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異世界スイートテイル 〜狐の嫁入りは誰にも見られてはいけない掟なのです(肉球マーク)。  作者: 2番目のインク
第一部:狐嫁と光の祭り・災の神編

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闇の道化師たち~祭りの裏に蠢くもの(うごめくもの)

影が噴き出したのは、一点などではなかった。

地平線そのものが黒油のように盛り上がり、山脈の裾野、川のせせらぎ、森の裂け目、そのあらゆる“境界”から黒い液体めいた闇が逆流してきた。


大地は悲鳴のような音を立てて裂け、その傷口からは“風の無い嵐”が吹き出した。草木は黒に焦げ、根をむしられたまま空へ吸い上げられては、ひゅう、と線香花火のように黒灰となり落ちていく。


――闇黒の神官長アビスの声が、世界に響いた。「スサノロキ様……!翠狐様が愛したこの景色を、貴方様の嘆きと愛の色である『闇』で染め上げましょう!」


裂け目から渦巻き出た闇は、生き物のように脈動していた。

その中心が、ぼとりと落ちるように膨らんで――。


そこから、赤黒・黄黒・青黒の三つの影が、舞台役者のように一歩ずつ“闇の幕”を押し分けて出てきた。


三人の道化師クラウンが、“開演”とでも言うように現れたのだった。




エルフ兵たちは、一瞬ひるんだが――次の瞬間には攻撃を仕掛けていた。

幻惑にも呪詛にも見えぬ実体を持つ敵。それだけで十分に危険。


「なんだお前たちは!」

「長老様に知らせろ!」


怒号と魔法弾が飛び交う。

だが、赤黒ストライプの男は、異様なほどに優雅なお辞儀を返した。


影の中でひらりとコートが揺れた。

漆黒の内側には真紅が血のように走り、仮面は“笑っているのに怒っている”という矛盾を同時に孕んでいた。


「こんばんわ、赤と黒のネクロス・ダーウィンシップです。」


彼が名乗っただけで、空気が濃く重くなる。

まるでこの男の名前そのものが呪符であるように。


続いて、黄黒のモルグレイヴが、ぬるり、と空間から滲み出るように現れた。

仮面の裏で舌打ちが聞こえ、彼は手の中のバルーンをゆっくりと膨らませる。


ふくらむ。

ふくらむ。

ふくらむほどに、周囲の空気が“減る”。


バルーンは最終的に、愛らしいピンク色の魔獣の形となった。

しかし次の鼓動で牙が生え、脚が裂け、眼球が四つに増え――襲いかかる。


エルフが悲鳴を上げる暇はなかった。

魔獣は、柔らかく、楽しむように、噛み千切る。

滴る赤を舐めながら、首をかしげ、まるで「もっと?」と問いかけるような仕草。


そして…ぱんっ、と弾けた。


臓腑と血飛沫だけが残った。


「相変わらず食欲旺盛だな。モルグレイヴ。どんなに腹に入れてもお前の腹は空っぽだろうに……。」

「まぁ、そのお陰で生きてる実感が湧くんだよ。感謝してるぜ、ネクロス。だってよぉ、腹に入れても入れても、誰も満たしてくれないんだから、仕方ないだろ?スサノロキ様と同じだぜ。」


彼の周囲には、なぜか“食べ物の影”が散らばっていた。

焼き菓子、リンゴ、干し肉。どれも朽ち果て、黒腐し、何かの象徴のように空気を濁らせる。


「なぁ、ここに住まないか?ここには食べ物がたくさんあるんだぜ!!」



最後に現れた青黒ストライプのヴェイルは、背後からエルフを抱きしめるように現れた。

艶光のエナメルスーツが闇の中で妖しく光り、胸元のペンダントが脈動している。


「あなたの餌には興味ありませんわ。どのみちここに住むには、長老様の許可が必要でしてよ。」


その声は甘く、湿りを帯びており、聞くだけで心臓が一拍遅れるような危険な響きがあった。


エルフを胸の谷間に挟み込み、柔らかく訊ねる。

「長老様はどちらにいらっしゃるのかしら?」


次の瞬間――


ぐしゃっ。


胸元から血が噴き出し、エルフの瞳は虚ろになった。


「答えないで逝っちゃうなんて、せっかちさんですわね。」


ヴェイルは指先についた血を舐め、舌をだらりと出しながら嘆息した。

「愛のない世界なんて、こんな風に、ぐしゃって潰れちゃえばいいですわよね。あのスサノロキの、手に入らないものを求める寂しさ、誰も分かってくれないんですもの。」




その時。

黒沼の中心から、杖を掲げた影が立ち上がった。


闇黒の神官長アビス。


彼の杖先からは、幾重にも魔法陣が光を放ち、まるで“光が闇を描く”ように逆転した魔術式が編まれていく。


神官長は詠唱せずに力を注いだ。

暗黒そのものが魔力を提供する。


やがて大地が震え、黒衣の神官たちが次々と姿を現し、シャリン、シャリンと鈴を鳴らしながら魔力を提供し続け――提供し尽くし、倒れ、そのまま闇に沈んで消滅する。


しかし列は終わらない。

この魔術は“生贄の供給が前提”なのだ。


そして――


闇を押し割って神輿が現れた。

その台座には、赤黒い“脈打つ石”が祀られている。


抱えている男は、狂気と愉悦の境界に立つ存在。 ギョロ目が回転し、鼻がひくつき、石をスーハースーハーと吸い込みながら恍惚に震えている。 「いつ嗅いでも新鮮な香り!何度嗅いでも飽きない!この石の奥には、愛しいあの子がいるぉ!あの日の、濡れた葉っぱと*銀色の毛皮*の香り!ああ!ああ!あ"あ"ぁ~~~!!!」


神輿が揺れるたびに、抱えられた石の脈動が強まり、まるで“内部に何か封じられている”ことを示すようだった。




「闇黒の神官長アビスよ。まずは“災の密”だぉ!どこにいるのだぉ?」


「……あそこでございます、災の神よ。」


ギョロ目がぐるぐる回転し、一点でピタリと止まる。


観覧車。


「あそこにいるぉ……災のみどりぃがみ。みぃつけましたよぉ……あの日、私から逃げていった時の、*悲しそうな瞳*をしていたぉ……」


その声は粘つき、まるで耳の中に侵入してくるようだった。


神輿の下から、異形の足が何本もぞろりと伸びる。

ムカデにも、ゲジゲジにも似ているが、関節が逆で、皮膚は黒焦げで、ところどころ人の顔が貼り付いている。


「愛しい君に会いたいと、もがいた足跡のようだぉ!」

それら“暗躍の手足”が、観覧車へ向けて走り出した。


担いでいる黒衣の神官が次々と潰されていく。

しかし誰も悲鳴を上げず、ただ恍惚のまま死んでいく。


災の神スサノロキの“楽園”のように。

※1:前話の※1のあたり

※2暗躍の手足:神輿を運んでいた。担ぎ手は飾りだが、ギョロ目で恍惚にされていて、本人は担いでいると信じていた。

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