地獄でメイド③
「全ては計画通りに!」
長い黒髪、鋭く青い目が光る、ダークブルーでメイド服の上からでも分かる、引き締まった体の女性が、重力に反しているかのように縦横無尽に飛び跳ね大きなハンマーでゴブリンを叩き飛ばしている。
何体も空に飛んだかと思うより先に地べたに落ち粘着した音がしたかと思うと、動かなかった。
「たくさんいますわねっ」
神業のように宙を飛び回るメイドが空からの溢れてくる魔物を見て苦笑いした。
「え?」
「レオンハルト…坊っちゃん?リーナお嬢様?」
穴の空いた車の天井からムーンサルトで飛び込んできたメイドが覗き込み、月明かりの中でパパタローと視線が絡み合った。その瞬間、時間が緩やかに流れたかのように感じられた。
着地すると同時に新たな敵を叩き飛ばしていた。
「え?メイドさん?」
「メイドさんがどうしたの?」エンジン担当のカリンが声をだした。
「えっと……メイドさんが助けてくれた。」
「なんでメイドさんなの!?」
「さぁ?」
「リディア。そっちは任せた!」
「わかりましたわ。カテリーナ。」
ライトブルーのメイド服を纏ったもう一人の女性、金髪に青い瞳のリディアが前に出た。ゴブリンが突進してきた瞬間、彼女は素早くステップを踏み、メイスを高く振り上げる。一撃でゴブリンの頭部を砕き、血しぶきと脳漿が飛び散った。
ゴブリンの一匹が彼女に向かって突進してきた。素早くステップを踏み、メイスを高く振り上げた。そして、一撃でゴブリンの頭部を叩き潰した。血と脳漿が飛び散りった。
「痛みはすぐに和らぎますよ」
そう言うと、倒れたゴブリンの目から光がなくなり静かになった。
リディアは飛び跳ねながら次々と敵を葬り、ノリシオも呼応して空から炎で焼き尽くす。ゴブリンの波状攻撃は勢いを失い、形勢は逆転した。
「いけぇーーー!ノリシオぉー!!!」
ドーンッ。
月明かりが一瞬暗くなり、緑色の鎧を纏った巨体が空から降ってきた。
「でかい!」パパタローは叫ぶ。
その圧倒的な威圧感。漆黒の鎧は傷一つなく、肩の鋲が冷たく光る。砂煙を巻き上げる足元が、体重の重さを物語る。
「ホブゴブリンまで!」
リディアが叫んだ。
並のゴブリンとは格が違う。機敏な動きで巨大な戦斧を叩きつけると、轟音と共に周囲の残党を吹き飛ばした。
リディアは車の前に立ち、ホブゴブリンを鋭く睨みつけ、詩を口ずさみながら戦闘開始した。
「揺れる風が吹く夜空
鋼の刃は音もなく
月光が映すその姿
戦場の中に佇む者
音を立てずに降る影よ
心は静かに、ただ清らかに
怒りも憎しみも今は遠く
ただ己の力を信じて立つ
鋼の重みは、私の誇り
闇を裂く刃の先に
希望の光を、未来を映す
血に染まる道であろうとも
振り下ろす腕は迷いなく
一歩一歩、進むのみ
勝利の鐘が鳴るその日まで
私はこの刃と共に生きる」
その激しい戦闘の中で、ふとリディアのメイド服の裾が翻り、凛と引き締まった太ももに掛かる黒のガーターストラップが一瞬の輝きを放った。月明かりに照らされて、そこだけが秘めやかに露出し、まるで闇夜に咲く一輪の黒薔薇のように美しく妖しく煌めいた。
「溢れ出る魔力は、我の物だぁ!!」
「よこせぇー!!そのガキを!!」
「しゃべった!?」
ホブゴブリンが口を開き、低く響く声で叫んだ。声には明らかな知性が感じられ、彼は単なる獣ではない。ホブゴブリンはその戦斧を肩に担ぎ、足元の地面を蹴り飛ばすと、瞬く間にリディアとの距離を詰めた。
「あら私より子供の方が好きなのかしら。でもその趣味は賛同できないわ。」
リディアは冷静に構えながら、ホブゴブリンの巨体に狙いを定めた。彼の猛然と突進してくる姿に、一瞬も油断はできない。だが、リディアは焦るどころか、その顔に少し笑みを浮かべた。
「大きくても、鈍重は変わらないでしょ?」
彼女はそう言うと、ホブゴブリンの斧が振り下ろされる瞬間、巧みに身をひるがえして攻撃をかわした。
「当たらなければ意味はないわ」
とその矢先、ホブゴブリンの斧がリディアに飛んできた。
衝撃が走り、後方に飛ばされた。
砂埃を撒き散らし飛ばされた。
「メイドさん!!」
パパタローとカリンが叫ぶ。
「リディアとよんで。」
膝をつき、メイスで斧を受け止めたリディアはパパタローにウインクを送り、周囲に魔法陣を描いた。
「嵐影の舞踏」
風が巻き起こり彼女の動きを加速させ、ホブゴブリンの巨体を翻弄するの同時に
風は彼女の動きを一層加速させ、ホブゴブリンの巨体に絡みつくように動き回る。リディアの素早い攻撃がホブゴブリンの鎧に当たるが、彼女は手応えがないことに気づいた。
「硬い……」
ホブゴブリンは重々しく笑いながら、再び戦斧を振りかざした。