地獄でメイド①
キョエェェェーーーー!!!
ゴブリンたちは目を見開き、叫んだ!
炎を羽のようにまとった赤い狐ノリシオの咆哮が夜空を裂き、
ノリシオの狩りが始まった。
ノリシオは天空を旋回し、赤熱する爪を閃かせ、闇夜に飛び込んだ。
ひとつ、
ふたつ、
ゴブリンの首が、ふっと消えた。
炎が巻き上がり、黒焦げになった腕が天に向けて伸びる。
その腕も、すぐに灰となり崩れた。
まるで獲物を狩るように、ノリシオは空中からゴブリンを見下ろしていた。
燃え上がる瞳に映るのは、「この世にいてはならぬ存在」だとでも言いたげに――。
彼は空を駆け、大地を穿ち、炎の尾をひるがえす。
獣のような叫びを上げながら、ノリシオは一匹のゴブリンに飛びかかり――
ゴブッ!
それは音だった。骨と肉が一瞬にして破砕される、乾いた悲鳴。
ゴブリンの身体が、ぴくりとも動かず、崩れ落ちる。
《狩り、完了。》
炎が尾に集まり、狐の体をなぞるように蠢くと、
その美しさに恐れすら抱かせる幻想がそこにあった。
予期せぬノリシオの攻撃にゴブリンに混乱している。
この状況をパパタローは見逃さなかった。
「行くぞ、カリン!
シートベルト、忘れんな!」
ハンドルを強く握りしめ、パパタローはアクセルを踏み込んだ。
「きゃぁーーー!」
タイヤが砂を巻き上げ、地面を掴んで急加速。
ライトの光が流れ、車は滑るようにゴブリンから離れていく。
車内に静寂が訪れた。
パパタローは息を吐きながら叫んだ。
「なんだ、あれは!!」
「いったい何なんだ!」
パパタローに続き、カリンも息を呑む。
言葉は尽きた。
エンジンの低いうなりとタイヤの軋む音だけが、静かな車内に響き渡る。
張り詰めていた緊張がほどけたのか、カリンはいつの間にか静かに眠ってしまった。
――逃げ切れた安堵だろうか。
(それにしても、こいつは要所要所で寝るやつだな……)
ふと見上げれば、夜空の暗闇を裂いて炎を纏ったノリシオが、確かにこちらを追っていた。
(頼れる味方の存在が、これほどまでに心強いものだとは――)
その思いが胸をよぎった瞬間――
ギシ…ギシ…
「ん?…痛っ!」
体を締めつけられるような妙な感覚が、パパタローを襲う。
慌てて車を止めた。
「ぐわああああ!!」
…視線が低くなった気がする。
助手席を見ると、そこにはまるで二歳児のような小さな女の子が、穏やかな寝息を立てていた。
「カリン!!」
ええっ?!
助手席の窓に映る自分の姿は――子どもだ。
えええええええ!!!
こんな状態じゃ、運転できるわけがない!!
隣で騒ぎながら混乱するパパタローに、寝ぼけ眼のカリンがやっと反応した。
視線を彷徨わせながら、ぼんやりとパパタローを見上げる。
「…おはよう、パパタロー?」
カリンの瞳がまん丸になる。
「……小さくなっちまった。」
驚愕する間もなく、突如として耳をつんざくような叫び声が轟く。
「キョエーーーー!!!」
「いい加減にしてくれ!!今度はなんだ!?次から次へと!!!」
叫んだのはノリシオだ。その直後――
ドンッ!!
ボンネットに何かが落下し、車体が激しく揺れる。次の瞬間、視界の先に、血走った目のゴブリンが映った。
ガシャァン!!
鈍い音とともに、フロントガラスが斧で叩き割られた。
「うわっ! クソッ!!!」
高スピードワイパーをとっさにふると、ゴブリンが驚き、車から落ちた。
パパタローは歯を食いしばりながら、必死にハンドルを握りしめた――!
「早く、走らして!!」
「無理だ!」
「なんで!?」
一瞬間があり、カリンが気がつく。
「あー、短足。」
「悪かったな!短足で!!」
「くそっ、逃げたくても、アクセルに足がとどかない!」
そうなのだ、この小さな体では、ハンドルを握ったら、アクセルに足が届かない。
割れたフロントガラス越しに映るのは、狂気に満ちたゴブリンの笑み。
(考えろ!考えろ!!)
焦燥が脳裏を駆け巡る――どう切り抜ける!?
「そうだ!カリン、お前、その体でどの位動ける?アクセルとブレーキの操作位できそうか?」
パパタローがシートに立ち上がり、ハンドルを握りしめた。
「うわー、嫌な予感的中。」と、パパタローの行動を見たカリンは何をしたいのか察し、助手席に上がり、運転手席の足置きの空間に降りて小山座りをした。
ペダルに届くか試すが、あとちょい足が届かない。
それを見たパパタローが後部座席からゆるきゃら きゅーびー※1ぬいぐるみを背中に押し込んだ。
「届いた!」
もう一体のきゅーびーぬいぐるみを渡した。
「安全のためにもう一個ぬいぐるみを体の前におけ。アクセルとブレーキの指示は出すから、そのとおりに押せ!ここから逃げるぞ!」
と、他にタオルやら服やら、カリンの横に投げ入れ、パパタローも立ち姿勢でシートベルトを一応取り付けた。
「パパタロー、かっこいい!」
「かっこいいより、安全第一だ!」
ノリシオが守ってくれていることもあり、少しリラックスしたパパタローは興奮して酸欠した脳に酸素が回ったのか奇行な行動をした。
スマホをいじりだした。
「4649」っとパスコードを打ち込み、宇宙人の画像が出てきたかと思うと、
低音が森に鳴り響き、ギター音が悪魔の叫び声のようだ。 何て歌っているのかわからないボーカルの声が断絶魔のように響いた。
デスメタルを爆音で鳴らし、ライトをハイビームで点灯し、音楽に合わせクラクションをデタラメに鳴らした!
「うるさぁーい!」カリンが両耳を押させて叫ぶ
「なんだって!?」パパタローが叫び返しながら、音を切る。
「う!」「る!」「さ!」「い!」「っ!」カリンが更に大きな声で叫んだが、
うるさいの言葉が響いた。
「うるさい…」とバツが悪そうに小声で話した。
理解したパパタローは
「OK!うるさい上等!これぞ音撃だ!」
っと再びデスメタルを最大音量スーパーウーハーとサブスーパーウーハーが重厚感な攻撃?をした。
どうやらパパタローの思いつきは成功したようだ。
ゴブリンは聞いたこともないお腹に響く騒音に怯ひるんでいる。
ハイビームの先には、舗装はされていないが、道が見える。走れる!
空から駆けてくノリシオの援護で、ゴブリンに攻撃を仕掛け、ゴブリンが怯んだ。
ノリシオはフロントガラスに舞い降りて前足でトントンと叩き、飛び立った。
「着いて来いって!?言ってるよ」とカリン。
「よく分かるな」
「多分・・・。」
「適当かよ」
カリン、アクセルを押せぇ!!
赤い車はデスメタル♪を撒き散らしノリシオを追った。
「♪終焉の月夜」
闇に満ちた夜・月が静かに輝く
死神の影が闇を彷徨う
血みどろの地獄へと堕ちていけ
悪魔たちの狂乱がはびこる
暗黒の淵で目覚める
ゴブリンの笑い声が響く
女たちの叫びが闇に消える
逃げられないぜ、この終焉の時に
悪魔の囁きが耳をかすめる
死神の鎌が命を刈り取る
血と暗闇が狩りを始める
地獄の炎が全てを焼き尽くす
月夜の闇に身を委ねよ
女たちの叫びが響き渡る
血みどろの地獄に堕ちるがいい
逃げられないぜ、終わりの時まで~~~~!!!!!!!
「だめでしょこの歌詞!!!逃げられる歌はないの!?」
カリンが叫んだ。
「なんだって!?」パパタローにはまたも聞こえてなかった。
※1きゅーびー:ゆるきゃら 那須のいたずら九尾狐「きゅーびー」です。今は『那須町観光大使』として活躍しています。