図書館のミミズ
ギルドよりも更に街の中心部へ進んだところに図書館はある。最中央にあるのが領主の館だということを考えると、多分これも領主の持ち物という設定なんだろう。それを一般市民はおろかプレイヤーまで使えるというんだから、ここの領主はかなり変わった人らしい。書物は知識、知識は力なのだから。
「これはまた荘厳だね」
大きさはギルド本館に届かないくらい。だがレンガで陽気な雰囲気があったあちらと違い、大理石造りの白い建物には静謐さどころか神聖さまで覚える。入口の石柱列なんてギリシャ・アテネの神殿にそっくりだ。
ちなみに中も圧巻だった。ログインの時に私の想像が作り出した幻想図書館より立派なんじゃないだろうか。高さはなくてもかなり広いし、何より地下数階まであるらしい。
入って左に大きなカウンターがあって、その横に大理石の石像が建っていた。本と羽根ペンを持った女神らしき女性の像だったが、その顔に既視感を持った私はこの後の展開が何となく読めてしまったのだった。
図書館には案の定あまり人がいない。現実でもほとんど残っていないのにゲームの中で来る人がどうしているだろう。いやまあ物珍しさに釣られてという人はいるかもしれないけども。
「こちらの棚でございます。また何かあれば何なりと仰せつけ下さい」
「ありがとう」
古い魔法関連の棚に私を案内してくれた司書の人が一礼して去っていく。
さっきのカウンターの像は予想と違わずアレティアさん――私のプレイヤー作成を担当してくれたあの人だ――の像で、私が彼女に図書館を勧められたと伝えたらちょっとした騒ぎになってしまった。司書さんたちにしてみれば自分たちが崇めている方から御使いが来たようなものらしく、私ですら引くような丁寧な態度を取られることになった。
ちなみに敬語も丁寧語もやめて欲しいと言ってくる徹底ぶりだった。
「さて、ここから探すのか」
陰陽師と言っても伝わらないことはわかっていたから古い魔法に関する書物が集められている棚に案内してもらった。パッと見で七段、四列に跨る巨大な棚に。
「しかもこれ読めないやつでは」
適当な一冊を取り出して開いてみると目に入ってきたのはまさにミミズの這い跡だった。それも日本のではなく、欧州のミミズ。
「この辺りはニィナに頼もう」
そもそも英語かどうかも怪しいし、餅は餅屋と言う。彼女ならスラスラとまではいかなくとも読めるはずだ。私はその本を元そっとの場所に戻した。
それから二十冊超も棚から取り出してはスっと戻すことを繰り返し、もういっそ司書さんに別の棚を紹介してもらおうかと思った時だった。
「やっと見つけた、日本のミミズ」
欧州本と表紙や体裁が同じせいで気づくのが遅れたが、ようやく私にも読めるものがあった。日本のやつなら古書で慣れているから問題ない。
頑張ってつま先立ちをして手に取ったその本のまずは一頁目を私は震える指でめくった。
私はどちらも読めません。漢字が限界です。
皆さんの中には「読めるよ」という方もいらっしゃるのかもしれませんね......(羨)
 




