生き残った者の代償
世界は、何事もなかったかのように続いていく。
誰かが欠け、誰かが代わりになる――
その程度の帳尻合わせで。
「……ラインハルト……」
ヴィクターが名を呼ぼうとした、その瞬間だった。
「――ちがうッ!!」
張り裂けるような声。
少年は顔を歪め、喉の奥から、押し殺していたものを叩きつける。
「父さんは……!」
一歩、踏み出す。
「父さんは……っ……」
声が、震えた。
「なんで……
なんで助けに来てくれなかったんだ!!!」
次の瞬間。
ラインハルトは、ヴィクターにぶつかるように抱きついた。
拳で、胸を叩く。
肩を掴み、縋りつく。
「俺……!母さんが……
母さんが、全部壊れたのを……
俺、見てたんだ……!」
涙が、堰を切ったように溢れる。
「呼んだのに……!
父さん……呼んだのに……!」
ヴィクターは、動けなかった。
腕は下がったまま。
受け止めることも、突き放すこともできない。
ただ――
小さな身体が震える重さだけが、確かに伝わってくる。
「……すま……」
声にならなかった。
喉が、潰れたように詰まる。
その光景を、少し離れた場所で――
カテリーナとリディアは、茫然と見ていた。
戦場で、幾度も血を見てきた二人だった。
だが、
この涙の置き場だけは分からなかった。
カテリーナは、唇を強く噛みしめる。
握った拳が、小さく震えている。
リディアは、そっと視線を逸らした。
逸らした先で、
頬を伝うものを、誰にも見せぬように拭う。
音のない場所で、
嗚咽だけが、残る。
――母を失い、
――父を責め、
――それでも、抱きつくしかなかった少年。
欠陥の神は、
こうして生まれた。
だが、
その代償を支払うのは、
いつも、生き残った者たちだった。
涙が落ちる。
止まらない。
止める理由が、
もう、どこにもなかった。




