初対面の再会@海山楽市(メーア・ウント・ベルゲン市場)
ーーー半年が経った。
まずはシルバー邸にて
薄曇りの朝、シルバーハート邸は、いつになく静かだった。
食堂の大時計は律儀に時を刻むのに、厨房の鍋も廊下の足音も、息をひそめている。
テリアスは、銀器の艶を確かめてから、ふっと息を吐いた。
「……今日は、やたらと静かですねぇ」
返事の代わりに、白い影が廊下を横切った。
小さな足取りで、まるで霧のように。悪夢を喰う白猫――ムニンが、尻尾で床を一筆描く。
「そこの、ムニン……」
テリアスは言い直した。
「いや、ムニン・ソクラテス殿。メイド十三人衆が見当たらないのだが?」
ムニンは立ち止まり、首をかしげる。
「在る沈黙は不在を語る。ならば今日は“在らん”――全員、市だにゃ。」
ひげを揺らし、どこか得意げに続けた。
「買い出し遠征、総出にゃ。帳尻と香辛と、ついでに幸福の分量を量りに、にゃ」
「……は?」
テリアスの眉がぴくりと跳ねる。
「カテリーナは采配、エリザベスは相場、マリアは香り、ソフィアは布――」
ムニンは前足で空中に目に見えぬ目録を書きつけ、
「リディアは救急箱、アンは呪文の頁、ジュリアは木剣の骨、ヘレンは祭具の色……」
と、淡々と列挙した。
テリアスのこめかみに青筋が浮かぶ。
「全――員――で――行――く――こ――と――は――な――か――ろ――う――がっ!!」
腹の底からの一喝が、廊下の燭台を震わせた。
遠くの部屋で、窓硝子が細かく鳴る。
ムニンは瞬き一つ。
「数は力、だが空の城を守るのは留守番の一点。あなたは“扉の鍵”だ、テリアス」
白猫はくるりと背を向け、角を曲がりながらひと言だけ残す。
「昼過ぎ、東の噴水。風が集まる。――報せは、そこから」
テリアスは額を押さえ、深く息を吐いた。
「……はいはい、鍵も戸締りも、わたくしめの役回りでございますとも」
ぶつぶつ言いながらも、彼は廊下の窓を順に確かめ、最後に大扉の閂を撫でる。
「留守は城の心臓。ならば動悸は、私が受け持ちましょう」
廊下を渡る風が、誰もいない食堂の蝋燭をゆらりと揺らした。
静けさは、嵐の前の整然――そんな気配だけを残して。
海山楽市(メーア・ウント・ベルゲン市場)にて
この日、海山楽市にやって来ていたのは、パパタローたち三人だけではなかった。
シルバーハート邸からは、メイド十三人衆も総出で「買い出し遠征」に駆り出されていたのだ。
「では皆さん、昼過ぎには東側の噴水前に再集合ですわ。
持ち場と担当品目は、先ほどお渡しした書き付けの通りにお願いします。」
カテリーナは、
いつもの戦鎚は邸で留守番。
代わりに、清潔な白手袋をきゅっと引き締める。
その指が、一瞬だけ止まった。
何事もなかったように手袋を整えると、
メイド十三人衆は自然と背筋を正した。
武器など不要──
日常の買い出しにおいて、
彼女たちは“戦士”ではなく、“働くメイド”なのだ。
「では、行動開始ですわ」
その号令に従って、
色とりどりのメイド服が市場へと散っていった。
エリザベスは、帳簿を片手に両替商と向かい合い、銀貨と銅貨の相場をきっちり確認している。
キャサリンは、苗木と鉢植えが並ぶ露店の前でしゃがみ込み、陽当たりと水はけを店主に矢継ぎ早に質問していた。
マリアは香辛料の山を前に目を輝かせ、「これをこう刻んで、ああ炒めて……」と、すでに晩ごはんの新メニューを組み立てている。
ソフィアは布地とリボンの店で、カラフルな反物を次々と広げては、「カリン様にはこちら、パパタロー様には……ふふっ」と一人で盛り上がっていた。
アンは古本屋の軒先で分厚い魔法書を抱え、値札とにらめっこしている。
リディアは薬草と包帯を扱う店を冷静に見定め、質と量のバランスを寸分違わず計算しているようだった。
ジュリアは路地裏の訓練用木剣を手に取り、「軽さはいいけど、これじゃあ実戦じゃ折れるわね」と店主を苦笑いさせている。
ヘレンは祭具や色とりどりの紙飾りを手に、「これなら次の収穫祭イベントで使えそうね!」と上機嫌だ。
イザベルは異国風の土産物店で店主と軽やかに会話を交わし、各地の言葉で「ありがとう」を試してみせ、周囲の客まで笑わせていた。
エレノアは人混みの流れと死角をさりげなくチェックしながら、短剣の重みを確かめるように腰に手をやる。
アビゲイルは掃除道具屋の前で、箒の毛並みを真剣な眼差しで撫で、「これなら大広間の隅までいけますわね」と満足げに頷いた。
クララは通りの端で新しく買ったフルートをそっと鳴らし、市場のざわめきに紛れるように短い旋律を試してみせる。その柔らかな音色に、足を止めて耳を傾ける人の姿もちらほら現れた。
「では、私はお二人の護衛と同行を優先しますわ。あとの皆は任せましたからね」
そう締めくくると、カテリーナは白手袋の指先を整え――
その動きが、一瞬だけ止まった。
次の瞬間には何事もなかったように歩き出し、
パパタローとカリンの方へと歩み寄る。
歩き出しかけたところで、
パパタローは、ふと気づいた。
メイドたちの胸元。
白手袋やエプロンの陰、同じ位置に、同じ留め具がある。
深い――碧。
飾り立てるでもなく、
光を主張するでもない色。
「……あれ」
足を止めるほどでもなく、
ただ、思ったままを口にした。
「みんな、同じブローチ付けてるよね」
「きれいだな。あれって、何か意味があるの?」
一瞬、空気が揃って止まる。
誰かが微笑み、
誰かが視線を逸らし、
誰かが、そっと胸元に指を添えた。
やがて、カテリーナが静かに答えた。
「エリス姫の、碧い瞳を写したものですわ」
「姫の……瞳?」
「剣ではなく、判断を誤らなかった方」
「その在り方を、胸に留めるために」
それ以上は語られなかった。
パパタローは軽く頷き、
それ以上は聞かなかった。
今は、
説明されない方がいいものもある――
そう感じたからだ。
碧は、十三人の胸に、変わらず留められていた。
やがてメイドたちは、それぞれの担当と興味に引き寄せられるように市場へ散り、パパタローたち三人だけが、喧騒のただ中にぽつんと残された。
――そして。
「あっあっ!!
ちょっとパパタロー!!美味しそうなお菓子があるわよ!」
カリンが指差した店は、喧騒から外れ、小さな路地にひっそりと佇む和風の建物だった。木製の引き戸には細かな彫刻が施され、古風ながらも上品な趣が漂っている。店の前には、狐の絵が描かれた赤い幟が風に揺れ甘味屋マルコと書かれていた。
入口には石灯籠が置かれ、その灯りが温かみのある光を放っている。
「流石カリン。食には目がないね。」
「まぁね」
と二人は親指を立て、指を重ねた。
(なんでしょう?この擬似親子は…)とカテリーナは羨ましく、そう思った。
「これ、和だね。」
「和だね。」
「和?ですか。」
「私達の故郷ですよ。」と不思議そうなカテリーナに答えた。
「こちらの文化に置き換わってますが、ベースは和になってます。日本人が先んじて、転生でもしてるのかな?」
「パパタローさん達は、こういう国に住まれていたのですね。知れて嬉しいです。」とカテリーナは共有出来たことをパパタロー達と同様に嬉しく思っているようだ。
店頭には色とりどりのお菓子が並べられており、木の香りが漂うショーケースには、油揚げを袋にして生クリーム・カスタードクリームと果物を詰めた珍しいスイーツが美しく陳列されていた。
シュークリームぽいと言えなくもない。美味しそうと言ってしまうところがカリンらしい。
「食べてみます?エルフ系のお菓子ですわ。アイナリ・マンドゥっていいますわ。」と、カテリーナ。
「エルフ系?アイナリ・マンドゥ?」
(まさか稲荷饅頭ってことでは?)
「確かエルフのご先祖様がアイナリさんなんだよ。エルフの油揚げ好きの由来はその時の名残だぜ。」
店のおじさんがカテリーナの手を取り、割って入ってきた。
「さぁさぁ店の中へどうぞ。」
店の店主は、年配の男性で、白髪混じりの短い髪とふさふさした眉毛だった。丸いメガネをかけており、笑うと目尻に優しいしわが刻まれている。身長は中くらいで、少しぽっちゃりしていますが、それが彼の親しみやすさを一層引き立てています。白いエプロンをつけており、そのエプロンには様々なクリームやチョコレートの痕が見られた。
強引な店主だなぁ・・・と一同、呆れていた。
カテリーナは握られた手をそっと外し、気を悪くしないように、店主の両手を重ねた。
「あら。はははは。」
店主は頭を掻いた。
「ここに書いてありましたわ…アイナリ厨司。アイナリは狐の事ですね。厨司は収納具でしょうか。※2」
「……まぁ、食ってみな。旨さは保証付きだ!」
「じゃぁ、3つくださいな」
「一番上のお姉ちゃんかい?面倒見がいいねぇ!サービしちゃおう!」
そう言うと、袋に各種詰め込み、手渡すと同時にカテリーナの手をまたも握った。
懲りないおじさんだなぁと一同、呆れた。
「ありがとう!お兄さん!(おじさん)」
と、そっと握られた手を外し、
「お兄さんはエルフと何か関係があるのですか?」
「昔の事だから俺はよく知らねぇが、露頭に迷っていた先々代がよぉ、迫害で逃げていたエルフをかくまったんだとよ。そん時の礼にと、このお菓子の作り方を教えてもらったんだよ。大きな声では言えないけどな。」
「そこから始まったんだ。このお菓子は。」
「お菓子は迫害されなかったんだ。」
「お菓子に罪はない!」とおじさんが胸を張って言った。
「じゃぁエルフにも罪はないんじゃないの?」とカリンが突っ込んだ。
周りの目がパパタローたちに向いたが、すぐに散解した。
「滅多なことを言うじゃねぇ。誰が聞いてるかわからんからな。」
店主は小声で言った。
(あんたが言ったんじゃん…。)
「さぁ、買ったら、行った!行った!商売の邪魔だ!」
店主は周りを気にして敢えて大きな声で言った。
「また来るよ!」とパパタローは察して言葉を投げかけた。
店主の表情は悪いなお前らという顔つきだった。
エルフは迫害されているらしい。
確か王国はエルフを保護しているはずなのだが…。
市場の一角に休憩できる場所があった。
焼きたてのパンの香りが漂い、汗ばんだ商人が腰を下ろして笑っていた。湯気の立つマグからは甘いミルク茶の香りが漂い、木のベンチには布を敷いた家族連れが笑い声を上げている。風が吹き抜け、果物と香辛料の匂いが混ざる空気に満ちていた。
そこで、アイナリ・マンドゥを食べることにした。
「本当に油揚げだな。これ。」
「このデザート、見た目は普通の油揚げなんだけど、一口かじると中から生クリームと果物が出てくる。香ばしい油揚げの香りと生クリームの甘い香り、フレッシュな果物の香りが混ざり合って、食欲をそそるよ。食感も面白くて、外はカリッとしてるのに中は滑らかでクリーミー。そして果物がジューシーだから、いろんな食感が楽しめるんだ。
味も絶妙で、油揚げの塩味と生クリームの甘さ、果物の甘酸っぱさが完璧に調和してる。ほんとに多層的な味わいが広がるんだよ。」
「カリン、食レポありがとう…。」
「店主30個詰めてください。」
「あいよ!」
パパタローはお土産を買った。
包まれているあいだ、パパタローたちは、町の活気を眺めていた。
異世界に来てから5年が経っていた。
メーア・ウント・ベルゲン市場、別名「海山楽市」は、トバノツからカモガを遡った場所に位置し、海の幸と山の幸、乳製品、お菓子などが所狭しと並ぶ、活気あふれる場所だった。
「新鮮な鯛はいかが!トバノツから今朝届いたばかりだよ!」
威勢のいい声が飛び交い、市場は朝早くから賑わっていた。カモガやホリカ、カミヤカを利用して、各地から船で運ばれてきた魚介類は、見るも鮮やかで、市場に活気を与えていた。山間部から運ばれてきた新鮮な野菜や果物、そして乳製品や菓子は、ホリカ沿いに立ち並ぶ店に並べられていた。
市場を歩けば、多彩な色と香りが立ち込める。商人たちは新鮮な野菜や果物、美味しそうなパンや菓子を並べ、客たちとのやり取りで笑顔で忙しく働いていた。
市場の中央には、広い水路が走り、ホリカから引き込まれた水が静かに流れていた。水路沿いには、船着き場があり、各地からやってきた船が荷を下ろしていた。船頭たちは、荷物を降ろし終えると、近くの茶屋で一服していた。
市場の一角では、陽気な調べが響いていた。
アコーディオンやギター、カスタネットの音が重なり合い、市場全体を包み込むように響き渡っていた。演奏に合わせて、人々は買い物を楽しんだり、茶屋でお茶を飲んだり、思い思いの時間を過ごしていた。
私も何度かこの市場に足を運び、文字や買い物を覚え、人々の様子や習慣を徐々に理解してきた。
ある日、市場を歩いていると、見慣れない船が停泊していることに気づいた。船には、見慣れない旗が掲げられており、乗組員たちは、見慣れない言葉で話していた。
「あれは、ミラーベール島からの船だ。」
近くの店の主人が教えてくれた。
「ミラーベール島からは、珍しい品物がたくさん運ばれてくるんだ。香辛料や織物、それに珍しい果物なんかもね。」
ミラーベール島からの船は、市場に新たな活気をもたらしていた。異国の品物を目当てに、多くの人々が集まり、市場はいつも以上に賑わっていた。
市場には、さまざまな人々が行き交っていた。貴族や僧侶、商人、農民、そして私のような異邦人。彼らは、それぞれの目的を持って市場にやってきて、それぞれの時間を過ごしていた。
市場は、人々の生活と文化の中心地だった。
パパタローは5歳の姿まま変化がないが、アシュレさんの農場の手伝いをしながら、シルバーハート邸では料理長と呼ばれるようになっていた。
カリンも相変わらず10歳位の姿のまま変化がなく、クラウスの店を手伝っている。周りから天然剣士と言われているのは本人は知らない。
成長が止まってしまった事や、怪我をしてもすぐ治る体質になってしまったことで、二人は勝手に「異世界転移の呪い」と言っていた。
カリンのぱっつん前髪は延び、目に刺さるような長さになった。三つ編みは止め、髪をポニーテールにまとめていた。長い髪が軽快に揺れるポニーテールは、彼女の爽やかな笑顔とよく調和し、さらに彼女の魅力を引き立ている。
前髪が目に入らなくなったことで、彼女の視界も広がり、より活動的に行動することができるようになった。また、ポニーテールにまとめることで髪の毛が顔に触れることがなくなり快適だとカリンは言った。
「ねぇ、パパタロー、今日のお昼、どこか美味しいランチが食べたいなぁ。何かいいお店知ってる?独眼竜パパタロー」カリンが軽快な足取りで踊りながら笑いながら言った。
ご機嫌なのが手に取るようにわかる。
久しぶりのお出かけだからもあるだろう。
「独眼竜じゃない!恥ずかしいわ!」
「あら、似合ってますわ。独眼竜とは片目のドラゴンですか。」と、満面な笑みでカテリーナは言う。
「お前は、手袋でいいなあ。見た目普通だからな。」
(人が多いな……。
眼帯、やっぱ蒸れる)
彼らの明るい笑い声が市場に響き渡り、通りがかる人々も楽しそうに笑っている。
「というか、まだ食うのかぃ!?」
「それにしても、今日は衛兵が多いね。何か特別な行事でもあるのかしらね?」と口の周りがクリームだらけの彼女は周囲の景色を見渡しながら、カリンは不思議そうだった。周りには普段よりも多くの衛兵が見受けられる。何かあったと考えて良さそうだ。
メーア・ウント・ベルゲン王国の衛兵は、目を惹くロイヤルブルーの軍服を身にまとっていた。胸元には金の刺繍が輝き、羽根飾りのついた帽子が風に揺れていた。
通常、帽子には羽根飾りや王室の紋章が飾られ、衣服には縁取りや装飾が施されているのだ。
ヴァト王がトニール王子のクーデーターによって失脚してから、早20年が経つ。それ以降、ヴァト元国王や側近などの消息は掴めていない。
「そう?」とパパタローは呑気に言う。あまり気にしてないようだ。
カテリーナがパパタローに不穏な状況を指摘した。
「市場はいつも活気があり、衛兵が巡回しているのは普段の光景だけど、今日は衛兵が増強されているわね。警戒レベルが上がっているのかしら?もしかして、重大な事件が起きているのかしら、または前触れがあって情報収集しているのかもしれないわ。あるいは、私達が魔物を引き寄せてしまっているからか、祭りや他の行事の治安維持のために増強されているのかしら?どうしても、状況が不穏な様子だわ。」
彼女の言葉には緊張感が漂っており、笑顔でごまかしながらも周囲の状況を注意深く見ていた。
「魔物の引き寄せは勘弁だな…。」
カリンはべっとりとカテリーナにくっつき心配していた。
「心配しなくても大丈夫。きっと何か理由があって増強されているんだろうし、私たちは、関係ないわ。でも、そろそろ帰りましょうか。」
「そうですね。」とパパタローも発言したが、
カリンは衛兵に追われているおばあさんに気がついた。
おばあさんは金色の髪を丁寧に後ろで髪留めでまとめている。人生の経験や苦労がにじみ出ているような、しわが深い顔立ちだが、とても優しい目で知恵に満ちた輝きをしている。
身なりは清潔であり、地味ながらも実用的な動きやすいな服装を選んでいるのが分かる。
市場での買い物にきているからだろうか。
フードを被った小さな子が泣きながらおばあさんと逃げている。
一人の衛兵がおばあさんの後を静かに追っている。
おばあさんはそれに気がついているようで、手提げの籠に市場で購入したであろうりんごを入れて持ち、杖をつきながらも、できるだけ早足で歩いていた。
「ああ!」
「ママ!」
もう一人の衛兵がおばあさんの前方から出てきて、おばあさんに故意にぶつかり、倒した。
籠に入っていたリンゴが道にちらばり転がっていった。
「おっと、ごめんなさいよ。急いでどちらに。」
臭い息がかかるであろう近さまで、顔を近づけている。
「お嬢ちゃんが泣いてるね。大変だろう。預かろうか?」
「こら、よさぬか!」
「公務執行妨害か!」
「ああ!」
少しばかりの抵抗は衛兵に口実を与えてしまった。おばあさんは衛兵によって路上に突き飛ばされたのだ。
「衛兵に抵抗とはいけないですな。」
衛兵の態度は傲慢で高慢であり、権力を乱用していることを勘違いして王国の権威を自分の実力だと勘違いし、自信に満ちているようだ。彼らは市民に対して横柄で侮辱的な態度をとり、自分たちが支配者であるかのように振る舞っていた。
衛兵は体格的にはがっしりとしており、力強い体つきで、その大きな体格は、彼らの威圧的な存在感を強調している。声は、荒々しく威圧的であり、命令的なトーンで自分たちの権力を主張し、市民に対して服従させるための声は軽蔑や敵意がにじみ出ている。
存在が不快な雰囲気を醸し出している。
正義の象徴であるはずの軍服が恐怖の象徴と化していた。
トニール王体制にしても腐敗をしているのか!?
「ほほぉ。こんな婆さんを、母親と呼ぶ、お嬢ちゃんは誰の子なんだい?おかしいねぇ」
衛兵が子供に詰め寄り、フードへ手を伸ばした。
「何を言ってるんだい!」
(止める?
……いや、止めない)
次の瞬間――
ドカッ!
カリンは椅子を掴んで立ち上がり、そのまま駆けた。
振り抜いた椅子が、衛兵の兜を真横から叩き飛ばす。
「ぐわっ!」
椅子は壊れ、脚の一本がもぎ取られていた。
衛兵の兜はへこみ、乾いた音を立てて地面を転がる。
——やりすぎたかな。
そう思いつつも、カリンは椅子の脚を手に取り、迷いなく構えた。
パパタローは天井を仰ぎ、ひとつ深呼吸する。
呆れたようでいて、どこか楽しそうな顔だった。
(……大胆になったな)
それでも目を伏せず、彼女の背に視線を合わせる。
——付き合うぞ。その覚悟に。
「……さて、行くか」
カリンを横目にパパタローはおばあさんに駆け寄り、ヒーリングを掛けた。
おばあさんの表情が穏やかになった。
「おかあさん!」
試験は試験!
あれは紙と机の上の話!
市場で泣いてる子を見たら、
そんなの関係ないでしょ。
……って言ったら、
クラウスにため息つかれました。
でも。
止められたから、よし。
※1油揚げを収納具に見立てて、中にクリーム・フルーツを入れるイメージ
※2この世界のメイドは戦闘種族メイダが主に職についており、護衛を行っていた。食事や掃除の仕事はごく一部でああり、主要な仕事ではなかった。




