少年
「幽玄森入口ぃ~。幽玄森入口~ぃ。」
バス運転手のアナウンスが入った。
「お客さん。到着しましたよ。」とダミ声でない優しい女性運転手の声がした。
バス制服の胸元の名札に「吉田」と印字してある。
後ろで髪を束ね、「海沿交通」のマークが入った帽子を被っている。
確か前のおじいちゃん運転手も「吉田」だった気がするが、顔が似てなくもない。
世代交代だろう。
バスと言っても、満員になることは滅多にないため、地元密着のミニバスだ。
町のモールに行くときか、病院に行くとき、役場に行く時くらいしかつかわれない。
バスは海沿いを通り、森を抜け、町内を2時間毎に一周回るルートだ。
浜辺を見ていたら、いつものように安心しきって早々と寝落ちしてしまった。
乗車する時に、いつもの癖で運転手に行き先を告げていた。
優しい吉田運転手さんはバスを停めて教えてくれたのだ。
都会のバス事情は知らないが、ローカルバスは本当に親切だ。運賃は町民価格だ。
他所の事情は知らないが…。
僕は白洲花 太郎。14歳、中学2年生だ。
今から僕は勢い良く冒険に出ようとしている!
「吉田運転手!ありがとうございます。」
と、ズボンのポケットから50円硬貨と切符を運賃箱に投入し、バス停に降りた。
「お客さん、待って!」
「釣りはいらねーぜ!!」
「いえ、ちょっと足りないんですが…。」
「ん?」
太郎はバスに貼ってある休日運行の条件を読んでみた。
「夏休み運賃。小学生~中学生までみんな50円!(5歳以下は無料)なお、犬は50円です。」
「ほら」って書いてあるでしょという仕草で指をさした。
吉田運転手が
「ほら」って太郎の後ろを指さした。
「冒険!!!」
「タローにぃ冒険!」
’an adventure!’
「わん!」
と、元気よくバスから飛び降りてきた。
「沙織、幸恵、ノア、小太郎!なんで、お前らがここに居る!?」
「だって、タローにぃに言おうとしたら、いびきかいて寝ちゃうんだもん!!」
夏休みの宿題も終わって、何もすることもなく、家の中に閉じこもっているのが退屈だった。
誰も見てないTVから「森へ行こう!」とキャンプの番組が流れていたので、
唐突にただ森に行きたいという衝動に駆られた。ただしキャンプに行こうとは思わなかったことには留意したい。駆られたからには私の行動は理屈なしに早い。
釜に残っていたご飯をラップでくるんで適当におにぎりを作って、母親がおやつ用にストックして置いてくれたのり塩ポテチと冷たい麦茶を入れた水筒と充電し損ねたスマホを入れたリュックを背負い、近所のバス停にでようとした。
「タロー、どこ行くん?」
道場に向かう道着姿の母親に見つかった。
それを聞きつけた沙織、幸恵、ノア、小太郎がぞろぞろと出てきた。
「ちょっと冒険にねっ」
「タローにぃ、どこ行くの?」沙織10歳
「たろー、どこ行く?」幸恵5歳
’Taro, where are you going?’ノア12歳
「わん?」小太郎3年目
人の話を聞かない子らだね。本当に…。頭を抱えた。
「タロー、家出か?」
「タロー、家出だよきっと。」
’Taro, you're such a coward.’
「わん?」
家出じゃないし、ノアがなんか悪口言ってる気がするのはわかる。
"Noah, what are you saying? (angry)"
’Taro, where are you going?’
”That's not it! The next line!”
だいたいお前は日本語話せるだろ!
「痛い痛いぐりぐりしないでぇ~」
「いやー太郎は本当に愛されているねぇ。そこは母さんの誇りだよ。」
俺の母親は合氣道の師範だ。
ショートカットで姿勢に無駄がない母親は雄々しく、動画サイト 特に海外からのフォロワーが耐えない。
「セイセイトショウブー」という、片言の異国の方が、道場破りに来られることもしばしば。試合が終わると和気あいあいと、冷たい甘酒と塩昆布を振る舞って、リスペクトし合っている!
夏ともなると、地方から学生やら社会人やらが合宿に来て、技を磨いて帰っている。海外からの客人は、円相場によって増減する。それでも、客が後を絶たないのは母親が謙虚で礼儀正しく、凛々しいということがあるのだろう。
道場で色んな人が投げ飛ばされているのを見ている自分としては、反抗しても返り討ちにされるということを刷り込まれたのだろう。
今は反抗期なはずだが、あまり過激な反抗は、投げられるのがわかっているので、小出しにして発散している。
自家製甘酒は好きだが、流石に飲みすぎた。
「まぁ、行ってくるよ」
「太郎!悩んでるんだね」
どうしてそうなる!?
「戻ったら道場に来なさい。久しぶりに投げ飛ばしてやっから。」
「投げとバァす!」
「あははは」
「わん」
バスが来た!
「ははは。バス停までお見送りありがとう!」
「気をつけるんだよ~。」
「……」
あれ?静かだわ…。
「さぁ。稽古稽古。」
と思い出しながら太郎はしぶしぶ町民価格に助けられた不足分の150円を渡した。
「はい。」とにこっと笑い、屈んだ吉田運転手は手のひらを太郎にだした。
「ありがとうございます。またのご利用をおまちしておりますね。」
「そうそう、帰りの時刻を確認してくださいね。いってらっしゃーい。」と
吉田運転手さんが手を振って教えてくれた。
バスがクラクションを鳴らし4人と一匹を残し出発して行った。
バスの後側にラッピングされた「すいこの里」という文字とニコッと笑ったご当地キャラ「すいこちゃん」が小さくなっていった。
「なんで、お前らが着いてきてるんだ!!」
「沙織も冒険行くの!」
「幸恵も!」
「me too!」
「わん!」
…数秒の沈黙が流れた。にらみ合いの間の蝉の音が汗を誘う。
「はぁ」
着いてきてしまったものはしょうがないと兄として冷静になった。確認しておくか…といっても、バス本数は殆ど無い。
最終18時かぁ~。
ちなみに9月からは17時になると案内が貼られていた。
「念の為、連絡しておくか。」とタローは携帯を取り出した。
携帯のコールが鳴ると同時に、母親が出た。
「あ。お母さん?妹達が着いてきてたんだけど…。」
「ああ。沙織、幸恵、ノア、小太郎がいるよ」
「やっぱり~」
沙織、幸恵、ノア、小太郎見つかった!太郎とやっぱりいたわ!と電話の向こうから聞こえる。
「悪いけど、今日は一緒に遊んでやって?」
楽しそうに遊んでる妹たちを見て怒る気も失せた太郎は電話口で応えた。
「…。わかった。」
「やったー冒険!」
「冒険!」
「ボウケン」
「わん!」
幽玄森入口には鳥居がある。
「え~何々?「帝の愛妃「翠狐」は九尾の狐の化身でした。巫女がこれを見破り、武士が狐を退治すると、狐は毒を放つ石に変身しました。後に僧が一喝して石は9つに割ると、妖石は各地に散らばり、その一つがこの地に残っています。 」という伝説がある。」
と、入口の案内板に九尾の狐の可愛らしいキャラ「すいこちゃん」と共に書かれていた。
「そっかぁ~。へぇ~。あるあるぅ。」
いつものそっけない同意返事をしてみる。
「お兄様!そういう白けた言動はおやめください。」
「だから若者は!といわれるのですよ。」
「誰だよ…。」
興味が湧いて颯爽と森に入ったことが会ったが、そんな妖石は無かった。
という理由でお決まりの同意なのだ。
なんでも物語性があったほうが有り難みが出るといった地方再生と言ったところだろうかと勝手に解釈した。
そうだ!
「ちょとしたゲームをしよう!」
「ゲーム?」
妹達が盛り上がりを見せた。
「どんな物でもいいので、赤色を見つけたら無条件に森に入るのだ!」と大声を出してしまった。ちょっと恥ずかしくなって周囲を見渡すが誰もいない。お地蔵さんくらいだ。
いつもと同じ道を辿るのは嫌だなぁとルールを思いついたのだ。
「迷路だと左手の法則だっけ?」
左手を壁につけて回ると攻略できるという法則があったけど、迷路じゃないけど、こういう場合は左から行こう!と鳥居を迂回し左側の道を進んでみた。
「左から行こう!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
赤…赤…赤っ
「あかっ!!」
頭で繰り返していただけだったが、いつの間にか口から叫び出た。
見つけようと思うと中々見つからない。
かれこれ小一時間あるいただろうか。
あかい~ゆうひが~ぱっぱらぱ~♪
あかい~ひでお~♪
あかぎれ~
あか(垢)はきたない~
アーカンソー州はさすがにここではない~
即興で歌を歌っていたが、ネタが尽きてしまったというより、面白くないで、いつの間にか、”あか”が付けばなんでも良いに変わっていた。
「ちょっと!お兄ちゃん、あれ見て!」と慌てた沙織の声があった。
「お?あったか?」
パパタローは赤だけを追いかける疲れ目で沙織が指さした看板を見た。
「熊出没注意」
黄色地に黒文字とクマのイラスト
「違うな。赤じゃない。黄色と黒はボクにとって、単なるノイズさっ」
「いやっ、そうじゃなくって~~~!」
クマ!?
oh!bear!
わん!
パパタローが鼻歌を口ずさむ。
「きいろーとくろーはふんふんふんふんふうんん~♪」
24時間戦う気だ!
******
「タローにぃ、モーダメー。疲れたぁー」
「もうだめ~。疲れたー。」
「わん!」
小太郎は元気だ。
「よし、飴ちゃんだ!」
「わーい。あめちゃんだ!あめちゃんだ!」
「木陰でお茶休憩にしよう!」
「はーい、きゅうけいきゅうけい!」
「すぐ見つかると思ったんだけどなぁ。右側経路にすれば良かったかなぁ。」
「そもそも森に赤はないのかなぁ…。」
「…いやっ。あるんだぜ!」
「…」
ルールを曲げるは容易いが悔しい。
「くそっ!」
目の前の石を思い切り蹴り飛ばすと──
「パーン!」
石が倒木にドサッ!と当たり、続いて「バキッ!」と枝が折れる衝撃が森に響いた。
土と落ち葉が舞い上がり、静かだった空間が一瞬にしてざわつく。
「……え?」
周囲の静寂を破るように、森の奥からゴソゴソ…という足音が近づいてくる。
妹たちも小太郎も固まり、一瞬にして張りつめた空気が生まれた。
そして──木の陰からゆっくり現れたのは、
大きなクマだ!
<解説ナレーター>
クマは最初、石がぶつかった倒木の辺りをじっと確認するように立っていた。
これはクマが「物音に反応して、何が起きたのかを確かめに来た」だけの、自然な行動だと考えられる(好奇心や警戒心によるものです)。
タローは赤を見る余裕さえないまま、恐怖が全身を支配する。
その瞬間、一同は一斉に叫んだ:
「ぎゃーーーっ、クマやーっ!oh! bear! わん!」
妹たちと小太郎を抱きかかえ、タローは全力で森へ駆け出す。
うわうわうわううわうわうあうあうわうわうあうわうあ!!!!ぉぉお!!
クマが反応して、パパタローを追ってきた!
くるなぁーくまぁ~~~!!
「あ!タローにぃ!」
「なんだよ!!!」
「赤だ!赤だよ!!」
・・・赤毛の狐だ!!
一同のテンションが上がるが、クマだ!!!
「こんな時にぃ!!!」
赤い狐はじっと逃げているパパタローを見ていたが、やがてぴょんと5メートルの幅がある川を飛び越えた。
「とんだ!」
あかいきつねは、振り返りタロー達をじっと見て、森の中に消えていった。
「来いって言ってるよ!」と幸恵が叫んだ。
「わん!」
「こんな時でもルールはルールだぁ!ここから入るぞ!」
「え~。川の向こうは草だらけだよ~」長女の沙織が嫌がった.
「大丈夫!小太郎!川を渡って草を蹂躙せよ!」
小太郎は川の石を使って対岸に行き、草を倒し道を作り出した。
「流石だ!小太郎!本当にやるとは思わなかったけど・・・。とにかく逃げろー」
追ってきたクマは立ち止まり、川を越えることをためらい引き返していった。
****
「やった、クマは来ないぞ」
「やったー」
「ワン!」
「あはははは」と、腰が抜け、後ろにパパタローが倒れた。
パンッ
リュックの中で何かが破裂した音がした。
「わぁっ」
「痛ててて…」
「ゆっきーもやるっ」と、幸恵がタローの真似をして尻もちをついてみせた。
「あははは、いってぇー」
「パンッって?」
リュックを開けるとのり塩ポテチが破裂し、中身が飛び散っていた。
「破れてる!」
「あ~あ~…」と1枚をとってはぽりぽりとみんなで囲んで食べた。
リュックの中の残りのり塩ポテチを袋に入れ戻した。
疲れたぁと、リュックを枕にして寝転んで空を見ていると、香ってきた。
「のり塩の匂いだぁ…。」
「”のぉ”はのりしおの~のぉ~♪」(ドレミの歌調)
「はははっ」
自分達で決めたルールに縛られているのが滑稽だったが、リュックから漂ってきたのり塩ポテチの匂いが笑いをさそった。
生きてる…
外で食うポテチはうまいと思いながら空を眺めていた。
バリバリバリ!
「こらこら、そんなに一気にポテチを食うじゃない!沙織!」
「私食べてないよ!」
その時、ふさふさっとした白尾は長く胴は赤い狐は軽やかジャンプしタローの側に着地し、匂いを嗅いた。赤というより茜色だ。
「うわっ赤い狐だ!」
「たべるか?」と、リュックからポテチを放り投げた。
するとあかいきつねは、ポテチめがけてタローの手ごと口の中に入れた。
「わぁつ」
タローは噛まれたと思い手を引っ込めた。
よだれでベトベトだ。
あかいきつねはリュックに顔を突っ込んで、ポテチを漁った。
「ちょっと~!ポテチがぁ~~~。」
赤い狐は食べることをやめ、歩いていった。
「あれ?道がある・・・。」
小太郎が蹂躙した草の向こうには石畳の道があった。
「何だか、行けそうだね。」
「ナンダカテンションアガッテキター!!」ノアが興奮して、小太郎と走り出した。
「こらー待てぇー」と、一同は石畳の道を歩きだした。
15分も歩くと、霧がかってきて、周りが徐々に見えなくなってきた。
木々の中に入り込み、それでも進むと一風が吹き霧が一瞬にして消え綺麗な緑の草原が広がる空間になった。
霧はしんしんと冷たく、静寂が一瞬、世界を飲み込んだ。「タローにぃ…見えた?」沙織が囁く。
タローは振り返ったが、そこには何もない。ただ、木立の奥に、狐耳を揺らしたようにも思えた。
キュー
「あの赤い狐だよ。変な鳴き声! きゅーーー」
あかいきつねが、霧の向こうで振り返って呼んでいる。
「こっちへ来いって?」と都合よく解釈しその方向に歩いていくと、その先の池の前に朽ち果てた神社の祠と桜の古木が見えた。
池の水面にはその風景が映し出されていた。鏡のようだった。
池の底は見えており、こんこんと水が湧いていた。
「わぁ、湧き水だ…」
「こんなところがあるんだ…。」
手持ちのスマホアプリで位置を確認するが、ざっくりとした位置を示すだけでそれ以上はわからなかった。
「まぁ、いいや。」
「まぁいいやー」
スマホをリュックにしまいながら、神社の祠に近づくとあかいきつねの子供が一斉にタロー達を見たかと思うとキューキューと鳴きながら方方に散らばった。
「うわっ。びっくりした。こんなにきつねがいたんだ…」
「きつねかわいいいいい~。7匹いるよ!」
狐達は物陰からパパタロー達を観察していたが、危害を加えられないと思ったのか、舞い戻ってそれぞれ遊びだした。
「かわいいいい」
妹たちの目は可愛いものを見て目がとろけていた。
祠に座りパパタローをじぃーーーーっと見ているようだ。
「ん?」
「こんにちは。さっきのあかいきつねかな?」
「僕はタローだよ!」
「私は沙織」
「私は幸恵」
「ノア」
「わん!」
自己紹介したつもりはなかったのだが、妹たちが続いた。
きつねからは返事はない。自分は悪い人じゃないよとアピールしたつもりだったのだ。
「そりゃ、そうだよね」
「…」
にやっ
「うりゃうりゃうりゃうりゃ~~~~!!!」
とタローは手足タコ踊りで、小ぎつねを脅かしに向かってみた。
一瞬ひるんだ狐だったが、パパタローを甘噛で返り討ちした。
「あはははは」
「痛テテテ」
「これなにー?」
幸恵が指さした。
祠の側には、人が座れるくらいの大きさの石があった。その石は緑の苔に包まれ、まるで自らを美しいものであることを誇りに思っているかのように見えた。
不思議なことに、石の端には苔が生えておらず、私はその場所に座ることができると感じたが、何だか失礼な気がして、石の隣に座った。自分の行動が滑稽であることに気づき、石の隣で自分自身に笑った。
「あ。おしっこしたい…」
「この石にかけたら…」と、いたずら心でチラと横目で見た。
その時、あかいきつねが、瞬時にタローを池まで追い立てた。
「わぁ~何?なに?やめてよぉー。」
それ以上は、追い立てられることもなく、あかいきつねは引き返していった。
ここでしろと言ってるのかなぁ…
「まさか、あのあかいきつねが祠を守ってるとか?」
「まさかね…。」
「ふぅ」
少年は用を足し、祠に戻ってみると、あかいきつねがリュックに首を突っ込んでいるのが見えた。
「あー、僕ののり塩ポテチ!!」
「ゆっくり食べようと楽しみにしてたのになぁ。」と、自分で握ったバカでかい不格好な、おにぎりをリュックから出し、みんなで分けて食べた。
「ぶかっこぉーー」
のり塩ポテチはあかいきつねが全てつついて食べてしまった。
太郎は、この場所が気に入り、通うようになった。その都に、のり塩ポテチを持っていくのだが、ことごとくあかいきつねに奪われて食われてしまった。
「今日からお前はノリシオだ!今度はコンソメを持ってきてやる!」と嫌味のつもりで、あかいきつねに名前を付けた。
ただ、不思議なことに祠にお供えしたポテチは無事なのだ。
水筒の温かいお茶を飲みながら、石の隣に座って、何かあると石の元に行き、一人で語っていた。そこからは、壮大な空の景色が広がっていた。
「ここは、落ち着くなぁ。」
そのうちに、石が私の膝に座れと呼びかけるように感じた。膝はどこなのかと思いながら、私は苔の生えていない部分が膝だと感じ、座り、一人で語り続けた。そうするうちに、不思議な温もりが私を包み込むように感じられた。
今日の出来事や学校での出来事など、石に語り続けるうちに、石が私に反応しているような気がした。心に響く優しい音に涙がこぼれた。
何度か通っている内に、不思議なことに気がついた。
何かのルールにに乗って、石は配置されているようだった。何とはなしに石を線で結んでみると八稜星《はちぼうせいOctagram》になった。
いや、正確には一つ石が欠けていたので、完成しなかったが、これから1つ追加されるであろうという想像ができた。
そして尖端をぐるっと円で結んでみる。
「おお~!魔法陣だ!」
「まほーびん?」
「魔法陣ね。」
「わん!」
「…まぁ、そうだよな。」
魔法陣を書いたからと言って何か起きるわけがないのだが、子狐が一斉に散っていった。。
「わぁ~凄い!」
「すごーい」
「ウ”ーワンワンワン!!!!」
狐耳の女性の姿が一瞬見えた。
あれ?見間違いかな?
雨が降ってきた。
「お天気雨かな?」
「おーい、雨宿りしよう…?」
返事はない。
「…あれ?」
「誰かと一緒に来てたような・・・」
同じ道を辿りながら歩いていると、ざわざわとしたものが胸に残った。
振り返っても、そこにいるのは自分だけだった。
大切な何を失った感覚だけがあった。
コピペ:八芒星は、完全生や再生、無限の循環などを象徴すると言われています。
※4翠:みどりや青緑色を意味する。「みどりのきつね」2021年に期間限定で販売されたらしいですね。知らんけど…。
※5茜:深い赤みを帯びた色