第84話 クロ・クライシス その2
出発から40分ほど過ぎたころ、ヌマルルとはなまるパーティは件のルブレンという洞窟に辿り着いた。
急いで歩を進めていたつもりだったが、到着してみるとそれなりの時間が経っている。
ルブレン入り口で野営に備えている集団はそれなりにいた。
ヌマルルは入り口にいた男の子の姿を認めると駆け寄り、声をかけ手を握る。
ヌ゙「シトロ、駆けつけるのが遅くてごめんにゃ。怪我の方は大丈夫かにゃ?」
シトロと呼ばれた男の子は優しそうに頬を緩め、答える。
シ「トールさんが整備して下さった派兵システムのおかげで、神官の方から迅速な治療が受けられました。
今は傷を負う前と同じように動けますよ。」
脱帽し、会釈するシトロ。乾いた血の跡が衣服のそこかしこに残っている。
ヌ゙「怪我をさせたのはヌマルルの身内にゃ。どうか頭なんか下げないでくれにゃ…。」
メ「ヌマルル、謝りたいのは山々でしょうけど、それは後にして現状把握を。」
ヌ゙「…そうだにゃ。シトロ、あなたたちのパーティ、リバティが、クロに遭遇してから今までに至る経緯をかい摘んで教えてほしいにゃ。」
わかりました、と爽やかな笑顔を返すシトロ。そして記憶を辿りながら彼は話を切り出していく。
シ「クロさんに会うまでの話になりますが、ここにきた経緯も少しお話させて下さいね。
僕たち、ルブレンへはクリーニングのクエストを行うために来ていたんです。ちなみにルブレン洞窟の中は五叉路になっている箇所があるんですね。
そのままだと1つの通路をクリーニングしている間に他の通路の魔物が入り口から逃げてしまい、クリーニングが終わったあとに魔物が洞窟に舞い戻ってしまいます。そこで協力してクエストに当たっていたのがこちらの」
ずいっ、と横から出てくると話を受ける少年。
モ「パーティ、セピアというわけだ。俺の名はモットー。セピアのリーダーをしている。
セピアは罠や結界など待ち伏せや通行阻害のプロフェッショナルだ。
リバティがクリーニングに当たっている間、俺たちは入り口を封鎖しておく。今回はそういう手筈で協力しながらクエストを進めていたんだな。」
シトロはモットーの解説ににこりと微笑むと、言葉を次いでいく。
シ「そして順調にクリーニングを進めていたところでクロさんとの接触になりました。
五叉路の真ん中、通路の一番奥の開けた場所で、僕たちはヌマルルさんから聞いていたのとよく似た獣人を見かけたんです。」
気づけば夜もとっぷり暮れていた。シトロが話を続ける。
シ「人相書きを今一度検めて、僕は『クロさんですか?』と声をかけました。最初は返事がないかと思いました。
次いで声をかけようとするとクロさんの方から『誰に聞いた?』と質問を返してきました。
そこで僕がヌマルルさんの名を出すと、クロさんが急に襲いかかってきたんです。」
ヌ゙「クロ…。」
ヌマルルはどういう気持ちでこの言葉を発したのか。
シ「クロさんは明らかに手を抜いていましたが、それでも到底僕らが敵う相手ではありませんでした。
僕は深手を負い、陣形は総崩れ。慌てて帰還チャームを起動し、洞窟の入り口へと折り返しました。」
モ゙「状況を把握した俺たちは狼煙で救助を要請。
シトロの応急処置を行いながら、クロの危険性を鑑みてルブレン封鎖の強化を決定した次第だ。
敵はヌマルルさんを越える実力者かもしれない。確かな戦力が確保できるまで、ここでじっくり待たせてもらったよ。」
ヌ゙「苦労をかけたにゃ。セピアのみんな、的確な行動と長時間に渡る戦線の維持、助かったにゃ。」
しかし、モットーの顔は晴れない。
モ゙「なに、本番はこれからですよ。
…今クロの捕縛にかかるあなたたちをお通しします。しかしあなたたち急造のメンバーがクロに太刀打ちできるかは、やってみないと分からないんですね。」
ヌマルルの松明がパチリと爆ぜる。
モ゙「万一あなたがたがクロに倒されても、クロをルブレンから出すわけにはいかない。俺たちはここを守る責務があるんです。戦線には加われない。
ここからは死して屍拾う者なし…その覚悟を持ってお願いします。」
はなまるパーティをふっと振り返るヌマルル。
しかしここに来るまでに彼らの覚悟は決まっていた。
しかと首肯するはなまるパーティの面々。
ありがとう、と口の動きでヌマルルは応えると、すぐに前に向き直り、モットーに道を開けるように合図した。
モ゙「力になれないのがもどかしい。
俺たちは俺たちにできることをして待つよ。どうかご無事で、光あれ。」
そして結界が解除され、ヌマルルとはなまるパーティはルブレン洞窟へと足を踏み入れていったのだった。




