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異世界スイートテイル 〜狐の嫁入りは誰にも見られてはいけない掟なのです(肉球マーク)。  作者: 2番目のインク
第一部:狐嫁と光の祭り・災の神編

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光の祭り①~白門の向こう

パパタロー達は、白き門に、しばし見入った。

壁には、アイナリーフの紋が深く彫り込まれ、光の加減で陰影が揺らめく。

門の両側には、霊獣アイナリーフの白狐びゃっこ石像が対に配置されていた。それぞれの像は、威厳に満ちた表情を浮かべ、門と一体化されており、谷を守るようにそびえ立っている。

右に四体、左に四体、そして門の上に一体が祀られている。

全体で九体となり、強い魔除けの意味合いを持っていた。

門までは中央が石畳で、両側は砂利になっていた。いずれにせよ白が基調だ。


▢▢  ▽  ▢▢ 足元に豆(豆狐まめこ):繁栄の神

  ●    ● 門番  


 ▽     ▼ 口に稲・麦(左側:米狐こめこ/右側:麦狐むぎこ):穀物の神


 ▽     ▼ 口に鍵(鍵狐かぎこ):守護の神


 ▽     ▼ 尻尾の先に鈴(鈴狐すずこ):音の神


 ▽     ▼ 口に巻物(知狐ともこ):知識の神


霊獣アイナリーフ 白狐像 配置図 および門までの参道。


門の前には、アイナリーフの紋章が刻まれた白い甲冑をまとい、その上から深緑のローブを羽織った二人のエルフが立っていた。門の上にも人影があり、剣と弓を携えた彼らは、厳かな空気の中で黙々と警戒にあたっている。


最初は不審者でも見るような視線だったが、やがて「異邦人だ」とでも言いたげな、もの珍しそうなまなざしに変わっていく。周囲に立ち止まるエルフの数も、じわじわと増えてきた。


カリンはオドオドときょろきょろ辺りを見回し、完全に挙動不審だった。

「……緊張してきた。どうしよう」


それを見たパパタローは、もはや腹を括るしかないと悟った。

小声で励ますでもなく、深刻ぶるでもなく──


「大丈夫」


と、なぜか場違いに手までひらひら振る余裕(に見える態度)を見せた。


カリンはますます落ち着かなくなり、周りのエルフたちは「この男、肝が据わっているのか、それともただの無頓着か……?」という顔になった。


パパタローだけが、開き直りの境地である。


パパタローが門番に声をかけた。


「ルミエルさんに光の祭りに招待されたんだが、通ってもいいかい?」


パパタローが杖を見せると、門番はパパタローを疑うような眼差しを向けたが、すぐに通行許可が下りた。


「…よし、通れ」


パパタローはその言葉を聞いて、カリンに向かって言った。


「カリン・ムニン、行くぞ」


と、背を向けて門を潜ろうとした── その瞬間だった。


左右の柱の影から、二人のエルフが音もなく跳び出した。


一人はパパタローの肩と腕を極めるように伸び、

もう一人はカリンの足首を払って地面に伏せさせるために滑り込む。

刃は抜いていないが、完全に鍛え上げられた制圧動作だった。


「きゃっ!」「にゃ”ぁー!」


二人がほぼ同時に悲鳴を上げた。


「!」


だが次の瞬間、

弾き飛ばされたのは門番のエルフたちのほうだった。


パパタローの杖のオーブが突然、眩い光を放つ。

中の狐が回転しながら跳ね上がり、

蜂の巣状に組まれた**六角結界ハニカムバリア**が、

オーブ中心から“衝撃波”のように外へと展開した。


訓練されたエルフの制圧術であっても、

その不可視の壁には触れた瞬間、

まるで胸を殴られたかのように弾かれるしかなかった。


本来なら加勢の勢いで反動が彼ら自身にも跳ね返るはずだが、

不思議なことに、パパタローの体には ほとんど衝撃が伝わっていない。


(試しているのか!?)


「何するんだ!!」


「エルフは礼儀を知らないのか!」


パパタローは、頭上にバカでかいウォーターボールを杖で瞬時に浮遊させ、そのまま拡張し続けた。

いつもの癖で突発的にブチギレたパパタローは、門番を睨みつけた。


ウォーターボールが、大気をゆらりと歪ませた。


ちょうど祭りの鼓笛が鳴り響いた。

そのとき、背後から低い声がした。


「パパタロー殿、カリン様、ムニン様。よろしゅうございますか?」


声の主は、ひらりと両手を開き、祭りの鼓笛に調和するように優雅に舞う女性だった。

白銀のローブに、腰には小さなランタンを提げており、その炎は冷たくも柔らかく揺れている。

光と闇、祭りと静寂。二律背反するかのような雰囲気が、彼女をさらに神秘的にみせていた。


カリンが口を開いた。


「……あなたは?」


女性は微笑みながら、ランタンの炎をそっと見つめた。


「私は光の祭りの導き手──霊獣アイナリーフに仕える“灯りの巫女”、名を灯狐とうこと申しますわ」


ランタンの炎がふっと揺れ、

それに呼応するように祭りの鼓笛が少しだけ高まった。


「影を封じ、光を導く役目……その務めを代々受け継いでおりますの」

「アーロンディール長老のもと、祭りを執り仕える者ですわ。そして、あなたがたは…」


ランタンの炎が揺らぎ、灯狐の目がキラリと光った。


「あなたたちはこの祭りに“選ばれし客人”ですわ。さあ、光と影の舞台へいらっしゃいませんこと?」


(選ばれし客人っていってもルミエルに招待してもらっただけなんだけどなぁ…。)


白い門を潜り抜けた先。祭りの光と影のコントラストはさらに鮮やかに深まり、そこには月光に照らされた大広場が広がっていた。狐面を纏った集団が、リズミカルに舞い踊っている。鼓笛の音が風に乗って穏やかに響き渡っていた。


パパタローとカリン・ムニンは少し距離をおきながら進む。ウォーターボールはまだ空中に留まり、まるで舞台照明のように静止している。辺りを照らすその玉は、ただそこにあるだけで異質な存在感を放っていた。


「これ…一体どんな祭りなのかしら?」カリンが震える声で呟く。


パパタローは杖を引き抜き、ウォーターボールをじっと見つめた。

「祭り…灯狐という導き手がいる。ここは“光と影の境”を祝う儀式さ…なんてな。わからん」


灯狐は集団の中心で舞い、炎のランタンを振りかざしていた。やがて舞いは静まり、彼女はふと二人の方を見つめる。目が合うと、彼女は軽く頭を下げた。


「歓迎いたします、選ばれし客人たち。今宵、あなた方には試練が待っています」


祭りの参加者がフォーメーションを変える。狐面の一人が、両手から小さな光の球を取り出し、それを輪の中心へと投げ込んだ。球は空中でパチパチと飛び交い、やがて中央で大きな光の輪を描いた。


「これが儀式の中心、『光輪ひかりわ』です。ここをくぐり抜けられるかどうか…それが今宵の試練ですわ」


カリンは目を見開いた。

「試練って…通るだけ?」


灯狐は微笑む。

「ただ通過するだけでは意味がありません。光の輪をくぐり、あなたがたの心の“影”をその輪が照らします。その光に耐えられるかどうか…それが試されます」


パパタローは杖先のオーブを見つめた。狐の姿が揺らいでいる。

「影を映し出す光輪…ムニンは霊獣の化身──その力がこの儀式に絡んでいるのかもしれない…」


ムニンはうつむき、軽くうなずいた。狐面の下でも、その複雑な表情が伝わってくる。


灯狐が一歩前へ。

「さあ、お二人とも。どうぞ、歩みを止めずに進んでくださいませ――」


パパタローとカリンは覚悟を決め、光輪に向かって歩を進める。玉虫色に揺らめく光が、彼らを包み込む。


光の輪に吸われるように、二人は更なる世界へ足を踏み入れようとしていた。


パパタローが一歩前に進み出た。影の囁きに反応するようにオーブが揺れ、ほんのりと淡青く光った。


「──俺は、好きでこの力を持ってるわけじゃない。でも、その力で仲間を守りたいんだ。孤独でも構わない…そこに嘘はない」


彼の言葉に影が揺らぎ、囁きが途切れた。


次いでカリンの足元に光が走り、彼女が目を閉じて呟いた。


「私…自分が弱いって思ってた。でも、ここに来て…仲間がいる。私は信じていいんだよね?」


影がしぼむように消えていった。


最後にムニンが狐面を押し上げ、目を細めて言った。


「俺は、狐霊がいるからこそ、この旅を選んだ。奇異でも受け入れてくれる連れがいるなら…それでいいんだ」


その言葉が反転するように、影がふわりと霧のように消え去った。


灯狐のランタンが、ふわりと明滅した。


まるで“見届けた”と言わんばかりに、巫女は静かに歩み出る。


「……見事でございましたわ」


炎が細く伸び、パパタローの杖のオーブを照らす。

オーブの中で、狐の尾が淡く揺れた。


灯狐のまなざしが鋭く細められる。


「……その杖のオーブに揺れる尾。

あれは“光の尾”……

神と契約せし者にしか見えませんわ」


パパタローは息をのむ。

オーブの中の狐は、どこか誇らしげにぴょこぴょこと跳ねていた。


「光は、あなたを選んでおります。

ゆえに影もまた寄り添う……

どうか、その意味を……いずれお知りになってくださいませ」


炎がすっとしぼみ、灯狐は気配を薄めた。

試練の幕が静かに閉じていくように。

気づけば、巫女の姿は祭りの灯の向こうへと紛れていた。


「なんだ?」


リュックに背負われ、パパタローとは反対を向いているムニンが、門の先にいた女性に気がついた。

「あそこにいるのはきっとおさだにゃ」


周りのエルフがひざまずいている。


カリンが気がついた。

「あの人…」


長老は女性のようだ。

彼女は清らかな光を反射する白いローブを身に纏い、その清楚な姿は地位を示すと同時に、周囲に静かな尊厳をもたらしていた。顔はローブで覆われていたが、口元には知恵と優しさが溢れる微笑みが浮かんでいた。

身長は約一七〇センチほどで、彼女は背筋をまっすぐに伸ばし、気品を備えていた。そのそびえ立つ姿には人々が敬意を払い、威厳に見とれていた。

全ての要素が調和し、彼女の気品はその姿から溢れ出ていた。彼女は長老としての威厳を備え、人々の尊敬と信頼を勝ち得ていた。


そのとき、静かに長老アーロンディールが口を開いた。


「見事ですわ。あなたがたは“影”と向き合い、受け止め、そして歩みを止めずに進みました。その強さこそ、光と影の調和を成した証なのです」


「まぁ、カリンはともかく、人生長いからなぁ…」


パパタローは呼吸を整え、冷静を装っていたが、声が震え、怒りが残っていた。

「長老ですか? 客人を試すのはやめてほしいですね」


「ちょっとパパタローこの人は…」とカリンが言い掛けた、


「なんという! 口の利き方!!」と膝をついていたエルフたちがパパタロー達に飛びかかろうとした。


「止めぬか!」と、その長が一喝し、ゆっくりローブから顔を出した。

額には繊細なエルフ族のアクセサリーが輝き、彼女の優雅さを一層際立たせていた。その輝きは長老としての品位を象徴していた。

長い銀色の髪はしなやかに輝き、その美しさはまるで月の光を映すかのようだった。蒼く美しい目は明るく賢明な輝きを放ち、深遠なる知識の証であるかのようだった。高い頬骨や整った顔の輪郭が特徴的な優雅な顔立ちは、穏やかな表情を湛えていた。

身長は高く、細身で優美な体つきは木々の間を舞う風のように美しかった。彼女は深い知識を象徴する着飾りを身に纏い、木漏れ日の谷のエルフのシンボルである特別なアクセサリーを身に着けていた。


「はじめましてだな。エルフ族の長老アーロンディールだ。お前たちのことはルミエルから聞いている」


そういえば市場で会った時は、おばあさんに似ている。

彼女をモチーフに変化したんだな…。


「だれが、おばあさんじゃ!?

まぁ良い、あれはどうにかならぬか?」


長老は空の膨張を続けるウォーターボールを眺めていたが、止められないことが分かると、

「困った婿殿だ」と、呆れ顔をした。


(パパタロー、あれどうすんの?)と、歩きながらカリンは月明かりの中の遥か上空で浮いているウォーターボールを見た。オーブの中の狐ははね続けている。

(いや~、どうしようか。消えろーってイメージしているのだが、められない、まらない。まるで、スナック菓子だよね)

(帰りに海にでも落とせばいいよね!?)

(いいよね!?って知らないわよ)

(考えようによっては、幻想的で綺麗でしょ。祭りに最適でしょ)

(得体の知れないもの、勝手に作られても迷惑でしょうが)

(ウォーターボール《あれ》、絶妙に脅しになってるにゃ…)


「長老さま~」と、方々から声が届いた。


アーロンの先導で、白い門からさらに奥へ進むと、木漏れ日の谷の“内側”は、一変して賑やかな祭りの空気に満ちていた。


白い石畳の参道には簡素な屋台が並び、香ばしい匂いが鼻をくすぐる。串に刺した油揚げを炙るエルフの屋台では、きつね耳付きの子どもたちが「アツアツだよ~」と笑いながら紙皿を配っていた。別の露店では、腕や頬に唐草模様を朱色のインクで描く妖精が、行列をさばいている。


「……ボディペイント屋台まであるのかよ」


パパタローは、去年お腹に描かれてカリンに説教された記憶を思い出し、そっと視線を逸らした。


狐面をつけたエルフの子どもたちが、細い尻尾を揺らしながら列を組んで練り歩く。その周りでは、水の精霊を纏った妖精たちが、小さな霧の雨をふわりふわりと降らせていた。現世の柄杓の水かけが、ここでは霊的ミストになっているようだ。


広場の中央には、月光を受けて輝く白銀の“九尾の狐”の神輿のようなものが据えられ、その周囲をぐるりと取り巻くように、狐面の舞手たちが円を描いて舞っている。鈴の音と鼓笛のリズムが重なり、夜の谷に不思議な浮遊感をもたらしていた。


「長老さま~!」「光よ、恵みを~!」


どこかで掛け声が上がるたび、ランタンの火と霧の粒が一斉にきらめく。


「なんだか──尾頭祭おとうまつりみたいだね」


カリンは、遠くなった故郷の神社と、狐面の子どもたちを重ねるように、少しだけ懐かしそうに呟いた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


屋台の明かりの下で、パパタローがカリンにこそっと顔を寄せた。


「“猿とイヌ”“マングースとコブラ”“ライオンとハイエナ”“オオカミとクマ”“タカとカラス”……そんな感じだな」


「え、急にどういう事?」

カリンが眉をひそめる。


パパタローは妙に真面目な顔で言った。


「猫と狐は相性が悪いんだよ」


「えっ……マジ?」


「大マジ。キツネは“イヌ科のキツネ属”だ」


「イヌ科!? Uo・ェ・oU!?」


カリンの声が裏返る。


「さっき襲われた原因、それって……ムニンが原因ってこと?」

「え、そんな理由であの人たち襲ってきたの!?」


二人とも深刻そうな顔でムニンの狐面を見る。


ムニンは、そろりと面の中からひげだけ出し──


ピクッ。


プルッ。


ピクピクピクピク。


……どう見ても笑っている。


パパタローは肩をすくめた。


「嘘です」


カリン

「ころすぞ」


ムニン(心の中)

(狐面かぶってて助かったにゃ……)

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