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第91話 センチメンタル・デイズ


 2人で脱走を目論んだその夜。結果、ヌマルルは自由を勝ち取り、クロは再び研究所に収容された。


 クロを待ち受けていたのは実験が繰り返される元の日々だった。


ク「苦しい日々だけど今までだって耐えていたもの。大して辛くなんかない、帰ってきたときはそう強がっていたわ。


 …でも現実は逆だった。ヌマルルが、一緒に苦痛を舐め合える大切な仲間がいたから、そんな日々も堪えていられたのだと初めてわかった。


 永遠に感じる途方もない実験の毎日に、私は私の心が崩れていくのを感じていたわ…。」


コ「つ、辛い時間は長く感じますもんね。僕には想像もできませんが、よく耐えてこられたんですね…。」


 クロは視線を保ったまま続ける。


ク「耐えがたい毎日の中、思い浮かべるのは、ヌマルル、あなたのことだけだったのよ。

 陰惨な日々の中であなただけが私の希望だった…。」


 クロはふぅと息をつく。


ク「どれだけ実験の日々が経ったかしら。ある時研究所から私に打診があったわ。内容はこうだった。


 『ヌマルルと直接接触し、研究所に連れて帰れ』


 それを聞いたとき、私に熱いものが巡るのを感じたわ。


 そのときからずっと具体的なことは考えていなかった。

 あなたを本当に連れて帰るのか。そうするならばどのような手段をとるのか。泣き落とし?力づく?本来考えるべきことはちっとも形をなさない。


 そんなことより巡っていた思いがあったわ。

 それはただ、あなたに一目会いたかったということ。何でもいい、一言、言葉を交わしたかったということよ…。」


 ヌマルルがポロリと涙をこぼす。


ク「何も考えず二つ返事で私はその任に志願したわ。

 私はヌマルルを観察・接触し、できるだけ早く連れて帰るか、定期的に研究所に戻って進捗を報告するよう義務づけられたの。」


メ「自由の身にはなれなかったの?何か枷があったのかしら。」


ク「私を束縛する枷はこれね。」


 クロは自らの首輪を示す。


ク「これは高性能な爆弾が埋められた首輪なの。爆発すれば命はないわ。

 爆発させないためには無理やり外そうとせず、定期的に研究所へ帰って充電する必要があるわ。まぁ私が死んでも被害を出さないために爆発は止まるけどね。」


ダ「やっぱり逃げられない理由があったんだねー。」


ア「あのー、いいですか?」


ク「悪いけど話を続けさせてくれる?

 天の下、束の間の自由を手に入れた私は、かけるようにヌマルルの元に向かったわ。


 諜報員から場所は知らされていた。気配を消し、遠巻きにあなたを眺めたとき、私はえも言われぬ幸福感を感じたわ。あの時の胸の高鳴りは今でも覚えている。


 しかしそれとは別に、自分の置かれている状況に限りない恐怖も感じたの。」


 クロは強く奥歯を噛みしめる。


ク「ヌマルルをあんなところへは絶対に連れて行けない。

 かと言って心の折れた自分も、もうあそこへ戻ることなんてできなかった。

 どうしようもないという辛い思いだけが頭を巡っていたわ。」


 訪れる一瞬の静寂。


ク「最初のうちは研究所には、ヌマルルの周りにはトールという強力なパーティメンバーがいて手を出せない、と報告していたわ。まぁ力づくでことに及ぶならそれはあながち嘘ではないしね。


 しかしそんな言い訳が何度も通用するわけはない。研究所からは先日、今日の協同クエストの際に行動を起こし、それが駄目なら私の役目は失敗だから任務を解くと通告されたのよ。」


 これがことの顛末、とクロは言う。


ク「…ねぇ、ヌマルル。文字通り後生のお願いよ。私のことを殺してほしいの。私はもう研究所ではきっと生きていけない。

 あなたに殺されるのなら、きっと私、報われる気がする…。」


 クロはまた言葉を詰まらせるとポロポロと涙をこぼす。

 クロの願いは果たされることはない願いだ。きっとそれはクロ自身もわかっているはずなのに。



 そこへ、いきさつを見守っていた仲間から、ちょっと待った!と一声がかかった。

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