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異世界スイートテイル 〜狐の嫁入りは誰にも見られてはいけない掟なのです(肉球マーク)。  作者: 2番目のインク
第二部:欠けた神の夢編

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目を開く死

翌朝――

甲板に、鈍い音が規則正しく響いていた。


どさり。

また、どさり。


船員たちは慣れた手つきで腐臭のする死骸を掴み、

何事もないように海へ放り投げていく。


「ほらよ、次だ」


「あかん……鼻が曲がって、そのまま固定されそうだ」


航海士イーヴァンが、

顔のパーツを無意識に中央へ寄せるようにして、吐き捨てた。


言葉も、動きも、

すでにそれは“作業”だった。


パパタローは船縁にしがみつき、

顔色を失ったまま、必死に胃の奥を押さえている。


「……異常にも、慣れるもんなんだな……おえっ……」


ミレッタは何も言わず、背をさすり、水を差し出した。


――その瞬間だった。


ミレッタの腕が、強く掴まれた。


投げ捨てられるはずだった死骸が、

かっと、眼を開く。


腐肉の奥で灯る、

真紅に輝く、濡れた宝石のような眼。


甲板の音が、すべて消えた。


一瞬――

時が、止まる。


次の瞬間。


パパタローの右目が灼けるように疼いた。


「ルミエル!」


思考より早く、魔力が弾ける。

掌から放たれた火球が、至近距離で炸裂した。


ファイヤーボール。


炎が死骸を包み込み、

腐臭は一瞬で焦げた肉の匂いへと変わる。


掴んでいた腕が弾かれ、

黒く焼け崩れた肉片が、甲板を転がった。


火が消えたあとに残ったのは、

炭と灰――そして、沈黙だけだった。



ミレッタは尻もちをつき、

何が起きたのか理解できないまま、目を見開いていた。



「なっ……」


「動いたぞ!」




しかばねだったはずの無数のゴブリンが、

ぎこちなく――しかし、確実に立ち上がった。


「ミレッタ、後ろに!」


ミレッタはパパタローの背中に隠れた。


一体、また一体。

倒れていたはずの死骸が、

軋む音を立てながら、次々と起き上がっていく。


十体。

二十体。


――数える意味が、とうに失われるほどに。


「まだだ! まだ立ち上がってやがる!」


「クソッ! 死んでるのか、生きてんのか、わかんねぇ!」


真紅の眼が、一斉にこちらを向いた。


赤い眼の群れが、

甲板という“逃げ場のない場所”を、踏み荒らした。



帆布が裂け、舵が砕け、

逃げ遅れた船員の血が、甲板を赤黒く染めていく。


リディアは低く、風の詩を口ずさむ。

その声に応えるように、空気が鳴った。


瞬間――

前方に風の障壁が展開され、

同時に、彼女の手のメイスが唸りを上げる。


踏み込みは一歩。

だがその一歩が、嵐だった。


回転するメイスが風を纏い、※

迫っていた赤眼のゴブリンを、

盾ごと、骨ごと、まとめて叩き潰す。


鈍い破砕音。

吹き飛ばされた死骸が甲板を転がる。


「――下がりなさい」


声は静か。

だがその背後には、風の壁と砕けた屍だけが残っていた。


カテリーナは一歩も退かず、

ウォーハンマーを構え、船員たちを背後へ押しやる。


「下がりなさい!

 生きている者を、守ります!」


宙を蹴り、

ノリシオが奇声を上げて突撃した。


「キョエエエッ!

 シネシネシネェェ!」


爪と体当たりで赤眼を吹き飛ばす。

だが――

倒れた先から、また立ち上がる。


「……しつこすぎだろ……!」


パパタローは吐き気をこらえながら叫んだ。


「ウォーターボール!」


水塊が連続して放たれ、

甲板は一瞬で水浸しになる。


「馬鹿野郎! 滑るだろ!」


怒鳴り声が飛ぶ。

だが――

止める余裕など、どこにもなかった。


オーブが光る。


小さな火球が、

赤眼の胸を撃ち抜いた。


焼かれ、

崩れ、

灰になる。


それを――

ただ、繰り返す。


総力戦の末――

ようやく、群れは灰となって消えた。


だが。


最後の一体だけが、崩れ落ちながらも赤い眼をこちらに向けていた。


口角が、わずかに吊り上がる。


――嗤っていた。


ヴィクターは一歩前に出て、杖を甲板に突き立て、低く言った。


「ゾファールは、戯れている」


赤眼が、瞬きをした。


「我らを(なぶ)り、

“どこまで耐えるか”を見ているだけだ……」


甲板は血と灰と腐臭に覆われ、

船は大きく損傷したまま、波間を漂流し始めていた。


生き残った者たちは、ようやく気づく。


――これは襲撃ではない。

――観察だ。

※リディアが戦闘前に口ずさむ風の詩。

風、目を覚ませ

生きた足音を

選び取れ

立つ者は守れ

残るものは砕け


嵐よ、静まれ

死の名を呼ぶもの

ここに立つな

甲板は戦場

掃除は私が

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