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異世界スイートテイル 〜狐の嫁入りは誰にも見られてはいけない掟なのです(肉球マーク)。  作者: 2番目のインク
第三部:戦闘民族編

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ちんちくりんの髪

パパタローの家の両隣には、片方に獣舎とカリンの家、もう片方に妹たちの増築中の家が並んでいた。

木材を運ぶ大工たちの音が響き、カリンが現場監督として指示を飛ばしている。

家々はすべて緩やかにつながっており、庭や小道で自然に行き来できる作りになっていた。


小屋の前

ウォーターボール、ファイヤーボール!

そう言うと、パパタローはお湯を沸かし始めた。


球体に手を突っ込むパパタロー。

「ちょうどよい温度だな」


「ローズ!!」

ヒッポグリフのローズが顔をひょっこり出す。


「ローズ!! 体を洗うぞ!わっこら、逃げんなってっ」

逃げ惑うローズを、お湯の球で包み込む。顔だけ球体の外に出たまま、はじめは暴れていたものの、すぐにまったりうっとりしている。


「気持ちいいだろ?」

ローズのくちばしがパパタローを加え、お湯玉に引き入れる。

「わっ、やめろ!!」


窓の外で、その光景を見ていた少女は、くすりと笑った。

(可笑しい)


ちらりと視線を横に向けると、妹たちが小さく手を振り、犬が雪の中でちょろちょろと跳ね回っているのが見えた。


沙織が声を上げる。

「お兄ちゃん、あの子、起きてるよ。行ってもいい?」


それに気が付いた幸恵とノアも手を振った。

小太郎(犬)はローズとじゃれている。


「大勢で行くと疲れるだろうから、また今度な」とパパタロー。



しばらくして、髪を拭きながらパパタローが現れた。


「顔色がいいね」


少女は小さくうなずく。パジャマ姿よりも、湿った髪のほうが気になるらしく、下を向いたまま少しもじもじしている。


「気になるか?よければ、髪も洗ってやろうか」


パパタローの手に促され、少女は頷いた。


温めたウォーターボールを頭に包み込み、下にたらいを置く。お湯が髪をつたって流れ、縮れた毛先がぴょんぴょん跳ねる。


(あぁ……きもちいい……)


パパタローが傷んだ毛先を見つめ、少しカットしてみるかと尋ねると、少女は小さくうなずいた。


しかし、刃を入れた瞬間――髪は思いのほか短く、ちんちくりんのおかっぱに。


頭の上で小さな毛束がちょこんと跳ね、整っていない毛先がかわいらしく散らばっている。まるで小さな羽毛の塊が頭の上で跳ねているかのようだった。


少女は目を丸くし、すぐに視線を下に落とす。悲しそうに唇を噛む小さな姿。


「わっ……ちょ、ちょっと待ってくれ、そんなつもりじゃ……!」


慌てふためくパパタローの右往左往をよそに、ルミエルがそっと現れ、優しい手で髪を撫でながら整える。


「こうすれば良いのじゃ。‥‥どうじゃ?」


それでも、ちんちくりんおかっぱはちんちくりんのまま。頭の上で跳ねる毛先は、元気いっぱいの小さな生き物のようにぴょんぴょんと動く。


二人の右往左往の間に、カリンが静かに現れた。

彼女はそっと手を添え、毛先のバランスを整える。


鏡を覗いた少女は、思わず小さく笑みを浮かべた。


「……ちんちくりんだけど……なんだか、悪くないかも」


「うーん、さっきよりましだ。」





「パパタロー、いるー?」


そこにカリンが入ってきた。空気はなんとなくどんよりしている。


「何してんの?」


パパタローとルミエルが事情を話すと、カリンはふふっと笑い、片手を腰に当てる。




「なるほどねー。おねぇーさんにお任せ!」


するとカリンの指先が髪に触れるや否や、ちんちくりんで跳ねていた毛先がすっと整い始める。


毛束は自然に落ち、頭の丸みに沿って滑らかなボブラインが現れる。

肩より少し上、ふんわり丸みを帯びたボブカットは、短かった毛先の無秩序さを消しつつ、幼さも残す絶妙な仕上がりだった。


鏡を覗いた少女は、目を大きく開き、指先でふわっとした毛先を触る。


「わぁ……すごい……!」


パパタローもルミエルも思わず顔をほころばせる。

ノリシオが「キョエー!」と鳴いて跳ね回る中、少女の心にも温かい笑みが広がった。


「ほら、こうすると顔も明るく見えるでしょう?」


鏡を覗いた少女は、目を丸くし、思わず笑みをこぼす。

ちんちくりんだった無秩序な毛先は、整ったボブカットに変わり、跳ねる毛も少なくなった。頭の形に沿った丸みが出て、幼さと可愛らしさがちょうど良く残る仕上がり。


「わぁ……すごい……」


少女は指先で毛先を触り、ふわっとした感触に驚き、少し誇らしげに微笑んだ。




気が付けば、窓の外に白いものが舞っていた。

犬の小太郎が雪の中を楽しそうに跳ね回っている。


「雪だね。初雪だ。」

「小太郎が喜んでる。」


少女の視線は、ふと遠くへ向かう。

白く舞う雪を見つめながら、心の中に故郷、メイダの国〈リスフェルド〉の景色が広がった。


カリンが、ふと思い出したかのようにぽつりと言う。

「初雪だから、今日はパンがゆの日だね」


その言葉に、少女は胸の奥で何かがじんわりほどけるのを感じた。

冷たく閉ざされていた心に、小さな温もりが差し込む。


自然と声が出る。

「……私、エリス……」


ベッドの足元では、ノリシオがしっぽをときどき振っている。


パパタローがにこりと笑う。

「そっか、自己紹介まだだったね。俺がタロー、こっちが妻のルミエル」


その“妻”の一言で、エリスは一瞬、目を丸くする。どこか胸の奥がほんの少しきゅんとするような、そんな感覚――本人はまだ気づいていなかった。


「どうしたのじゃ?」


カリンが少し照れながら続ける。

「で、私がパパタローの姪で、カリンでーす。(本当は『りん』)」


“姪”の一言に、エリスは眉を少し上げ、顔に小さな疑問符が浮かぶ。その瞬間、三人に心を少しずつ開いていく自分を、エリスは感じた。


「キョエー!」

赤い毛並みが光を反射し、ノリシオは力強く鳴いた。

「忘れるなよ、私を!」――そんな自己主張が、声にも体にもにじみ出ている。


「こっちがノリシオね」

エリスが軽く手を差し伸べると、ノリシオは少しだけ身体をすり寄せた。小さな魔法陣が足元に浮かび、空中を軽やかに歩いた。


エリスは微笑み、少し首をかしげる。小さな出会いが、少しずつ世界の歯車を動かし始めていた。

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