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異世界スイートテイル 〜狐の嫁入りは誰にも見られてはいけない掟なのです(肉球マーク)。  作者: 2番目のインク
第一部:狐嫁と光の祭り・災の神編

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13/83

朝庭、銀の少女は静寂に揺れる

朝の光が窓から柔らかく差し込み、カリンはゆっくりと目を覚ました。


ベッドから出ようとした瞬間、すぐに気がつく。


――服を着てない!


もともと16歳だったのに、昨日は2歳に戻り、今は10歳くらいの姿になっている。

髪は銀色だし…。

心の中は混乱でいっぱいだった。どうして私がこんな目に?

戸惑い、不安、そして何より、これからどうすればいいのか分からない焦り。


「それより……どうしよう、服がないわ……」


その時、パパタローの顔の上で丸まっていた白い猫が、頭をもたげてカリンを見ると、パパタローの顔からするりと降り、器用にドアを開けて出て行った。


「……?」


さすがに裸でうろつくわけにもいかないし……。

シーツでも巻こうかしら、と思ったその時だった。


間もなく、猫が案内するように戻ってきて、その後ろからカテリーナが静かに現れた。


「おはようございます、カリンさん。衣装をお持ちしましたわ」


畳まれた衣装をそっと差し出される。

その瞬間、世界が少しだけ穏やかになったような気がした。


「ありがとう。ここは……どこ?」


カリンの問いに、カテリーナは優しく微笑みながら答えず、代わりにこう言った。


「少し散歩でもされてみてはいかがですか?」


外に出ると、朝の澄んだ空気が肌を包み込み、足元には朝露に濡れた芝が広がっていた。

その中央に、一本の木剣が静かに佇んでいた。


「……よし」


カリンはそっと歩み寄り、庭の中央に立つ。

裸足の足裏に、ひんやりとした草の感触が伝わる。


深く息を吸い込む。

澄んだ空気が肺の奥まで届き、心を浄化するようだった。

ゆっくりと吐き出し、肩の力を抜く。


姿勢を正し、背筋を伸ばす。

足を肩幅に開き、つま先をやや内側へ。

両手は自然に体の側へ添わせ、意識を丹田へと落とす。


呼吸に合わせて、心を静めていく。

混乱も不安も、過去の後悔も、未来への怯えも――

すべてを「今」の一呼吸に溶かしていく。


「一礼」


小さく頭を下げる。

それは敵への礼でも、他者への媚びでもない。

――己と、今この場に立てることへの感謝の礼。


そして、構え。


左足を半歩引き、右足をやや前へ。

腰を落とし、両手で木剣を自然体に構える。


「はじめ」


小さく呟いて、一歩を踏み出す。

呼吸とともに、型の一手一手が流れるように紡がれていく。

1、2、3、4、5――


動きに集中するほどに、乱れていた心が少しずつ整っていくのがわかった。


身体が自然と呼吸と一体になり、余計な思考が遠ざかっていく。

不安や戸惑い、そして焦りすらも忘れ、ただ今この瞬間の動きだけに身を委ねていく。


鍛錬とは、私にとって戦うためだけのものじゃない。

心を鎮め、己を知り、そして――前へ進むための術。


カリンが最後の一手を打ち終え、そっと息を吐いたその時だった。


ふと、視線を感じて振り返る。

朝光に縁どられたシルエットが目に映った。


そこに立っていたのは、背の高い青年だった。


白いシャツの袖を軽くまくり、黒のズボンは動きやすい仕立て。 だが、軽装のはずなのに纏う空気は凪いだ湖面のように静かで、**パパタローから溢れ出す熱と光とは対極にある、静謐な『何か』**を秘めていた。


その瞳は金色にきらめき、まるで心の奥まで見透かすかのようだった。

風がふと流れると、彼の前髪が揺れ、

その横顔の整った輪郭が朝日に照らされる。


「変わった剣ですね」


低く、澄んだ声。


その声音は敵意でもなく無関心でもなく、

ただ純粋な“観察者”の響きを帯びていた。


カリンは一瞬だけ、体の奥深く、丹田のあたりから、何かがふわっと揺らぎ、胸の中へくすぐったくなるような感覚を覚えた。


(きれいな人……だけど、パパタローとは、全く違う種類の…)


頬がほんのり熱くなったのは、木剣を振っていたせい――そう言い訳しようとしたが、この未体験の感覚が、心のどこかで分からせていた。


「……驚かせてしまいましたか」


青年は少しだけ申し訳なさそうに眉を和らげると、

視線をカリンの木剣と足運びへと戻した。


「いえ、その……」


カリンは木剣を胸の前で抱え直し、言葉を探す。


青年は、今度は少しだけ興味をにじませて口を開いた。


「“変わった剣筋”ですね。

 切り結ぶ気配が希薄で……それでいて、芯がぶれていない」


その言葉に、カリンの心臓がどくんと跳ねた。


青年は、ふっと口元だけで微笑んだ。

「よろしければ――その剣、少しだけ“受けさせて”もらえますか」


そう告げられた瞬間、カリンの朝は、鍛錬から“試合”へと静かに姿を変えた。


そして、その一言は、カリンの未来を、そして彼女の内に秘められた運命を決定づける、最初の合図でもあった。

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