お金のない日常と図書館の話
土曜日の昼。
ゲームにログインするとちょうどこっちも昼時だったので、私は市場で何か買って食べることにした。宿屋を出て大通りへ抜け、色んなお店や露店を見て回る。
「フィッシュカツサンドか。良いね、これを買おう」
第二の街セキュンティオンへは二陣開放の少し前に至ったらしく、それから一週間経って物流もやっと復活してきたようだった。おかげでここ数日はセキュンティオン産の魚を使った多様な料理に出会えている。
「干物まであるよ。今度アルのところで料理させてもらう時に使おうかな」
そんな風にいくつか食べ物を購入して、さらにはちょっとしたスイーツまで買ってしまった。チャリンという小気味良い音が鳴って所持金が三桁に落ちる。
「お金が無いね」
この一言ももはや口癖になりつつあった。
今日は天気が良い。広い青空の中を白雲が贅沢に泳いでいる。こんな日の昼食はあの噴水がある広場で食べるに限る。
私は東屋のベンチに腰かけて活気溢れる広場を眺めながらカツサンドにかぶりついた。ジューシーな白身魚にタルタルソースが絡まって大満足の味だ。キャベツの食感も良いし、パン生地も香りたかい。
「さて、今日は何をしようか」
カツサンドを味わいながら私は今日の計画を考える。この一週間は街を散策したりギルドで他愛ない依頼を受けたりしていたが、さすがにそればかりはしていられない。特にお金は稼いでおかないと初心者装備をずっと使い続けることになる。短剣だけは二本買い揃えたとはいえ他は全く手をつけていないし、その短剣もゲームを進めれば買い替えるだろう。
「食べ物とか小物とか色々買っているせいで収支がほぼゼロだからなぁ。実入りの良い仕事を探さないと」
紅茶ポットみたいに絶対に必要ではないものも見た目が良いと買ってしまうから、驚くべきことに初ログインの時から所持金が増えていない。むしろ減っているまである。
「おつかいみたいな依頼も好きだし、そこは気分......と後はお金で決めれば良いか」
あとはそれこそおつかい依頼の途中で見つけた隠しイベントもやりたいし、陰陽師の情報収集も進めたいし。
「あ」
情報収集で思い出した。そういえば図書館の話を聞いていたんだった。せっかくアレティアさんが教えてくれたというのにすっかり忘れていた。
また忘れてしまう前に急いで行っておこうと立ち上がったところでお茶に手が引っかかった。
倒れていくコップを見て酷い面倒の予感がした。
少し前に海際の小さなお店に行ったら、ゲンギョのフィッシュカツサンドが売られていました。
あの時は食べませんでしたが、いつかは。
ゲンギョってどんな味なんでしょうね。




