黎明の変革~王が神へ堕ちた日
「国民諸君! 私はヴァト。この王国を統べる者である!
我々はいま、新たな時代の扉を開こうとしている!
古き因習に囚われず、自らの力で未来を切り拓くのだ!」
若き王ヴァトは、即位式の壇上に立ち、
黄金の塔を背にして高らかに宣言した。
民衆は歓声をあげた。
彼のカリスマと弁舌は人々を魅了し、
王国には希望の熱気が満ちていた。
──だが、
その瞳の奥で静かに燃えていたのは、
誰にも見抜けぬほど研ぎ澄まされた“野心”だった。
ヴァトは幼い頃から、禁断の知識に魅せられていた。
古文書に記された“神々の召喚術”。
世界を支配したと言われる古代王族の叡智。
それに触れた日から、
彼は王ではなく、神になろうと願ってしまった。
密かに集めた神核石。
地下で繰り返された儀式。
夜ごと古代文字を紡ぎ出す声。
そして──
その時は訪れた。
ヴァトの精神は、一瞬で“外側の世界”へ引きずられた。
そこには、
多元宇宙の均衡を監視する存在──
創造神連合が待っていた。
「王よ、汝の力はまだ目覚めたばかり。
さらなる力を求めよ。
神々の力を得れば、汝は世界の支配者となれる。」
囁きは甘く、深く、底が見えない。
ヴァトは迷うことなく頷き、
さらなる禁術へ手を伸ばした。
儀式が深化するたび、
彼は“前世の記憶”にも触れた。
──上皇として生きた過去。
──寵愛した翠狐を喪い、深い絶望に沈んだ日々。
「翠狐……
そうだ、翠狐を蘇らせるのだ。
神々の力があれば、それも叶う……!」
彼は翠狐への執着と、
神への羨望に心を食い荒らされていった。
国政は乱れ、
民衆は疲弊し、
王宮は血の匂いに包まれた。
「愚民ども!
我に逆らう者は、生贄となるのみ!
我は神となるのだ!!」
かつて“賢王”と呼ばれた面影は、
もはやどこにも残っていなかった。
王太子トニールは、父の変貌を嘆き、ついに立ち上がる。
「父上、もうおやめください。
王国は、もはやあなたの欲望を満たすためのものではありません。」
ヴァトは狂気の炎を宿した瞳で息子を見つめた。
だが──次の瞬間、表情がゆらぎ、
まるで別の何かが囁きかけたように肩が震えた。
「いや……いや……」
沈黙のあと、
ヴァトは王冠を外し、静かに地へ置いた。
「国はお前に任せた。
私は……さらなる高みへ向かう。」
“よく決断した――”
誰の声とも知れぬ囁きに背を押されるように、
ヴァトは振り返らず歩み出した。
そして──
肉体を捨て、精神を創造神連合へ差し出した。
異次元で与えられた新たな肉体。
それは、人々から“災”と呼ばれる神の器だった。
創造神連合の意図は一つ。
ヴァトを“災い”として地に解き放ち、
文明を揺るがし、世界を再創造すること。
新たな神スサノロキとして目覚めたヴァトは、
悪意の奔流に身を浸し、
各地に争いの火種を振りまいた。
「人間とは愚かだ……
欲望に溺れ、自ら破滅へ向かう……
まったく、滑稽よ。」
だが、たった一つだけ──
心の奥で消えずに残ったものがあった。
翠狐の記憶。
「翠狐……
お前さえいれば……
私は……」
哀しみに濡れたその囁きは、
もはや誰にも届かない。
やがて従者を従え、
光の届かぬ闇の彼方へ消えていった。




