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異世界スイートテイル 〜狐の嫁入りは誰にも見られてはいけない掟なのです(肉球マーク)。  作者: 2番目のインク
第一部:狐嫁と光の祭り・災の神編

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木漏れ日の谷へ――束の間のあたたかな時間

パパタローはヴィクターがいるであろう書斎へ向かって歩きだした。

木漏れ日の谷──光の祭りについて、彼に聞くためだ。


書斎へ向かう途中、カリンと歩くカタリーナの姿が目に入った。


「カタリーナさん、ちょうどいいところで。ヴィクターさんはいらっしゃいますか?」

パパタローが声をかける。


カタリーナは落ち着いた微笑みを見せる。

「あら、パパタローさん。ご主人様なら宮廷へ呼ばれて出かけておりますの。今日は遅くなるかと」


「宮廷に……?もう引退されたはずじゃ……」


「ええ、けれど“急ぎ”とのことで。他にも退役軍人の方々が呼ばれていますわ」


「物々しい話だな……」


「ヴィクターさんって、宮廷に呼ばれるほどすごい人なんだね」

カリンが素直に驚く。


「そうですわ。何と言ってもヴィクター様は“宮廷魔道士七席”のお一人でしたもの」

カタリーナは誇らしげに頷いた。

「退かれたあとは、先代の王よりこの地域の守護を託されたのですわ」


「頼りにされてんなぁ……ヴィクターさんは」


「それで、パパタローさん。どうなさいました?私でお力になれることがあれば」


「ありがとう。木漏れ日の谷に行きたいんだけど……西だってこと以外よく分からなくて」


カタリーナは顎に指を添えて小さく考える仕草をした。


そして、両手を頬の横でパンと叩いた。

「ムニン!」


空気がふわりと揺れ、白猫が瞬時に駆け込んでくる。

猫姿のままぴたりと止まり、すぐに獣人の姿へ変化した。


「何か呼んだかにゃ?」


「ムニン、パパタローさんが木漏れ日の谷へ行かれます。同行して案内なさい」


「道中は何があるかわかりません。くれぐれも用心を」


「え~~行くとは言ってないにゃ~。そんなに心配ならカタリーナが行けば──」


「何か言いましたかしら?」

にこりと微笑んだまま、目だけが鋭く光る。


ムニンはぴたりと固まり、同時にパパタローも凍りついた。


「はい!パパタローと同行しますにゃ!!」

気づけばパパタローまで姿勢を正していた。


カタリーナは満足げに微笑む。


「パパタローさん、本当にお気をつけくださいませ」


「人間族とエルフ族は国同士では友好を掲げていますが……実際には、長らく人間がエルフを迫害してきましたの」


「この間の市場の一件も、その名残でしょうね」


彼女は小さく息をつき、真っ直ぐにパパタローを見る。


「いくら“招かれた”とはいえ、木漏れ日の谷は繊細な土地ですわ。

何があるか分かりません。決して油断なさらないように」


「大丈夫ですよ。ほら、これもありますしね」

パパタローはエルフの杖を取り出して見せた。


「……これは。市場で見た時は気づきませんでしたが、アイナリーフの模様ですわね」


「アイナリーフ?」


「簡単に言うと、頭に葉っぱを乗せた“お狐様”ですわ」


「お狐様?」


「パパタローさんはご存知ないかと存じますが、アイナリーフ様はエルフの守り神。

九つの尻尾を持つ狐が、長寿ゆえに神格化し、外界へ降りる時にエルフの姿を取った──そんな言い伝えがありますの」


「へぇ……」


「聡明で長命なエルフは、その血を受け継いだとも。

逆にそれを嫉妬した人間族は、長命を奪おうとして神の逆鱗に触れ、短命になった……と続きますわ。

もっとも、人間族はその代わり創意工夫に長け、文明を発展させましたけれど」


「ただでは転ばないのが人間か……」

パパタローの脳裏に、ルミエルの姿がふっと過った。


※ ※ ※


にゃんにゃんにゃにゃーん♪


ムニンはパパタローのリュックから顔と尻尾だけを出し、ご満悦で鼻歌を歌っていた。

頭には静から巻き上げた狐面までつけている。


(白猫狐……お前、属性盛りすぎじゃない?)


「お前、人間化したり猫化したり便利だな」


「特訓したからにゃ。血のにじむ努力にゃ。変身なんて朝飯前にゃ」


「楽でいいよな、おい」


「揺れが少なければ完璧にゃ。でも眠くなるから悪くないにゃ……ふぁぁ……」


「いいなぁ、私も背負いたい」

カリンがうらやましそうに言う。


ムニンは誇らしげに胸を張った。


「カリンにゃ。私は“任務として”背負われてるのにゃ。勝手に降りたら怒られるにゃ」


「はいはい、わかりましたよーだ」


「分かればよろしいにゃ」


「いや、ただ“一緒に行け”って言われただけだろ」

パパタローが突っ込む。


カリンは猫じゃらしを鼻先でひらひら。


「へぶしっ……くしゅっ……や、やめるにゃ~~~!

遊びたいけど、遊んじゃダメにゃ~~~!」


「かわいっ」

カリンは笑い転げた。


やがて、パパタローが前方を指差す。


「……見えてきたぞ。木漏れ日の谷だ」


置灯籠の淡い光が道を照らし、

門までの空気は“夕暮れの神域”のように静かで、幻想的だった。

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