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父の言葉
カタリーナが兄の胸ぐらを掴んだ。
床に倒れる音が響く。
「やめなさい」
低い声だった。
父は怒鳴らない。
怒鳴る必要がないからだ。
「戦闘民族とは暴力集団ではない」
「我らは、戦う理由を選べる種族だ」
カタリーナは息を荒げたまま、睨み返す。
父は一歩近づく。
「カタリーナ。お前は叩く理由があったのか」
「怒りではない。誇りでもない。
守るものか。譲れぬものか。
それがあったのか」
腐臭をまとったアンデッドが地面を裂き、湧き上がる。
骨が擦れる音。濁った呻き。
カテリーナは目を閉じていた。
怒りではない。
恐怖でもない。
――理由。
父の声が胸の奥で響く。
「戦う理由を選べる種族だ」
次の瞬間、彼女の瞳が開く。
瞳が、刃のように光る。
「……ある!」
叫びは震えていない。
「この国を再興させる!」
ウォーハンマーを担ぎ、彼女は一歩踏み出す。
逃げない。
守るためでもない。
復讐でもない。
未来のため。
地を蹴る。
重い鉄塊が振り下ろされ、
最初の骸が粉砕される。
アンデッドの群れへ、
彼女はただ一人、切り込んでいった。




