アイナリーフの伝説
遥か昔、世界がまだ若く、森が光を宿していた頃――
エルフたちは森とともに息づく民であった。
彼らは聡明であり、長く生き、他種族からも尊敬を集めていた。
その源はただ一つ。
森に宿りし九つ尾の守り神、アイナリーフ様である。
アイナリーフ様は古き時代、九つの尾を持つ狐として生まれた。
その千年を超える知恵と慈悲深き心を神々が認め、
やがて神の座へと昇った存在である。
神となったのち、外界へ赴く際にはエルフの姿をとり、
森に住まう民へ知恵と加護を授けた。
こうしてエルフは森の理を理解し、
薬草、工芸、音楽、魔術――
自然と調和する文化を築き上げたのである。
だが、この繁栄と長寿は、やがて人間族の羨望を呼んだ。
人間は短命であった。
ゆえにこそ、エルフの永き命と深き知恵を欲した。
ある者は崇め、ある者は学ぼうとした。
しかし、少なからずの者は、
奪うことで手に入れようとした。
エルフの秘術を盗み、
森を荒らし、
アイナリーフ様の名を騙り、
禁じられた儀式すら試みた。
その行いはついに神の耳へ届いた。
アイナリーフ様は深く嘆き、そして怒った。
森の摂理を破り、
エルフの心を傷つけ、
神聖なる調和を乱した罪は重い。
こうして人間族は――
「短命」という罰を背負うこととなった。
しかし、アイナリーフ様は慈悲の神である。
罰のみを与えるのではなく、
彼らに創意工夫という特別な才能を授けた。
命は短くとも、その輝きは強く、
人間は建築も医療も農業も芸術も、
驚くべき速さで発展させていった。
やがて時代は移り、
人間族の中には恐れや嫉妬からエルフを迫害する者も現れた。
エルフたちは森の最奥へと姿を隠し、
外界との接触を最小限にした。
それでも――
ごく少数の者たちは、互いを理解しようとした。
アイナリーフ様が残した“共存の灯火”は、
完全に消えることなく、今もどこかで息づいている。




