表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界スイートテイル 〜狐の嫁入りは誰にも見られてはいけない掟なのです(肉球マーク)。  作者: 2番目のインク
第一部:狐嫁と光の祭り・災の神編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/89

終夜(よもすがら)、メイドは祈りに微笑む

ゴブリンの残党は結界へ群がり、

赤い瞳をぎらつかせていた。


その眼には、捕食とは違う――

“何者かに命じられた獣の狂気” が渦巻いている。


子供たちだけを求め、

牙を剥き、

結界を叩き続ける。


「……また幼い子供を襲うとは……」


宙に静かに浮かぶヴィクター・シルバーハート。

低く吐き捨てた声は、怒りよりも哀しみを帯びていた。


だが、すぐに瞳が鋭い灰色に光を宿す。


「……いや、これは違う。

獣の衝動ではない。あまりにも執着が濃い。

まるで、何かを奪うことだけを目的とした、“見えぬ糸”に操られている……」

月光が彼の銀の髪を照らす。


その一瞬の光に浮かび上がった横顔には、 かつて宮廷魔導士として王を守り、 そして―― 守れなかった、愛する幼い息子と娘、レオンハルトとリーナの影が、深く刻まれていた。


誰にも見せない痛み。 それでも背筋は、折れていない。


「――二度と、私の愛する者を、この狂気によって失わせはしない。」


低く、静かに。

しかし、揺るぎない決意で呟く。


リディアがメイスでゴブリンを結界前へ追い立てると、

ヴィクターの杖がわずかに震え、白い閃光が駆け抜けた。


「〈大地の抱擁アース・エンブレイス〉」


轟――。


大地が泥へと変質し、

ゴブリンたちの足を絡め取り、

次々と地中へ引きずり込む。


「ギャアァァ!!」「キシャァ!!」


絶叫が夜を裂き、

やがて泥が締まると同時に、闇が静寂を取り戻した。


杖先のクリスタルが月明かりを反射し、

冷ややかに輝く。


その姿はまるで――

孤独な神罰の執行者。


だが、その手は僅かに震えていた。


押し殺した嗚咽。

胸奥の痛みが滲み出る。


「神よ……もしこれが、我々が失った『愛』を試す試練だというのなら…… あまりにも、酷むごすぎるではないか……」


それでも――


領主として。

魔導士として。

失った家族に、生き残った者に恥じぬよう。


ヴィクター・シルバーハートは、

涙を滲ませながらも、夜の風に背を向けず立ち続けた。


ただ一人、

静かに戦場に残された男の背中は、

誰よりも強かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ