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Prologue 〜いつかの伝説〜

皆様初めまして。

本作は「なんとか詠唱を格好良く、美しくしたい」という作者の願望がキッカケの作品です。なので(当分先ですが)古語とかが出てくるかもしれません。「こいつ何言ってんの?」というのがありましたら気軽にお尋ね下さい。


さて、第一話です。

戦闘描写のせいでPrologueがかなり長くなってしまいました。どのくらいかというと、今のストックの中で(本編じゃないのに)これが一番です。仰天。

何はともあれ、ごゆっくりお過ごし頂ければ幸いです。

 灼熱の大地を溶岩がゆっくりと流れていた。

 黒い岩の転がった地面は所々が赤く輝き、その裂け目からガスが勢いよく吹き出す。融解して白光する岩石から火の粉が舞い、元が何だったのかも分からない炭の塊は灰と化して消えていく。

 この地獄はもともと火竜の庭園であった。しかし今この場所には何の芸術性も残っていない。


「ブレス来るぞ!」

「障壁展開! 後衛は絶対に守り切れ!」

「遊撃組は隙を見て攻撃!」


 怒り狂う火竜に立ち向かうのは五十人を超えるプレイヤーたち。


「中央が持ちそうにない、ヒーラー!」

「んなこと言ったってこっちもMPがねぇよ!」


 しかし奮闘虚しく戦況は悪化し続けていた。最初百人近くいた彼らの半分が初撃のブレスで消滅し、崩壊した戦線を建て直す頃にはプレイヤー全体がMP不足に陥り始めていた。

 今もまた、障壁を張っていた魔法使いと補助の大盾使いの二人が塵となって退場していき、その穴を明らかに駆け出しの魔法使いが一人で必死に埋めようとしている。

 状況はまさに砂上の楼閣。後方で指揮を取っていたプレイヤーが額の汗を拭った。


「左翼から中央に魔法を二人!」


 彼は通信機で──この通信システムのおかげでまだ何とか命令系統が機能していた──各隊の隊長に指示を出した。そして血走った目で戦場を見渡しながら現状の打開策を模索する。


「どれもダメだ。人が足りなさすぎる」


 特に水魔法使いの不足が著しかった。対火竜戦ということでたくさん募ったはずが、魔法の完成前に火竜のヘイトが向くせいでほとんどダメージを与えることなく死んでしまっている。

 何の案も浮かばないまま【遠視(テレサイト)】や【範囲感知(エリアセンス)】を駆使し五秒刻みに指示を出していた彼の元に、遊撃班のCグループから一通の通信が入った。それはこの場に似合わない凪いだ水面のような穏やかなものだった。


「総隊長」

「どうした!」

「遊撃組Cを全員犠牲にして良いなら、あれに巨大な水魔法をお見舞いできるわ」

「了解、ちょっと待ってくれ!」


 遊撃班Cの情報を持ってくるよう彼は速やかに参謀の一人に伝えた。この戦いに向けて事前に整理していた情報である。


「ダメージ源。提案があれば受けるのが良い、か」


 その評価は現状のトップクランのメンバーによるもの。戦場に目をやると確かにブレス後の火竜の隙を狙って着実にダメージを与えていた。

 一抹の不安はあった。もし失敗したら今度こそ勝利は自分たちの手からこぼれ落ちることになるだろう。しかし現状維持に未来は無い。逡巡は一瞬だった。


「遊撃Cへ、提案を許可する!」

「了解よ」

「各隊はCから説明を受けよ!」

「ラジャ!」

「完了までこちらの指示の優先度を下げる! 作戦開始!」


 彼は通信機を受信モードにして双眼鏡を覗き込んだ。

 遊撃班Cは四人のグループであった。見たところでは魔法使い一人と聖職者一人、そして恐らく遠距離のよく分からないの二人という構成だった。

 彼女たちはよく目立つ小高い岩場に登った。そして魔法使いの少女を守るように円形になると、そこに【範囲(エリアリジェ)再生(ネレーション)】の光が煌めく。

 真ん中に立つ魔法使いの詠唱が始まった瞬間、火竜の眼がギロリとそちらを向いた。

 再び通信が入る。


「これから水魔法の準備をするわ。ヘイトがこっちに集中しているうちに攻撃して」


 その言葉通り、火竜はその要塞の如き巨体を回して周囲の岩石を四方八方へ飛び散らせながら四人の方に向き直った。そして土煙の立ち込める中へとその大きな口を開く。喉奥に真っ赤な炎が灯り、その赤い光が煙で乱反射した。

 通信機を使う間もなかった。爆炎が彼女たちを飲み込み、通信機から溢れ出す砂嵐のようなノイズにうめき声が混ざった。


「おい、どうなってる!」

「攻撃を続けて。何とかするわ」


 実際、彼女たちは火竜の猛攻にも持ち堪えていた。まだ詠唱している魔法使いを守りながら聖職者が全体回復と範囲回復を使い続け、残り二人が攻撃を防ぐ。


「ヴァンパイアと梟か!」


 ヴァンパイアが【操血】で血の盾を作り、梟が風系の魔法で炎を弱めている。

 安定して防御できているのかと一息つきかけた彼は双眼鏡の狭い視野を見つめてごくりと唾を呑んだ。

 尾の攻撃や飛んでくる瓦礫が血の盾を次々に破壊していくのをヴァンパイアの少女が必死に作り直し、一方の梟獣人の子は火竜のブレスに合わせて風魔法の発動と中断を繰り返して、それでも打ち消せなかった余波は自分がくらうことで防いでいた。

 驚くべきことに彼女たちが火竜の相手を始めてから五分が経とうとしていた。


「至宝の五分だな」


 外からも回復を飛ばしたりして延ばしに延ばしたこの五分間、事実ヘイトはずっと彼女たちに向き続け、そのおかげでかなりのダメージが稼げていた。

 通信機越しに指示が出される。


「もうすぐ魔法が完成するわ。それと同時にここの四人は死ぬから、あとは頼んだわよ」

「任せろ!」


 彼は間髪入れずに叫ぶ。

 他の隊の隊長たちがそれに続き、フィールド上のプレイヤーたちも雄叫びを上げた。

 ここまで準備されて失敗するようなバカも恥知らずもここにはいない。通信機越しに小さな笑いが聞こえた。


「幸運を祈っているわね。それじゃあ……今よ、発動して!」


 それが最後の通信だった。

 最初に目に映ったのは白銀の光を放つ巨大な魔法陣だった。知らぬものなどいない、聖職者の象徴とも言うべき【献身(サクラファイス)】である。その効果は自分の命を対価に無敵範囲を作り出すこと。短時間ながらも完全なセーフエリアの生成。

 火竜のブレスが輝く半球に遮られる。

 そして、ずっと続いていた詠唱が終わったのがちょうどその時だった。

 ()()は彼女たちの上空に唐突に現れた。


「おい……何だあれは」


 腕からふっと力が抜け双眼鏡が首にぶら下がる。

 火竜を見下ろす()()()()()()を彼はただ見つめていた。彼だけではない。大部分のプレイヤーが武器も構えず氷像のようになってその()()を見上げていた。それはこれまで一度たりとも見たことのない魔法だった。

 一瞬、火竜までもが動きを止めた。


「──三つ(だま)をもて、敵砕きませ」


 彼はその刹那の静寂に詠唱の一節を聞いた気がした。

 それが聞こえなくなると同時に残りの三人も聖職者同様ポリゴンと化し、そのポリゴンの光の粒が水龍の身体を包み込む。

 時がまた動き出す。

 少女たちの死によってヘイトが動き、何もされないと判断した火竜が塔のような巨腕を地面のプレイヤーへと振りかぶった時だった。

 天地を揺るがす咆哮。それはすぐさま絶叫へと変わった。


「グギャアアアアァッッ」


 腕が意に反して強制的に地面へと叩きつけられる。

 光を収めた水龍が頭から火竜に突っ込み、その全身を覆い、体表を迸っていた炎を瞬く間に消し尽くし、さらには火炎を吐き出していた口へと大量の水が流れ込んで、火竜は金切り声を上げながら地面に押し倒された。息ができず腕を宙へと突き出して苦しみ、そしてそれすらも水圧によって大地へ崩れ落ちる。

 水はそこからフィールド全体へと広がり、爆ぜていた火も流れていた溶岩も全て無くしてただの真っ黒な地面に変えてしまった。

 火竜の体力は二割を切り、さらに今もノックダウン中である。


「総員、全力で攻撃!」


 素早く意識を取り戻した彼は通信機に向かって叫び、プレイヤーたちはすぐさまそれに従った。これを倒すならば今しかない。

 順調に削れてゆくHPゲージを見て彼は通信を切る。


「化け物か……」


 彼は尽く鎮火されたフィールドを眺めて呟いた。

第二章以降は戦闘描写が短くなると思います(逆に言えばまだしばらくは......)。

気に召しましたらブックマークなど頂けますと嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 超楽しみです!
[一言] えぇっ!?古語でBLEACHばりのオサレ詠唱を!?(ネタ振り)
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