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異世界スイートテイル 〜狐の嫁入りは誰にも見られてはいけない掟なのです(肉球マーク)。  作者: 2番目のインク
第二部:欠けた神の夢編

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壊れ続ける楔(くさび)

「あなた! ヴィクター!!」


エルネスタは叫んだ。

けれど、その声は――どこにも届かなかった。


腕の中には、息のないリーナ。

冷えきった身体を、強く、強く抱きしめている。


少し離れた場所で、

ラインハルトは倒れていた。


呼吸は――

かすかに、まだ、残っている。


世界は、まだ壊れていなかった。

だが――長くはもたないことだけは、

はっきりしていた。


欠陥の“核”の前。


崩れかけた空間に、

ゾファールが立っていた。


神と呼ぶには、あまりにも静か。

王と呼ぶには、あまりにも疲れている。


その身体は、すでに裂け、

存在の縁が、ぽろぽろと剥がれ落ちていた。


――終わりかけの神。


足元には、少年が倒れている。


呼吸は浅く、

胸は、ほとんど動いていない。


ラインハルト。


エルネスタは、息を呑んだ。


「……この子を……」


声が、震える。


「助けて……ください……」


ゾファールは、少年を見下ろし、

次に――エルネスタを見た。


その視線に、慈悲はない。

だが、悪意もなかった。


「長くはない」


淡々とした声。


「この世界も、

 私も」


エルネスタは、理解した。


――この神は、死にかけている。


だからこそ、

代わりが要る。


「この子を生かすには」


ゾファールが、一歩近づく。


空間が、軋んだ。


「楔が要る」


「壊れ続けるための、意志」


「……私に、なれ」


一瞬。


世界の音が、消えた。


エルネスタは、少年を見た。


小さな胸。

かすかな呼吸。


指先が、冷たい。


「……私が?」


ゾファールは、頷かない。

否定もしない。


ただ、言った。


「選べ」


「この子は、もう戻らない」


「だが――

 お前が“私”になるなら、生きる」


エルネスタは、迷わなかった。


恐怖も、怒りも、

すべて――その前に消えた。


「……いいえ」


一歩、前へ出る。


「“あなた”には、なりません」


ゾファールの目が、わずかに揺れた。


エルネスタは、はっきりと言った。


「欠陥に、なります」


「壊れ続ける“楔”に」


「この子の代わりに――」


ゾファールは、初めて沈黙した。


それは、了承だった。


次の瞬間。


少年の胸が、

大きく――息を吸った。


エルネスタの身体に、

何かが流れ込む。


役目。

呪い。

契約。


彼女は、もう戻れない。


それでも。


少年の呼吸は、確かだった。


エルネスタは、微笑んだ。


――これでいい。


それが、すべての始まりだった。

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