野兎の突進
7時に投稿しようと思っていたのに忘れていました。
街の門の外はすぐ平原だった。青々とした脛丈の草が風に揺られてうねる中を、土色の街道がなめらかに右に曲がりながら視界の奥まで続いている。
草と露の香りが漂う中、飛び跳ねるグラスラビットをプレイヤー達が色々なところで追いかけ回していた。ラビットの体は草の中に隠れられるくらい小さいが、白くて長い耳が飛び出している上にすぐジャンプするのて見つけるのは難しくない。
ただプレイヤーが多くて競走率が高いので、私とニィナは少し奥へ進むことにした。
驚いたのはニィナのステータス。
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ニィナ Lv. 1
種族:猫獣人
職業:大剣使い (Lv. 1) / 闇魔法使い (Lv. 1)
シェープ:
HP 30/30
MP 20/20
攻撃 30
防御 5
知恵 30
精神 15
俊敏 65
器用 40
装備:
頭 【】
体 【旅人の胸当て】
右手 【大きな鎌】
左手 【】
脚 【旅人のレギンス】
靴 【旅人のブーツ】
装飾品:
首 【】
右手 【旅人の指輪】
左手 【】
スキル:2
【ダークボール】【グレートスラッシュ】
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猫獣人の俊敏への補正が尋常ではない。私がシェープポイントを割り振ってようやく達成した値を軽々と超えてくる。それでいて攻撃力も高いのはメインジョブによる補正だろう。
最初に見せられた時は攻撃力が低めの猫獣人で大剣使いをやる理由が分からなかったが。
「あ、兎いたけど。どうする?」
「私から」
それが今、私の目の前で疑問の余地なく示されていた。
耳をすませて立つ彼女の背後で兎が勢いよくジャンプする。彼らの攻撃手段は頭突き一筋だが、自分の背丈以上ある草むらから飛び出すだけあって、その脚力も頭突きの衝撃も結構なものだ。紙防御の猫獣人が当たったら一撃で体力ゲージが半分になるだろう。
しかし彼女は兎がガサガサッという音を立てた途端、素早く振り向いて右手に持った大鎌を横向きに一閃した。
横腹に刃を受けた兎は吹き飛ばされながらパーティクルと化していき、キューンという鳴き声を上げて消えた。
「見事、だね」
「鎌を使うには攻撃がいる。そもそも鎌は大剣派生」
それでわざわざ大剣だったという訳だ。猫にしたのは俊敏と両立できるからだという。他にも理由はあるらしいがそれは目標を達成したら教えると言われた。もしかしたら豹への進化を目指しているのかもしれない。
ちなみに大鎌はさっきギルドで大剣と交換したそうだ。
「じゃあ次は私の番だね」
右手の短剣を逆手に構えて私は兎の方へ向かう。とはいえ特に魅せプレイができる訳でもない。私より攻撃が低いニィナでも一撃だったのだ。短剣を当てれば兎は消えてしまう。
私は結構背が高いので兎が思いきりジャンプしても腰くらいまでしか届かない。外さないように気をつけさえすれば、後は跳びかかってくる兎を躱して切りつけるだけになった。
「三匹」
「ありがとニィナ」
囲まれた、ということらしかった。
同時に跳び上がった三匹に対して私はまずジャンプ途中の一匹を蹴り飛ばした。続いて滞空している一匹を切りつけ、そしてもう一匹の攻撃を避けたあと背後から短剣を突き刺す。
攻撃を受けた三匹が順々に消えていく。
「どうして突進するだけなんだ、野兎よ」
そんな言葉が飛び出した。
目標を達成するためには立ち止まったり後ろに下がったりすることも必要なのだと、私は最後の一匹に向かって呟いた。
少し前に書いた通り、第1章の間は戦闘描写が長いです。