5.言葉にしなければ伝わらない
アレンの思いがわかった次の日、ユウナはあまり調子が良くないと感じていた。症状が現れる頻度が高くなったと感じていたが、ユウナはいつもより気持ちが軽かった。
───アレン様が特効薬を手に入れてくれた。どのくらい効果があるかはわからないけれど、気持ちは楽になるわね。
症状が出たら一番先にアレンに伝えると約束をした。ユウナはベッドから立ち上がり、アレンの執務室に向かおうと自室の扉を開けようとしたとき、いつもより屋敷内が騒々しいことに気がついた。扉を開ける前によく耳を澄ます。
「ユウナはどこだ! あいつを連れて帰る! アレンに恥をかかせてやる!」
甘ったるい粘性のある声。なぜかクラードが屋敷の中にいる。おそらく使用人たちがクラードを引き留め、ユウナの部屋に入らないようにしてくれているのだろう。ユウナは部屋の扉を閉め、鍵をかけた。体調が悪いこともあいまって、動悸が激しい。息ができない。
「クラード! 何をしに来たんだ!」
廊下にアレンが駆け付けた声がする。クラードの気味の悪い笑い声がこだました。
「やあ、アレン! 君に恥をかかされたから、私は君に仕返しに来たんだ。婚約破棄をしておいてまたユウナと一緒になるだなんてそんなことあっていいと思っているのかい? 何を言われようと、彼女は私のものだ! そこをどけろ!」
「落ち着けクラード! 何度も言うが、ユウナは物じゃない。彼女がどうしたいかはこの間聞いただろう? さあ、早く帰ってくれ!」
アレンがいつになく低い声でクラードを説得する。それでもクラードは自制がきかなくなっているようで、アレンを押しのけてユウナの部屋へ走ってきた。ガチャガチャとドアノブを回し、今にもドアは開きそうだった。
「ユウナ! 私と一緒に帰ろう! 君を愛する準備はできている…」
「そこまでだ、クラード。」
アレンがクラードの首元にナイフを突きつけた。低い怒声。
「誰が誰を愛するって? ユウナを愛していいのはユウナを大切に想う人だけだ。クラード、君は彼女の気持ちを考えたことがあるのか? 彼女はきっと今部屋の中で怯えているはずだ。僕は今すぐにでもユウナのそばに行って、彼女を抱きしめたい。恐れをとってやりたいんだ。早く帰れ、クラード。さもなくばこのナイフを滑らせ、君の首に傷をつけることもやむなしだよ。」
アレンの言葉にクラードが小さく悲鳴をあげる。そしてバタバタと廊下を走りながら、捨て台詞を吐いていった。
「お、覚えていろよ、アレン!」
クラードが去った後の屋敷内はしんと静まり返っていた。ユウナは肩で息をしながら、危機が去ったことを悟る。アレンに会いたいと何とか立ち上がった時、部屋の扉がノックされた。
「ユウナ、僕だ。鍵を開けてくれるかな。」
ユウナは内鍵を開けて、ゆっくりと扉を開いた。ほっとしたようなアレンの顔が見えて、ユウナも安心する。
「ユウナ、大丈夫だった? いや、肩で息をしているね。体調が良くなかったの?」
「はい、体調が優れなかったのでアレン様にお伝えしようと思ったところ、クラード様が来ていることを知って、怖くなって部屋にこもっておりました。持っていた薬は飲んだのですが、あまり良くならなくて…。」
「すまない、クラードなんか放っておいて君のもとに駆け付けるべきだった。でも部屋にいてくれて良かった。ベッドまで運ぶよ。手に入れた薬は今持ってくるから横になっていて。」
アレンはユウナを抱きかかえると、ベッドに寝かせた。その後部屋からいなくなると、すぐに戻ってきた。
「これがその薬だよ。これを飲むことで症状が緩和、もしくは病気が完治するという東の国の魔法の薬。身体を起こせるかい?」
アレンはユウナの体を支え、小袋の中から小さなビンを取り出す。アレンが蓋を開けそのまま自分の口に含んだ。
「小さなビンなのですね。でも、アレン様が飲んでも意味が無いのでは…?」
ユウナが不思議そうに顔を上げるとアレンと目線が合った。アレンはにやっと笑うと、そのままユウナに口づけた。口移しで飲み薬が移され、ユウナは喉を濡らした。
「ア、アレン様?」
「普通に渡しても僕の気持ちが伝わらないかと思ってね。」
「十分伝わっていますし、1人で飲めます!」
アレンはにっこり笑うとユウナの頭をなでた。それが嬉しいと思ってしまうのだから、やっぱりユウナはアレンのことが好きなのだと自覚したのだった。
その後ユウナの体調は快方に向かい、執務をこなす回数も増えていった。秘の病自体が消えたわけではないようだったが、ユウナの体調を見て、アレンの両親も2人の婚約を改めて認めてくれた。再度正式にアレンとユウナは婚姻関係になり、以前はできなかった結婚式も予定されている。
「今度は破棄しないでくださいね。」
「ああ。思いをちゃんと伝えること、それが大事だともうわかったから。」
2人は見つめあい微笑み合う。
「1人になるな、味方を作れ。私たちはもう1人にはなりません。」
初投稿作、完結です。
ブクマ、アクセス状況が励みになっていました。
次作も鋭意作成中ですので、よろしくお願いいたします!