テリアスの懸念、揺らぐ灯の影
食事会が続いた。
「魔法陣が見えるのですが。」
「パパタローさんは既に上級。基本的に魔法陣は見えないのですよ。紫外線が見えないのと同じでしょうか。」
「なるほど。」
ヴィクターはカテリーナを見た。
カテリーナは隣の部屋から、お盆の上に2つのアイテムを持ってきた。
「魔力の漏れが制御ができます。自力で制御ができるようになるまで、お使いください。」
パパタローとカリンは、それぞれ差し出されたアイテムを身につけてみた。
「どうだい?」
「どうって言われても……」
パパタローの右目には、黒い眼帯。
カリンの右手の甲には、印を覆うように取り付けられた、薄い手甲状の制御具が装着されていた。
指や手首の動きを妨げない、簡素な造りだ。
どちらも、魔力の漏れを抑えるためのものらしい。
ヴィクター・シルバーハートは、二人の様子をしばらく観察し、静かに口を開いた。
「このまま敷地外でても大丈夫ですが…」と言いかけヴィクターは考えた。
「午前は農場で働き、午後から勉強や剣技、魔法の特訓をしませんか。」
*********
薄暗い食堂の静寂は、蝋燭の炎が揺れる音だけが響いていた。ヴィクターとカテリーナ、そしてパパタローやカリンたちが囲む食卓には、熱気と期待と微かな不安が混じっている。
突然、足音が滑るように近づき、給仕のテリアスが口を開いた。その声は低く、震えていた。
「旦那様、発言をお許しください。彼らは呪いの印を持っているのです。魔導具で抑えたからと言っても、魔物が寄って来るのですよ。」
言葉の重さは瞬時に室内に影を落とす。蝋燭の光がかすかに乱れ、皆の視線が一斉にテリアスへと向いた。心臓の高鳴りが触れるほど近く感じられる。
カテリーナが一歩前に出て、氷のように冷ややかな声で静めた。
「テリアス、控えなさい。」
その一言はまるで氷刃のように鋭く、部屋の気配を一瞬で凍らせた。
ヴィクターは重く息を吸い、意志を眼差しに込める。黙ったまま数秒が過ぎ、彼は言葉を選びながら話し始めた。
内に含むでも行動を選ぶ意志を乗せてだ。
「テリアスありがとう。テリアスが心配するのももっともです。
しかし、ただ見て見ぬ振りをするわけにはいかない。
もし、その印が悪用された場合、私たちはどうすべきでしょうか。
私の監視のもとで、彼らが安全に過ごせるように配慮することが、社会全体のためになります。
テリアスはどう思いますか?」
ヴィクターの声には確固たる決意があり、同時に深い問いかけが含まれていた。部屋の温度がまた一段と引き締まり、そこには選択の強度があった。
テリアスは震える声で俯き、深呼吸をした。
「確かに…わかりました…」
その声には、恐れと忠誠、そして私心を越えた覚悟が混じっていた。
*********
パパタローとカリンは顔を見合わせた。
「テリアスさん、申し訳ありません」とパパタローが謝罪する。
「ぜひ。お願いします。」とパパタローがヴィクターに農場労働の手伝いについて答えた。
「ではパパタローさんにはミストハイツの農業を手伝っていただきます。」とヴィクターが言うと一人の男を呼んだ。
「旦那様、お呼びでしょうか。」とアシュレ・アグリ・ノイという男が現れた。
アシュレは牧場の主任として信頼され、姿勢や自信に満ちた表情があった。
40代前半だろうか。牧場の環境で働く人物としては、清潔感があり、適切な身だしなみを整えていた。筋肉質でがっしりとした体格で牧場の仕事は肉体労働が伴うことが多いため、筋肉質で健康的な体格になったのだろう。
「遠いところすまん」
「いえ問題ありません」とアシュレが答えた。
「明日から、彼に仕事を手伝ってもらいます、パパタローさんです。」とヴィクターが告げた。
5歳の姿のパパタローに驚いていたが、経緯を話した後、アシュレ・アグリ・ノイは「分かりました。旦那様の言いつけとあれば」と応じた。
「ミストハイツの大地には精霊が宿っています。パパタローさんの印と魔力制御にきっと役立つことでしょう。明日の朝からお願いします。」とヴィクターが語った。
「ありがとうございます。」とパパタローが答えた。
「そして、カリンさん。」とヴィクターが次に言った。
「はいっ。」ムニンと遊んでいたカリンがいきなり呼ばれ、返事をした。
「カリンさんには私の息子クラウスを手伝ってもらいます。」とヴィクターがクラウスに指示した。
クラウスがニコッと笑った。
カリンの顔が赤くなったのをパパタローは見逃さない。
「彼は元商人ですので、人とのネットワークは広いですよ。また、空いた時間に、剣術を指南してください。」とヴィクターがクラウスを見ながら話した。
「ここは、魔法と剣の世界です。いつか、元の世界に戻れる日がくるかもしれません。その時のために、今を生きていく準備をしていきましょう。その日を待ちましょう。」とクラウスが続けた。
「記念に最後の一発芸!」
今後のことが見えてきたことで、心軽やかになったパパタローのいたずら心が芽生え、窓から手を出した。
ウォーターボールを空に浮かべ両手に力を込めて近づけた。
「精霊の力を借りずに続けているパパタローさんは自分の魔力を使っているので、倒れちゃいますよ。」とヴィクターが忠告すると、パパタローはバツが悪そうに従おうと窓から手を引っ込めようとした時、そのままパパタローは意識を失ってその場で倒れ込んだ。
「防御結界 反転!」
ヴィクターがパパタローの圧縮型ウォーターボールを包み込むように結界を張った途端、
中で勢いよく弾け、ヴィクターの結界が一瞬膨張し、壊れかけた。
「こっ、これは!!信じられない…。」
「防御結界 反転 2層!」
追加した結界をすり抜け、屋敷を一部や周囲の木々に被害が出た。
パパタローの放った魔力が消費されると、ウォーターボールは通常の水となり、地面に流れおちた。
この事件をきっかけに、パパタローはカリンに猛烈に怒られ、自分の行動について猛省した。
「すいやせん…。皆さん」
「今度は精霊と友達になります。」
まぁ…反省して、性格が治るなら、苦労はないのだが。




