ニィナ
ようやくログインしましたね。
ただ、しばらく(十数話)は進みがゆっくりなのでそこはご容赦ください。
石畳の広場には想像以上に多くの人が集っていた。私と同じような土色の地味な服装の人が多いが、中には白と紅の美しい衣を纏った人や全身鎧とヘルムを着けた人もいる。一陣の人が誰かと待ち合わせでもしているのだろう。
「かっこいいな。私も早くこの初心者装備を脱したい」
そのためにもまずは藍奈を探す。
彼女のことだから分かりやすい場所にいるだろうと思って噴水の方へ行くとベンチにそれらしき人物を見つけた。このゲームは容姿を大きく変えられないので現実の知り合いを見つけるのはそれほど難しくない。
私がベンチの隣に立つと彼女は顔を上げてじっと噴水に向けていた目をこちらに移した。
「瓊花?」
「そ。でもこっちではルーティって呼んでね」
「ん、分かった。私はニィナだから」
そう言って藍奈は――ニィナは服の裾を払って立ち上がると、私の頭から足までさっと視線をすべらせる。
「リアルとほとんど同じ」
「大していじれないからね。何だっけ、確かこちらとあちらで違いすぎると感覚系に良くないとか」
数時間おきに身長やら歩幅やらが変わっていたら流石の脳も混乱してしまう、ということなのだろう。私も髪と目の色を変えてほんの少し容姿を整えただけだ。
「でも、そのブラウンの髪とアクアマリンの目、よく似合ってる」
「そう。ありがとう」
現実では烏にも負けない位の黒髪なので少し不安だったが、どうやら印象は悪くないらしい。私も目の前にある彼女の頭を――藍色の髪を撫でながら思うところを言った。
「ニィナもとても似合ってるよ。藍の髪も夜空みたいで綺麗だし、金色の瞳はそこに浮かぶ月っていう感じがするね」
「ありがと」
「それを見ると萬葉集の月の歌が思い出される」
「それ嬉しくない」
ドン、と体を押されて私は後ろによろけた。
いつものことながら私の褒め言葉は蛇足がすぎるらしい。ニィナは目を半開きにして「はぁ」と息を吐きながら静かに顔を横に振っている。和歌というのは私なりの最大限の賛美のつもりなのだが。
現実の方も関係しているかもしれないが、何にせよ彼女も私もそれなりに良い容姿になっていると言える。しかしながら、ここで重大な問題が一つあった。
「この装備が全てを無に帰しているね」
「ん。同意」
黄土色と焦茶色の初期装備を着ているせいで何もかもが全く映えない。肩までしかない私の茶髪はまだしも、ニィナの藍色の長髪は地味な服装と釣り合いが取れていない。かなり違和感の強い格好だった。
「で、かっこいい装備を持っているはずの茜は?」
「遅れる。三十分くらい」
聞くと、一陣どころかβプレイヤーである私たちの友人は先週やったテストの点が良くなかったらしい。
ずっとここで待っていても仕方がないので私たちはひとまず冒険者ギルドに向かうことにした。いろいろな説明が聞けてお小遣い稼ぎの依頼も受けられる、それが冒険者ギルドという場所なのだった。
次回は本来なら8月1日投稿ですがちょっと私事で8月2日になります。
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