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異世界スイートテイル 〜狐の嫁入りは誰にも見られてはいけない掟なのです(肉球マーク)。  作者: 2番目のインク
第二部:欠けた神の夢編

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脈打つもの

洞窟の中だろうか――。


本来なら闇に沈むはずの場所に、松明が掲げられ、

その炎が静かに揺れていた。


空気はひんやりとしているが、ほこりっぽさはない。

床も壁も、不思議なほど清潔に保たれている。


その空間には、ひとつの異様な音が満ちていた。

音と呼ぶには曖昧で、

時に機械の軋みのように、

時に子守歌の律動のようにも聞こえる。


――ギリ。

――ギリ。

――ギリ……。


その音の主が、松明の揺らぎの向こうから姿を現した。


円筒形の胴体に、短い手足。

目と鼻らしきものが申し訳程度についている、不思議な生き物。


名も、種も知れぬ存在。


その生き物は、低い声で小さく鳴きながら、

一つの石を丁寧に拭いていた。


ギリ……

ギリ……。


脈四ツ石。


赤黒く脈打つその妖石は、不気味な光を放ち、

周囲の空間をわずかに歪ませている。


石の中には、四つの魂が閉じ込められていた。


少女たちと、そして一匹の犬。

――パパタローの、愛しい妹たちだった。


彼女たちは、飢えない。

眠りもしない。

老いることも、死ぬこともない。


だが、“待つ”ことだけは、続いていた。


出口のない時間。

変化のない暗闇。

希望が少しずつ摩耗していく感覚。


それでも――

石が磨かれるたび、彼女たちは気づく。


ギリギリが脈四ツ石を磨くたび、

石の奥で、小さな光が揺れた。


それは救いではない。

出口でもない。


けれど、


「まだ待てる気がする」


そう思わせるだけの、かすかな温もりだった。


ギリギリは、魂の存在を意識しているのか、いないのか。

ただ淡々と、同じ動作を繰り返す。


磨き、

拭い、

ときおり、石の奥を覗き込む。


その仕草に、石の中の妹たちは身をすくめる。

恐怖と同時に、

それでも完全には消えない何かを、確かに感じていた。


脈四ツ石は、かつて――

スサノロキが鼻先を近づけ、

「良い臭いだ」と叫び、執着した妖石でもあった。

パパタローが放った、巨大なウォーターボールに巻き込まれ、

その石は激流に呑まれて流されていった。


そして、拾われた。


この洞窟で。

この名もなき存在に。


ギリ……ギリ……。


ギリギリは、今日も磨く。


守るためでも、

救うためでもない。


ただ――

“希望が完全に擦り切れる、その直前”を

引き戻すために。


石の奥で、四つの魂が、そっと寄り添う。


「パパタローが、きっと助けに来てくれる」


その言葉は、祈りではない。

約束でもない。


けれど、

今日も消えずに、そこに在った。

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