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異世界スイートテイル 〜狐の嫁入りは誰にも見られてはいけない掟なのです(肉球マーク)。  作者: 2番目のインク
第一部:狐嫁と光の祭り・災の神編

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中庭、剣は絆を映す

中庭では、木剣で一人の男と戦っているカリンがいた。


「カリン!」

びっくりしたパパタローが驚いて窓から飛び出そうとした。

「あ。パパタローさん、大丈夫ですよ!おどろかせてごめんなさい。」

「相手はクラウスです。」


「カリンさんは朝早く目覚めまして、何もすることがないというので、クラウスが相手しているんですよ。パパタローさんはよく眠っていたので、寝かせておいてと、カリンさんが言ってましたわ。」


ブンブン剣を振り回している。

まぁ、惚れ惚れするわ~。


「それにしても、カリンさんの動きは只者ではないですよ。クラウスが押されて見えてしまいますもの。」


あれがカリンか!?

昨日はまだ幼子だったのに、一夜にして10歳ほどに成長し、瞳は黄金色に輝いている――まるで異世界の戦士のよう。彼女の変貌は、もはや俺の知る日本人の姿ではない。

カリンは木剣を振るいながら、三つ編みの髪をしなやかに揺らしていた。

その編み込みはきっちりと結われており、動くたびにリボンがきらめき、少女らしさと戦士らしさを併せ持った魅力を放っていた。


「カリンさんが一気に大人になられたので、もしかしてパパタローさんも成長されているのかもと期待したのですが、そうでもなかったですね。」


なるほど、だからさっきの会話になったわけか。


しかし、カリンの動きが俊敏だ。10歳位だから早いのだろうか。ここに来る前の16歳のカリンの動きとは思えない。

今まで(日本で)の打突回数で比較すると10倍だろうか。

とにかく残像が残っているようにみえ、ブンブンと木剣がうなっている。


あんなに強かったかな?


クラウスは、かの名将ヴィクター・シルバーハートの御子息。その血を引く者として、ただの戦士ではない気迫と“静寂の刃”のような佇まいを宿していた。


彼は白の薄手のシャツを腕まくりし、動きやすい黒のパンツを身につけていた。まるで自宅での軽い稽古に臨んでいるかのように、リラックスした雰囲気を纏っているが、その動きは剣聖の矜持を感じさせた。


(なんだろうな……。

 見た目は“休日のイケメンお兄さん”なのに、動きだけ別ゲームのステータスしてるぞ、あれ)


だが彼が木剣を構えた瞬間、空気が変わった。風が止み、鳥すら鳴き止み、ただ“剣の気配”だけが空間を支配する。


動きは無駄がなく、一つ一つの足運びがまるで“型”そのもの。美しさの中に、百戦錬磨の鋭さが潜んでいた。


彼の眼差しは澄んでいる。敵の力も、迷いも、すべてを見透かすような静謐な金の双眸。その一太刀には、“殺す”のではなく、“看破する”力が宿っていた。


カリンの剣は攻撃を目的としない戦術で、クラウスが打ち込んでくる木剣の力を受け流し、相手の隙を突いていた。


宏美ババァ《ははおや》(パパタローの母親)が見たらさぞや喜ぶだろうな。

パパタローは宏美ババァの顔を思い出しながら感心していた。


カリンは木剣を構え、クラウスの木剣が振り下ろされるのを見て、瞬時に反応した。彼女は身体をしならせ、腕を上げて木剣を横に振り、クラウスの攻撃を受け流す。その一瞬、木剣同士がぶつかる音が響き渡ったが、カリンはその力を利用して半回転し、クラウスへ反対から打突をしかけた。彼女の動きは滑らかで、まるで風が木々の間を吹き抜けるように美しく、力強さと優雅さが融合しているかのようだ。


一気に上達したな~。

と、パパタローは感心しきっていた――その時だった。


カリンの右手の甲に刻まれた狐の印が、ぼうっと淡く灯った。


最初は朝日の反射かと思った。

しかし次の瞬間、その紋様は心臓の鼓動に合わせて脈打つように明滅し、細い線の一つ一つが生き物のようにうごめきはじめた。


まるで、狐の尾が何本も重なって揺れているような、白金色の残光がカリンの右腕を縁どっていく。

それはやがて指先から木剣へと流れ込み、刃の代わりに細い狐火こびのような輝きが走った。


「……おいおい、なにあれ」


木剣が振るわれるたび、空気の密度が一段階変わった気がした。

残像が「速さ」ではなく、「数」で増えていく。

一本の木剣を振っているはずなのに、一拍のあいだに何度も“打ち込んだ跡”だけがそこに残る。


(打突回数、体感で十倍どころじゃないぞ……!?)


カリンの足運びは、さっきまでと同じ基本の型をなぞっているはずなのに、

一歩ごとに芝がそよぎ、踏み込みのたびに空気がきゅっと縮む。

右手から溢れた光が、全身の軸と呼吸のタイミングをぴたりと合わせているのが、素人目にも分かった。


どうやら、あの狐の印こそが、カリンの剣を“ブースト”しているらしい――と、パパタローは戦慄まじりに推測した。


それでもカリンは、右手の光など気にする様子もなく、ただ目の前の一太刀に集中していた。

カリンの瞳が楽しそうに見えた。


「……“守るだけでは守れない”時もある」


小さく呟いたそれは、かつて宏美師範から聞いた言葉。


「だから私は“打つ”のではなく、“見切る”んです」


クラウスの剣筋を受け流しながら、彼女は自然体で構え直す。


「“間合い”って、距離だけじゃないと思う。心の距離――それを測るのが、私の剣です」


「これはこれは美しい剣だ」 クラウスはカリンに打ち込んだ剣が、受け流される技に興味をもったようで、もっと見たいと木剣を打ち込んでいった。


「受け流す剣に、これほど澄んだ『静寂しじま』を宿しているとは。ただの鍛錬ではないな」


それを見たカテリーナが感嘆した。

「カリンさん、すごい!!あの剣聖 クラウス様の剣を受け流しているなんて。しかも、その都度、体勢を崩している。クラウスは隙を作らされてるわ。」

パパタローも驚きと感心の表情を浮かべながら、カリンの上達ぶりに目を見張っていました。彼女の技術の進歩について、彼は考えを巡らせました。同時に、クラウスの戦闘力についても興味深く思っていました。


窓際で見ていた猫のムニンが言った。

「あのもそうだけど、パパタローも、印を持ってるにゃ。

あの娘は右手に。パパタローは目の奥にあるにゃ。ただ、ふたりとも魔力が漏れ出て制御ができていないにゃ。」

「でも、戦っている今は魔法陣をまとっているといっていいにゃ。この世界との魔力とは違ったタイプにゃ…」


「パパタロー達はいったいどこから来たにゃ?」


「どこって、どこでしょう…?」


「パパタローさん、右目の印を見せてください。」といってカテリーナが

両手でバレーボールを掴むようパパタロー顔を固定し、右目を覗き込んだ。


「ちょっと…」

「なんでしょうか。これは。狐をモチーフにしたハートマーク《@・》ですかね?」


カテリーナが、目に書かれている文字を紙に書いてみた。

「私には読めませんね。こんなのが書かれてるようですが…」

というと、カテリーナが紙とペンをとり書き写しだした。


をきてにより、このものををっととみとめ、わらはのまりよくをかのものにさづけん。ふこうになりたくなけれは、ゆめゆめじやませぬやうに。


カテリーナが模写した文字をパパタローが読んだ。

「旧字体のひらがなみたいだな?」


「パパタローさん、読めるんですか?」

「まぁ、平仮名なので…。」

「ということは文面通りだとあの狐耳の女と結婚しての魔力を貰ったんだ…。これは、その魔力ということだ。」


「ちなみに! 実験どうだぁっ!」


白猫――ムニンが突如として跳び上がり、パパタローの顔にしがみついた。


「うわっ!? 何するんだよっ!」


鼻と頬をぐにゅっと押され、パパタローはバランスを崩しそうになる。目の前には、猫の姿から変化した小柄な少女――獣人化したムニンが、いたずらっぽく笑いながら立っていた。


「ふふーん、やっぱりにゃ。パパタローの魔力、駄々漏れもいいところにゃ」


「駄々漏れって……え、何が?」


ムニンは腕を組みながら、尾をくるりと一振りして言った。


「その右目にね、魔法陣が刻まれてるにゃ。制御できてないせいで、魔力が漏れっぱなしなのにゃ」


「魔法陣?」


「そうにゃ。詳しいことは、正直、ボクにも分からにゃいけど……。たぶん、怪我が急に治ったのも、それと関係あるのかもにゃ~」


ムニンは指を頬にあて、ちょこんと首をかしげて考え込む。


「ダダ漏れって……俺、なんかやばいことになってるのか?」


「やばいかどうかは本人次第にゃ。でも今のままだと、魔物とか、異界の存在が引き寄せられちゃうにゃ。まるで肉食動物の前で体から肉の香りを漂わせてるみたいにね~♪」


「……やめてくれ、その例え」


「ふふん。制御しないと、いろんなものを呼び込む“餌”になるだけにゃ」


そう言いながら、ムニンはパパタローの目を覗き込むようにして、にやりと笑った。


「というわけで、いずれ“制御訓練”が必要になるにゃ。逃げても無駄にゃよ?(にゃふふふふ)」


半裸のムニンはシーツを剥がして、体に巻き付け、腕を組んで考えをめぐらした。

「パパタローの駄々漏れ魔力が魔物を引き寄せているのかもと思うと合点がいくにゃ。」 「君の『愛』が濃すぎるせいで、カリンまで巻き込まれているにゃ!」 「これは普段から魔力制御しないと、たいへんなことになるにゃ。」


ムニンが人の姿になったまま、シーツ一枚でほれぼれと自分の身体を見ていた。


「って、人前でシーツ巻いて、何言ってんだお前」


パパタローはツッコミを入れる気力もなく、**「カリンまで巻き込まれている」**という言葉に、血の気が引くのを感じた。


「分からないことが多いですね。それはそうと、旦那様から言いつけがございましたわ。

パパタローさんが起きていたら、旦那さまがランチをご一緒したいとのことですが、いかがですか。」とカテリーナが尋ねた。


「ありがとうございます。」

「もちろんです。昨日のお礼したいですし。」


カーン! カン! カンッ! カン! カッ!


カリンはクラウスの剣撃を正面から受け止めると、その勢いを巧みにいなして体を半回転させた。まるで舞い上がる葉のように軽やかで、同時に芯のある動きだ。

彼女は腕をしならせ、相手の打ち込みを受け流しながら踏み込み、クラウスの腕をとらえる――が、その一瞬、彼の体重移動によりバランスを崩してしまう。


「っ……!」


倒しきる前に、カリンは木剣を手放し、地面に膝をつくように転がり込んだ。

木剣は指先から滑り落ち、くるくると回転しながら芝の上を転がっていく。

その様子を見届けるように、クラウスが一歩前へと進み、鋭く言い放つ。


「そこまで!」


模擬戦を制した声が中庭に響いた。クラウスの呼気は静かで乱れもない。


「カリンさん、すごいですよ。……私は、ちょっと本気を出してしまいましたよ」


「ちょっとなんだ……」

悔しそうにカリンが呟く。


クラウスは微笑を浮かべると、そっとカリンへ手を差し出した。


「君の剣は優しい。だが、“守るだけでは守れない”時もある」

「打ち合うことに意味はない。見切ることだ」

「剣は肉体ではない。“間合い”とは、心の距離だよ」


その瞳は、ただ強さを誇るのではなく、教え導こうとする剣聖の眼差しだった。

そこで、ふっと目元だけを細めて続けた。


クラウスはそっとカリンへ手を差し伸べたまま、ほんの僅かに視線を伏せる。


「――騎士団に入っていれば、すでにトップクラスですよ。

少なくとも、王都の前線には出したくないくらいには、ね」


(出したくない?……どういうこと?

危険に晒したくないって――そんな意味まで、含まれてる?)


その瞳は、ただ強さを誇るのではなく、教え導こうとする剣聖の眼差しだった。 そこで、ふっと目元だけを細めて続けた。


クラウスはそっとカリンへ手を差し伸べたまま、ほんの僅かに視線を伏せる。


「――騎士団に入っていれば、すでにトップクラスですよ。 少なくとも、王都の前線には出したくないくらいには、ね」


(出したくない?……どういうこと? 危険に晒したくないって――守りたい? そんな意味まで、含まれてる?)


その一瞬、カリンの胸の奥で、今まで感じたことのない『熱』が、一筋の光のようにぽっと灯った。 どう返せばいいのか分からず、ただ俯きかけた――その時。


「おーい、カリーン!!」


びくっ、と肩が跳ねた。

反射的に背筋が伸び、耳まで熱くなる。


(パパタロー……っ、見てたの!?

なんでこういう時に限って!!)


「ご主人様からランチのお誘いだ! うまいもん、食いたいな~!」


クラウスはその声に反応し振り返ると、パパタローを見て軽く目を見開いた。


「……なるほど、弟さんでしたか」


「えっ?」


「失礼、てっきり。あまりにも動きが息ぴったりでしたので、実の弟かと。

兄妹のような空気感がありますよ」


カリンは、ちょっと困ったように笑って答えた。


「えーと、叔父なんです」


「? 叔父さんですか?」

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