなかった。
翌日。並べられた25人の老若男女。性別や年齢により何かしらの法則性があるか知りたかったこともあり、俺自身で対象者を餞別した。あぶれた者たちは手足となって働くか死かを選ばせた。
そうして変異者へ生まれ変わる儀式が始まった。
最初に『意志ある者は声を上げろ』と言っておいたが、3人目の男が『これが、俺か!』と声をあげた。その男は伊崎という男だった。使える能力は<豪脚>。
『伊崎、とりあえずこの場で待機だ。従わないとは言わないよな?』
『ああ。あんた……新見さんのそのL7ってのと、支配とかが能力って奴なんだろ?従わないなら破壊されるって言うなら俺は新見さんに忠誠を誓う』
賢明な判断だと気持ちが高ぶる。以後はこいつに細々した指示を出せば楽ができる。
儀式は進む。変異した途端に膝を付く者には能力を使わせた。6人目には<迅速>という能力持ちが出たのでその力を奪った。ほんの数歩ではあるが瞬間移動したような速度で移動ができた。戦闘にも役立つだろう。
そして最後の1人も終わった。使える能力は<分離>。能力を使うよう命じるが、そいつは首をかしげるだけだった。
『ちっ!能力の中身すら不明のクズか!まあ良い!これで充分な数は揃ったし、何人かで他の街を廻って異物を集めるさせるか……』
俺は伊崎に変異者の中から適当に5人選び隣街の保管所を襲撃するよう命じた。
◆◇◆◇◆
木村拓斗。15才。僕の父は王都で一番大きな遺跡の作業員、母はその作業所職員として働いていた。そんな両親が変異者により無残にも殺害される。孤児となり保護施設で暮らしていた僕は、変異者に当然ともいえる憎悪を抱いていた。
そして己の人生にも恨みながら暮らしていたある日、変異者によって身柄を拘束された。憎悪の対象となっていたはずの変異者もいざ間近で見ると震えが止まらず動けなかった。その心の弱さにもまた怒りを感じ自分自身を強く蔑んだ。
連れてこられた場所で新見という男に出会った。新見は並んでいる僕たちに『意志ある者は声を上げろ!』と命じ異物を押し当てていった。
1人が意志ある変異者として声をあげた。どうやら意思があったとしても奴隷のようにこき使われるのは変わらないようだ。支配やら剛拳やら何を言っているのか分からないが、彼らには何かが見えているのだろう。
さらに儀式は進む。速く動ける能力を持った変異者が新見に殴られ破壊された。何がなんだか分からないが会話を聞く限りでは有用な能力は破壊されるのだと感じた。
そして遂に僕の番となる。新見に異物を押し付けられ全身を貫かれる痛みの後、僕の視界はクリアになった。そして新見にかぶさるように文字が見える。
<L8/支配/剛健/飛行/熱波/風牙/電撃/堅牢/迅速>
途端に見えるようになった何かを眺め考える。あれが新見の能力なのだろうか?じゃあ僕は……
<L1/分離>
分離?何これ!って思ったけど、自然とこれがどういうものなのか理解した。これが僕の変異者としての能力……新見は僕に能力を使うよう命じたが素直に従う必要はない。そう思って首をかしげておく。
『ちっ!能力の中身すら不明のクズか!まあ良い!これで充分な数は揃ったし、何人かで他の街を廻って異物を集めるさせるか……』
新見はそう吐き捨てると、伊崎という新たに意思を持った変異者に他の保管所の襲撃を命じていた。僕もその手勢の5人に指名され、意思のないふりをしながら付き従っていた。
隣町の保管所まで移動する伊崎と僕たち。軍が残した車両乗っての移動により、すぐに隣街までついてしまった。保管所はどの街もバリケードができており、厳重な警備により守られているようだ。
本来であれば小さな町は他の大きな町まで異物を持ち寄り、保管を任せればと良いのだが、それを良しとしない自治体が異物を確保しているのだ。王都の一部を占拠した新見が"保管庫の異物を買い取る考えもある"と宣言していたと言うのも要因だろう。
『さてお前たち、こっから一気に保管所に行きそこに居る奴らをかたずけろ。場所はあそこに見える白い建物だ。俺がカウントダウンするからダッシュだ!分かったな!』
街の近くまでやってきた僕たちは、伊崎の指示で突入の合図を待つ。また、変異者により人々が殺されるのだ……思い起こされるのは両親の事。
『10、9、8……』と、伊崎のカウントダウンが始まった。
そして隣で膝をついている変異者に、僕はそっと手をおいた……
変異者の背中にそっと手をおいた僕は、能力である<分離>を発動する。頭の中の理解した能力との剥離は無く、隣の変異者から力が流れてくる感覚に少し気持ち悪さを感じた後、変異者だったそれは何も無かったかのように人の形を取り戻す。
さすがにそれは想定しておらず、戸惑いはしたが今はそれどころではない。音を立てないように気を失った元変異者をささえ寝かせると、次々に変異者を<分離>してゆく。その度に違和感を感じつつも無事に4人の変異者を分離した。
元変異者の1人の胸が上下に小さく動いている。ちゃんと息があるようだ。これが僕の能力……
<L5/分離/跳躍/冷気/鈍痛/開錠>
そして『3、2、1……そら行きやがれー!』と、伊崎のカウントダウンが終わり保管所の方角に指をさし叫んだ。だが叫んだところで応える者はいない。
伊崎は振り向き『おい!どうしたお前た……』と口にする間に僕は腹部に手でふれた。崩れ落ちる伊崎を放置し大きな息をはく。僕の能力があれば、変異者から能力を奪い、人へと戻すこともできるのだ。
変異者を元の形に戻すことができる自分の能力に、憎悪の対象だった異物に勝った気がして心が少し軽くなる。だが全ての憎悪が無くなりはしない。
両親を殺した元凶の異物。その力を使い好き勝手やっている新見から、能力のすべてを奪うまで僕は力を蓄えよう。そう思って来た道を折り返すように走り出した。
新見が拠点としている王都の保管所まで戻ってきた僕は、暫く様子を伺っていた。
僕たちが戻ってこなかったことに新見は数日不機嫌に怒鳴り散らしていたが、今はソファにふんぞり返るように座り、豪華な食事を吸収している。雑務を行う人により調達されたもののようだ。
基本今の僕たちは外気からエネルギーを取り込んでいるようで、草木からも多くのエネルギーを吸収できる。調理された料理からは多幸感と共にエネルギーを吸収することができるようだ。
だが多くのエネルギーを吸収したからと言って強くなる訳ではない。あぶれたエネルギーは多幸感へと変わる一種の麻薬のようなものなのだろう。
新見の満足そうに吸収しているそれを羨ましく思いつつ、新見の見えない範囲にいる変異者を探し、一人、また一人と<分離>する。
中にはすぐに意識を取り戻した者もいた。怯える元変異者に話を聞くと、どうやら変異していた際の記憶はあるのだと言う。元に戻ったことに感謝してまだ意識のない者の保護と説明を任せた。
その夜。新見は減った変異者に困惑し再び怒鳴り散らしていた。
その際に何人かは破壊され、新見はさらに能力を上乗せしていた。それほど脅威になる能力では無かったが新見のように複数の能力があるのであれば、何度も<分離>する必要があると思われた。
改めて慎重に行動する必要性を感じ、気持ちを押さえこんで<分離>する相手を選別しつつチャンスを待った。
潜伏しながら新見を見張り2週間。下僕として残っている変異者たちにより、3つの街から50近くの異物が集められた。僕は凶事の全てを拳を握り締め耐え忍んだ。
今はまだ動けない……新見は新たな能力として、氷弾、透視、硬質化、豪脚、衝撃波を得ていた。
<L13/支配/剛健/飛行/熱波/風牙/電撃/堅牢/迅速/氷弾/透視/硬質化/豪脚/衝撃波>
範囲を広げれば異物はまだある。遺跡を掘れば新たな異物が入手できるだろう。新たに出土した20個ほどの異物も次々と使われる中、僕はこっそりと新見が取り込まなかった、だが有用な能力を持つ変異者を<分離>してゆく。
<L10/分離/跳躍/冷気/鈍痛/開錠/豪脚/霧雨/電撃/剛拳/操糸/安眠>
もう良いだろう。そう思った僕は新見たちが寝静まった夜中に行動を開始し、30人以上の変異者を<分離>してゆく。途中、警備に当たっていた意志ある2人、中根と富田に見つかり戦闘となった。
この2人は新見の命令でいくつかの能力を吸収していて厄介だが、前哨戦としては良いだろう。
新見の機嫌を損ねないように大声を出さなかったことも幸いし、なんとか全てを<分離>することに成功した。最初に<分離>した際に続けて能力を奪おうとしたが、すぐに再発動はしなかった。同じ変異者からは凡そ1分程度の時間を開けねばならないようだ。
それが分かったことだけでも儲けもの。拠点から離れるようにして戦った結果、新見にばれることなく全ての能力を<分離>した後、2人を人へと戻すことができたので、<操糸>で拘束し、<安眠>で深く眠らせる。
2人の能力の内、爆炎と煙幕、突風はかなり有用だと思った。このまま一気に勝負して新見を倒すべきだろう。僕は新見の元に戻ると、異変を察知し目を覚ましていた新見に<霧雨>と<電撃>を放ち、<煙幕>と<操糸>により拘束、<分離>を使う。
奪った能力は<硬質化>だった。そのまま<剛拳>と<豪脚>で動けない新見を殴ると、新見も黙ってやられることは無く身をよじって致命傷を避けた後、<熱波>と<風牙>を放ち拘束から抜け出した。
僕の与えた破損により電撃、透視、飛行が無くなっていたようだ。
新見は現在L8だ。<分離>からの連打で押し切れば何とかなる。その時はそう思っていた。
突如新見の体がぶれ、目の前には赤い拳が見えた時には熱と痛みを感じ身構えるが、次の瞬間には青い拳により打ちのめされ、感じる冷気と痛みに吐き気を覚えた。
多数の能力が消えL32となった。何よりも操糸が消えてしまった事に歯噛みする。
<霧雨><電撃><煙幕>の三点セットの後、<冷気>により気温を下げ、新見の背後に回り込み<分離>と<剛脚>により蹴りつける。
奪った能力は豪脚。重複してしまったがそのお陰か新見を大きく蹴り飛ばすことができた。その攻撃で新見の剛拳と氷弾が消えていたのだから出来すぎだろう。
それでも<迅速>により距離を詰めてきた新見の赤い拳を必死に避け、再度蹴り飛ばす。
気持ちが高揚する。やっと異物への恨みを晴らすことができる……そう思って駆け出した僕は、横からの衝撃により吹き飛ばされていた。
その衝撃で<突風>と共にいくつかの能力が消えたがすぐに起き上がり体勢を整えた。その視線の先には2人の大きな変異者と、その1人に担がれている新見の姿が確認できた。
さらには突然出現した岩の塊により両足が拘束されてしまう。
邪魔をするのだから敵なのだろう。そう思いつつも『お前たちは何者だ!』と溢れる気持ちのままに睨みつける。
『こいつは俺たちが引き取った』
『今はまだ生かしておいてやる。意志ある変異者は貴重だからな。だが異物を持つのも、意志ある変異者がいるのも、王国だけじゃないってことを……よーく覚えておくんだな』
そう言って2人は飛ぶように逃げて行った。
僕は大声で叫び、そして立ち尽くすことしかできなかった。僕の中の憎悪はまだしばらくは消えそうにないようだ。
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