ヴァト王と仲間たち
遡ること20年
神聖な王国、メーア・ウント・ベルゲン王国。
異界からの侵略を古の時代、「山の神の力」と「海の神の加護」によって退けた伝説を持つこの王国は、山と海に守られている。
王都ヴァルトクロンは、雄大なシルバーホーン山脈の麓に位置し、その頂には伝説的な「シルバーホーン城」がそびえ立っていた。
神々が眠り、精霊たちが集うとされるこの王国は、長きにわたりその威光を保ち続けてきたが、近年、その輝きは薄れて久しい。
その城の王の間、「クリスタルスローン」。
無数のオレンジ色のろうそくが揺れる中、詠唱隊からの厳かな呪文が聞こえてくる。その声は時に強く、時に優しく、聴く者の心を掴む。静寂の中に響き渡る呪文は、床に書かれた魔法陣に吸収され、その魔法陣が正常であることが確認された。
魔法陣の機能確認が側近のアイデに伝えられると、しばらくして彼は王間に入ってきた。
アイデは王座の隣に立ち、号令をかける。
「粛に!王が到着されますぞ!」
厳かな雰囲気の中、パイプオルガンの音色が静かに響き渡る。
重厚な扉がゆっくりと開き、威厳ある足音とともに静寂が広がり、玉座にヴァト王が着座した。
今、ある儀式が行われようとしていた。
「おっしぁ。お前ら!ヴァト王の為に人肌ぬぐぞっ
しょーかぁーん(召喚)、せいこおー(成功)おーーー!」
召喚隊※1が円陣を組んで掛け声をあげた。
そして、円陣を解散した。それぞれは各々の方法で集中力を高めるなど神経を尖らせて、王の間クリスタルスローン※2に入る合図を待っていた。
「陛下、そろそろ準備が整いまする。」
「あい分かった」
側近のアイデ※3は王の返事を聞くと、神官長のムフト※4に合図を送った。
扉が開き、召喚隊が王間に入場しだした。
この召喚の儀の準備に5年を要した。
「ところで、召喚対象とは、どんな関係だったんですかぃ。」
と側近は率直に尋ねた。
「…聞くな。」
表現するのがが苦手なヴァト王は一瞬だけ口が緩んだ。
それだけで答えは十分だった。
王前の前で3つの丸い影が地面をランダムに躍り、それぞれの影から赤い角がニョキとだした。
ピエロの風貌をした奇妙な顔面の彼らは宮廷道化師※5だった。
「こんばんわ~。こんにちは、ごきげん麗しゅう。興味深い方が召喚されると小耳に挟んだので、地べたを泳いで来ましたよ。」
「やぁ」「こんにちわ~」と3名が違った挨拶で現れ小芸をしている。
赤い衣装の小柄な頭脳派ウィリアムが口を手で抑えほっぺを膨らませると、真っ赤なチョコンとした鼻が風船のように膨らんだ。ふくよかだが黄色の衣装の機敏派メリットが針突きパンッっと割り、紙吹雪と鳩が出た。そして掃除をする黒い衣装のスタイル抜群マッスル派女性チェイスの3名がいた。
「期待通り!反応なし!!ありがとう!ありがとう!そして躾もなっている~」
「さすが王宮!」
「いつ来ても本当にここの城は面白みにかけるねー。」
「私達が来ると、ちょっと自虐的になって、辛いですよね。」
「道化なのに道化られないとは…。なんという不愉快な場所だ。あはははっ」
三人の宮廷道化師が滑稽な無駄な仕草をしながら声高に叫ぶ。
いつどんなときでも誰に対しても無礼講が許される唯一無二の存在・宮廷道化師は、特異な容姿から虐げられたこれまでの人生を取り戻すかのように強欲に楽しんでいるようだった。
(あのバカにされ続けた日々に戻ってたまるか!)
「この城に似合う言葉を列挙してみよ。チェスト!」と、小柄な頭脳派ウィリアムがセクシー道化チェイスに指示した。
「豪華!絢爛!権力!富!格式!威厳!壮麗!豪奢!荘厳!雄大!歴史!伝統!防衛!統治!栄華!叫び!恐怖!」
「やはり、面白みに欠けるねー。」と、ふくよかだが機敏派メリット。
「今日は誰が地下牢にいくのかしらね。ヒヒヒ」と舌を出して言うスタイル抜群マッスル派女性チェイス。
「お前たちか。よんだ覚えはないぞ。時をわきまえよ。」と、側近アイデが睨みつけ言った。
「うるさいねぇ~。我ら、神出鬼没なんで。」と、メリットが返す。
「チェイス、我々を例えてみてよ。」
「突然、瞬間移動、謎、変幻自在、予測不能、隠密、不意打ち、幻想、幻影、奇襲。」
「いいね~。わかってんじゃん」
神官が列を成し、その衣装は白銀の糸で織りなされ、神聖なる象徴や古代の文様が繊細に刺繍されていた。彼女の頭には、純白のヴェールが優雅にかかり、神聖なる儀式の尊厳さを一層際立たせていた。
神聖なる祭壇の前に立ち、神官たちの導きに従い、心を清める祈りを捧げた。純粋な心が、儀式により豊かな恵みをもたらすことを願いながら、神々の加護を乞うた。
別の白い法衣に身を包んだ神官が、風に揺れる姿でヴァト王の間クリスタルスローンに立ち、神聖なる儀式を執り行っていた。神官が呪文を唱えていた。
「どうした?何やら時間がかかっているではないか。」
ヴァト王が側近に問うた。
「王様。申し訳ございません。准神官になりますが増強させます。」
「召喚できれば何でも良い。」
「は!直ちに!準神官※6を神官の外側に配置せよ!」
準神官が加わり、詠唱※7の魔力が強くなった。
「手伝ってやろうかー?魔力を注げば良いんだろー。」
「道化は静かにしておれ!」側近アイデが制する。
「道化が静かにしてたら、道化じゃねー。」
「こいつも、殺すかー?」
「短絡的な殺しは止めなさい。」
「側近に睨まれますわよ。」
魔法陣が王の間クリスタルスローンの中央に描かれ、複雑な幾何学的なパターンで構成されている。円や三角形、星形などが組み合わさり、シンボルや文字が配置され、魔法の力を象徴し、エネルギーを集める役割を果たしている。神秘的な記号や文字が魔法陣の内部に配置されており、古代の言語や神秘的な記号がその力を補強している。
魔法陣には赤い薔薇の花びらが敷き詰められて囲うよう白い単薔薇が並べられいた。
その呪文が終わると、周囲がざわめき、花びらが宙を舞った。
魔法陣中央に人影が現れた。
「おお!成功したぞ!」
ヴァト王の顔が期待に膨らんだ。
「おお、待ち望んだぞ。この瞬間を!さぁ、顔を上げておくれ。」
「どうしたのだ・・・?」
「ありゃりゃ…これはこれは…」
「退散しとこかー。」
「そうですわね。」
と宮廷道化師ウィリアム、メリット、チェイスは三人揃って首をすくめ両手を挙げ、出現した時とは反対に影に消えた。
「また来るぜー」とウィリアムが影から手だけが出て消えた。
その姿は…期待していた女性であった。彼女は一糸まとわぬ姿だったが、白い肌は長い金髪で隠されていた。女官が速やかに柔らかなシルク生地でできた白いローブをかけた。ローブは身体にぴったりとしたフィット感を持ちながら、同時に優雅で流れるようなデザインとなっています。ローブの袖口や裾には、細かい刺繍や装飾が施されており、高貴な雰囲気を演出した。また、女性の肌を適度に隠しつつ、彼女の優美な姿を引き立てるようなデザインが、周囲から声が漏れた。
薔薇が彼女の存在を際立たせた。
「すい…」と、王が声をかける途中
女は顔を上げ止まると、金色の髪の先から舞った花弁が落ちる速度と同じ速度で幻影のように消えていった。後には妖石が残されていた。
その後、準備期間は効率化されたが召喚の失敗が5回20年続いた…。
ヴァト王は呪われたような顔つきになり死んだような目で玉座に微動だにせず座り,頬杖をかくようになった。
王は赤い豪奢なローブをまとい、身には装飾が施されていた。頭には王冠を戴き、指には宝石で飾られた指輪が輝いているが、若き日の輝きを失った王の顔には深いしわが刻まれ、髭を生やし、目には欲望だけが宿り、空と話をするようになった。
そして思いだしたかのように、ギョロッと目を動かし、そして目を閉じた。
政を蔑ろにし続けた王は、この後、王子トニールのクーデターにより、行方知れずとなった。後にこのクーデターは「黎明の変革」として歴史に刻まれ、民衆の語り草となった。
※1召喚隊:神官で構成される。その数は儀式内容によって変化する。
※2王の間クリスタルスローン:王や王族が公務や政務を行う場所。王の間クリスタルスローンは、壮大な天井と豪華な装飾が施され、壁に囲まれた広大な空間であった。その中央には立派な大理石の玉座があり、宮廷の重臣や貴族たちが整然と列をなしていた。古代の戦士や歴代の王たちの肖像が壁に掲げられ、部屋全体が歴史と威厳に満ちた雰囲気に包まれていた。日中はステンドグラスから、光がこぼれる。夜間は屋外用の照明具の松明の炎が揺らめき、影が延びている。ステンドグラス中央には王国には「海の女神マーレン」と「山の神ベルゴ」が装飾されている。これらの神々は国の守護神として崇められ、国民の信仰の中心となっている。
※3側近のアイデ:王に対し絶対の忠誠を持つ
※4神官長のムフト:宗教的指導者として仕える
※5宮廷道化師:ウィリアム・メリット・チェイスの3名。特殊な能力を持って生まれたため、人から迫害を受けて育った。神官長ムフトに出会い宮廷道化師となる。宮廷道化師は天下御免の職業とされていた。
※6准神官:神官を補助する役職。経験を積み試験に合格することで神官に昇格する。
※7合唱詠唱魔法は、団体で行うことで、魔力を増大させるというメリットがあるが、同じ速度で同じ文言を唱える必要があったり、何を唱えているかわかるため、発動するタイミングが分かるため、主に儀式で使われる。戦場では近距離ではなく遠距離で使われることが多い。
※8 メーア・ウント・ベルゲンヴァト王国 経済白書」の冒頭を紹介する。
「ヴァト王」
メーア・ウント・ベルゲン王国の現国王で、その名は王国の歴史においても重要な存在です。彼は知恵と勇気にあふれ、国を繁栄へと導く強力なリーダーシップを持つ人物として知られています。
「メーア・ウント・ベルゲン王国」
メーア・ウント・ベルゲン王国は、豊かな自然と多様な文化を誇る国家です。国名の由来は、「海と山」を意味し、その地理的特徴を反映しています。
「地理と気候」
メーア・ウント・ベルゲン王国は、北側に広がる広大な海と南側にそびえる険しい山脈に挟まれた地域に位置しています。このため、海洋資源と鉱物資源の両方に恵まれており、経済的にも豊かです。気候は海岸地域が温暖で湿潤、山岳地域が寒冷で雪深いという二重の特徴を持っています。
「経済と文化」
王国は海運業と鉱業で繁栄しており、交易によって多くの富を蓄えています。また、文化的にも多様で、海沿いの地域では漁業と船舶文化が発達し、山岳地域では独自の伝統工芸や音楽が栄えています。年に一度、海と山の神々を讃える大祭「メーア・ウント・ベルゲン祭」が行われ、国内外から多くの観光客が訪れます。
「政治と社会」
ヴァト王は、公正かつ賢明な統治者として国民に愛されています。彼の治世では、教育や医療の充実が図られ、社会福祉の制度も整備されています。また、国防においても、山岳部隊と海軍が連携して外敵から国を守る体制が確立されています。