ステータス
ステータスの値を載せるのはこれっきりな気がします。
あれを調整する能力は私にはない......
草原に向かってニィナと大通りを歩く。石畳のでこぼことした感じが初期装備の革靴を通して伝わってきて、普段のコンクリートとの違いに心が躍った。
街の中心から離れるにつれて建物も段々と小さくなっていき、この辺りはもう一階建ての民家がほとんどになっていた。出窓のところに小さな花瓶があったり、道沿いに木製ベンチがあったりする。
「ルーティ」
私の右肩をつついてニィナが言う。何だろうかと思うと、どうやら私のステータスを知りたいということだった。確かに、戦闘が思った以上に厳しかった場合に備えて役割決めはしておくのがいい。
私はステータスのパネルを出してニィナの方へ動かした。
「ん?」
「何かあった?」
「バグってる。やり直した方がいい」
そう言って彼女はステータスパネルをこちらに返してくる。こんな基本的なところにバグがあるのかと少し驚いたが、返されたパネルを見て私はまた首をひねった。これといった異常は見当たらない。
念の為に一度閉じて表示し直そうとしたところで、ニィナがため息とともに「違う」と口にした。
「システムは正常。バグってるのはルーティ」
いよいよ意味が分からず目を瞬くと、彼女は私のステータスパネルのある部分をトントンと叩いた。
「ああ、これね。そんなに変かな」
「バグ」
即答だった。
小声で唸りながら私は自分で決めたステータスを見返す。
――――
ルーティ Lv. 1
種族:東方ヒューマン
職業:φ / 短剣使い (Lv. 1)
シェープ:
HP 40/40
MP 30/30
攻撃 35
防御 25
知恵 25
精神 10
俊敏 45
器用 25
装備:
頭 【】
体 【旅人の胸当て】
右手 【旅人の短剣】
左手 【】
脚 【】
靴 【旅人のブーツ】
装飾品:
首 【】
右手 【旅人の指輪】
左手 【】
スキル:1
【スラッシュ】
――――
ニィナが叩いているのは職業欄、何も登録されていないメインジョブのところだった。
確かにメインジョブによるシェープ値の補正は大きいし、スキルの獲得もメインジョブが参照されることが多いと聞くから、そうするとここを空欄にしておくのは悪手としか言いようがない。
メニュー画面を開いて登録するよう勧めてくるニィナに、しかし私ははっきり否と言った。
「私はここでやりたいことがあるからね。そのためならこの位のデメリットには耐えるよ」
私がそもそもこのゲームを始めようと思ったきっかけはトレーラー映像に少しの間映っていた一人の女性だった。陰陽師の格好をした彼女が呪札を媒体に青白い炎を放つシーンは今でもはっきりと思い出せる。
「彼女みたいなことをしたいから、情報が出るまでは余裕を持たせておきたいんだよね。特に魔法関係は陰陽師と競合すると困るから手が出せない」
「あれも魔法だと思う」
「いや、魔法とは別な気がする。札に刻まれてたのが古典だったから。学校教育から消えて久しい上に読める人も書ける人も少ないから、映像担当者が作ったというよりはゲーム開発時点で詳しい人が集まってゲームに組み込んだんじゃないかって思ってる」
もしそうなら日頃から古文漢文を読み漁っている古漢ファンとしてはそこを目指さないという選択肢はない。
私が口元を引き締めてじっとニィナを見つめると難しい顔をしていた彼女も目を閉じてため息をつき、ただ「がんばって」とだけ言って私の前を歩き始めた。
歩調が少し早くなった。
数値とスキルですが、もしかしたら変更を加えるかもしれません。
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