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異世界スイートテイル 〜狐の嫁入りは誰にも見られてはいけない掟なのです(肉球マーク)。  作者: 2番目のインク
第二部:欠けた神の夢編

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月に呼ばれて

陽気な喧騒に包まれたメーア・ウント・ベルゲン市場。

色とりどりの果物や香辛料が並ぶ露店が軒を連ね、朝の光がガラス瓶に反射してきらめいていた。


パパタローとルミエルは、いつものように市場を歩いていた。

何度も訪れているこの場所では、もうすっかり顔なじみだ。


荷運びをしていた市場の男が、ふと足を止めて二人を見る。


「……なんか大きくなったな、坊主。

お嬢ちゃんも」


「え?」


パパタローは一瞬きょとんとし、

ルミエルは無言で、彼の袖をつかんだ。


「これ、彼氏かい? いいわねぇ、若い若い。」

果物屋のマルタおばさんが、にこにこ笑顔でルミエルのお尻を軽く叩いた。


「きゃっ!」

ルミエルは顔を真っ赤にして飛びのく。

「マ、マルタおばさん……な、なにをするのじゃっ!」


マルタおばさんは、ぽっちゃりした体型に、いつも明るい黄色のターバンを巻いている。

エプロンのポケットには果物ナイフを差し、茶色の目はいたずらっぽく輝いていた。

市場の中心的存在で、誰にでも分け隔てなく話しかける陽気さが彼女の魅力だ。


「おやまぁ、仲良さそうだからてっきりねぇ。

 ほら、この前も一緒に来てたじゃないの。」


「ま、まだ……あっ……ち、違うのじゃ!」


「まだ?」


「い、いーのじゃっ! もうっ!」


ルミエルは頬を膨らませ、ちらりとパパタローを見た。


(女の子らしいとこもあるんだな……)


「ははは……(それはそうと結婚してなかったっけ?)」と、パパタローは少し頬をかいた。


「アンタ、さっきからずっと彼女のために首飾り探してたじゃないの。」

おばちゃんが指差したのは、近くの店『虹の宝石箱』。


虹色サンゴの首飾りが、朝陽を受けてほのかに輝いていた。

店主のホルスト親父は、白髪まじりの髭を撫でながら誇らしげにそれを磨いている。


「何を探しておるのじゃ?」

ルミエルが首を傾げる。


「え、それは……その……まあ、“お礼”ってやつ?」

パパタローは額をかきながら曖昧に笑った。


「お礼?」


「いつも、一緒にいてくれるだろ。感謝の気持ちを形にしようと思ってさ。」


「ふむ……」

ルミエルは腕を組み、考えるような素振りを見せたが、

すぐに頬をふくらませた。


「妾はそんなもの求めておらんぞ。」


「求めてないのは分かってる。でも、自己満足でもいいだろ?」


マルタおばさんがケラケラ笑う。

「男の子ってのは不器用ねぇ。でも、そういうのが可愛いのよ。」


その時、小さな女の子が母親の手を引いて走り寄り、首飾りを取った。

「ママー、これ欲しい!」


ホルスト親父は微笑んで包みを渡す。

「はい、特別サービスだ。」


パパタローの手は宙を切り、虚しく止まった。


「残念じゃな。気持ちはありがたく受け取っておくぞ。」

ルミエルが意地悪く笑う。


「親父、“虹色サンゴの首飾り”はもうないのか?」


「すまんな、あれが最後じゃ。」


「次の入荷は?」


「……未定じゃ。材料が“スカイシェルの巣窟”にしかない特別なサンゴでな。」


パパタローの目が輝く。

「巣窟? どこにあるんだ?」


「ミラーベール島だ。」


その一言で、空気が一変した。

賑やかだった市場のざわめきが、風ごと止まったように感じられた。


「おいおい、やめておけ。やめておけ。」

別の商人が口を挟んだ。

「あそこは“スカイシェル・タイタン”が眠ってる。

 海と空をつなぐ怪物さ。命がいくつあっても足りねぇぞ。」


「……それって、怪物っていうより神様じゃないか?」


「神か、怪物か――それを決めるのは、行ったやつの運命次第だ。」

ホルスト親父は海の方角を指差した。


「なんでも、“タイタン”が死んだあとに、残骸の殻から“蜘蛛”が生まれたらしい。

 殻の欠片が腐り、森に落ち、そこから赤い光が芽吹いた――“赤く光る森”ってやつだ。」


「蜘蛛……?」


パパタローは水平線を見つめた。

そこには、まるで生き物のように蠢く雲があった。


「えっと……あれ、蜘蛛の形に見えるな。」


「そうさ。あれが“ミラーベール”だ。」

ホルスト親父の声が低く沈む。

「あの雲は、生きてる。

 赤い光が脈打つたびに形を変えるんだ。

 そして――手招きする。」


「手招き……?」


「ああ。誘いに乗った船は、誰一人戻らねぇ。

 なんでも、船乗りは“呼び声”に弱いんだとよ。」


店主は静かに言葉を落とした。

「ただの嵐じゃない。船がその雲に呑まれると、空も海も真っ赤になる。

 叫び声みたいな音が響くんだ。笑い声にも聞こえるらしい。

 それを聞いた者は、正気を失う――そして、仲間同士で共喰いを始めるんだとよ。」


パパタローもルミエルも、言葉を失った。


「怖い話だろ? まっ、当然、尾ひれがついてんだろうがな。

 真実は、だーれも知らん。」


ホルスト親父は顔をしかめ、天を仰いだ。


「とはいえ、嘘だと証明する者もいない。

 事実、あそこに蜘蛛が見えてるんだからな。


 それでも行くってんなら止めはせん。

 せめて――遺書ぐらいは書いとけ。」


そして、最後に皮肉めいた笑みを浮かべる。


「――とは言っても、うちで売ってるのはイミテーションだがな! はっはっは!」


笑い声に紛れて、遠くで風が鳴った。


親父は、ふと空を見上げた。


「……昔から言うんだがな。

こんな月の日は、出るんだよ。」


何の前触れもない、独り言のような声だった。


パパタローがつられて空を見る。


青空に、ありえないほど大きな月が浮かんでいる。

昼の光の中で、白く、はっきりと。


「出るって……何が?」


親父は一度、言葉を切った。

それから、笑うでもなく、脅すでもなく、続ける。


「蜘蛛だ。」


市場の喧騒が、ほんの一瞬だけ遠のいた気がした。


「昔から言われてる。

月があんなふうに“貼りついた”日は、

海と空の境目が、ほどける。」


親父は指で、水平線の上をなぞった。


「そこから、巣を張る。

見えねぇ糸を、何本も、何本もな。」


ルミエルが小さく息を呑む。


「雲が蜘蛛に見える、って話じゃない。

逆だ。


——蜘蛛が、雲のふりをしてるんだ。」


親父はそう言って、もう一度月を見た。


「あれは合図みたいなもんさ。

“今なら見ている”ってな。」


蜘蛛の形をした雲が、ほんの一瞬、動いたように見えた。


まるで――呼んでいるかのように。


その瞬間、パパタローの背筋に、冷たいものが走った。

ルミエルが振り返る。

「……どうしたのじゃ?」


「いや……今、あの雲が――」


パパタローが言いかけた時には、もう雲は形を崩し、

ふたたびただの灰色の塊に戻っていた。


市場の喧騒が、いつのまにか戻り始める。

笑い声、果物を叩く音、香辛料の匂い。


通行人の何人かが立ち止まり、空を見上げて声を上げていた。


「わぁ……でっかい月だなぁ」

「昼間なのに、はっきり見えるなんて」


誰も怖がってはいない。

むしろ、珍しい見世物に出会ったような顔だ。


それでも、

二人の間だけ、どこか冷たい風が流れていた。



その夜。

メーア・ウント・ベルゲンの港を見下ろす丘の上、

ヴィクター・シルバーハート邸の書斎には灯がともっていた。


窓辺の机に、一通の封書が置かれている。

封蝋(ふうろう)には、“Λ(ラムダ)”の印。


ヴィクターは指先でそれをなぞり、

静かに呟いた。


「……また、“あの島”か。」


背後でカテリーナが一礼する。

「旦那様、報告書は――」


「明日の朝でいい。」


ヴィクターは立ち上がり、

窓の外、闇に沈む水平線を見つめた。

その彼方に、うっすらと蜘蛛の影が見えた気がした。


「赤く光る森……まだ終わってはいない。」


灰色の海風が、書斎のカーテンを静かに揺らした。

「ちなみに」

一千万ルーンで建てられるもの

豪華な屋敷

広大な土地

立派な庭など


一千万ルーンで購入可能なもの

中型船

交易用の船

遠い海まで航行可能


一千万ルーンで可能な雇用

傭兵団 10~20人の一年分の給料を賄える








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