第92話 閑話休題 17 おっかねぇ話
一方その頃、トールのゼレとライネは協同クエストのための野営地にいた。
魔物との戦いは一段落していたため、交代の見張りを立てながらキャンプは一時休息を取っている。
それまでは大規模な魔物群との衝突があり、怪我人もかなり多く出た。そのためライネを始めとする神官やヒーラーは忙しく怪我人の手当に当たっていた。
ラ「…これでよし、と。ヒールによる治療はこの辺りにしておいて、後は自然治癒の力に任せましょう。
そうしておけば傷が治ったときに、より強靭な体になれるんですよ。
包帯は新しいのに変えておきました。まだ傷は浅くないので無理に動かさないで、何かあったら周りの人を呼んでくださいね。」
ありがとうございます、と怪我人が礼を言う。
そこへ女の子が1人駆けてくる。
女の子「ライネさんっ!まだ容態の優れない方がいて、追加で輸血するべきか判断して貰いたいんです。お願いします。」
ライネは返事をすると足早に女の子の指す方へ向かっていく。
するとライネに手当をしてもらった兵士に他の兵士が声をかける。
兵士1「あーあ、お前はいいよな。ライネさんに直接手当してもらって。こちとら年季の入った爺さんだったよ。羨ましい限りだぜ。」
兵士2「お前は軽症だったろうが。まぁでもこんなこともあるなら怪我のしがいもあるってもんだな。」
兵士1「ちくしょー、羨ましいー。俺ももっと重症になれば良かったぜ。」
するともう一人のトールメンバー、ゼレが近くを通りかかる。なんとはなしに見ていると子どもに声をかけられたようだ。
しばらく会話を交わした後、ゼレが子どもに何かを握らせる。
子どもは満面の笑みを浮かべて喜びながら、くるりと背を向けると足早に去っていった。
その様子をいつの間にか帰っていたライネが見ていた。
その表情はいつもと変わらないように見えたが、なぜか感情を押し殺しているようだった。
ライネはつかつかとゼレに歩み寄り声をかける。
ラ「り〜ぃ〜だ〜あ〜?」
ライネの様子に気づいたゼレ。しかしもう遅かった。ライネが早口でまくし立てる。
ラ「リーダー、また子どもにお金を上げたんですか?私言いましたよね?その子のためにならないからあげちゃいけないって。約束しましたよね?バカですか?バカなんですか?うちはお金にはそこまで苦労していませんけど、そう毎度毎度考えなしにバラまかれたら困るんですよ。お金だって湧いて出てくるものじゃあないんですよ?困った子どもがいたらまず私に声をかける。これが前提だったの覚えていますよね?そうしたら食べ物でも暖かい衣服でも、私の方で調達すればいい話ですから。」
ゼ「ライネが忙しそうだったから、つい」
ラ「言い訳はやめてください!子どもと一緒に待つ時間ぐらいとれるでしょう?それぐらい融通利かしてください。今回だって数十秒待てば私帰ってこられたじゃないですか。ここだけの話、あなた子どもたちに何て呼ばれているか知っていますか?知らない?『歩く貯金箱』ですよ。楽にお金を稼げるからってあなた魔法の箱かなんかとしか見られていないんです。その証拠にほら、わたしのいるときは子どもたちもお金の普請をして来ないじゃないですか。正直なめられてるんですよ、あなた!」
ゼ「わ、わかった。わかったから次は」
ラ「いーえ、わかってません。この話も何度目ですか。世の中かわいそうな子供はいます。あなたがその役に立ちたいのならその子のためにも物を上げてください。前だってブツブツ…」
あまりの剣幕に兵士たちは痛みを忘れて呆気に取られていた。
兵士1「天使のように優しそうなライネさんにも、ああいう一面があるんだな…。」
兵士2「そうだな。言うこと聞いていたおかげで叱られなくてよかったぜ…。」
それでも一瞬、ちょっとぐらいならライネに叱られてみるのもいいかもしれない。
ついそんなことを考えてしまった、保養所の兵士たちなのであった。




