第100話 出会ったあの日
宿屋。椅子に腰掛けたまま、日差しに眠気を誘われたマイアがすやすやと寝息を立てている。
ミ゙「マイアー。…おや、居眠りなんて珍しいっスね。」
メ「ミカなら何の不思議もないけどね。」
リ「しーっ、疲れてるんだろ。寝かしといてやろうぜ。」
微温い午後、ミルクのような陽光に包まれながら、マイアを昔の白昼夢が取り巻いていく。
マイアはお使いに出ていた。
クエストですらない、ただのお使いだ。
もちろん冒険者としてのクエストの方が稼ぎがいいし、マイアもそれを受けたかった。
ただ自分は露払いもできないペーペーの魔法使い。ギルド受付嬢によると、受けられるクエストはしばらくないとのことだった。
そんなこんなで街のお助け役のようなことをしている。
悔しい気持ちはあるが、これでも日銭程度なら稼げる。それにまぁ、他の手段で人の役に立てるのも悪くない。
今日の依頼はお届けものを運ぶ依頼だ。それは決して高価なものではなかった。
ただ依頼人の愛する人へ届ける、何よりも意味のある贈り物だったのだ。
依頼の品が入ったバスケットを提げ、大通りを行くマイア。すると後ろから影が飛び出した。
出し抜けにその影はマイアの運んでいた荷物をくすね、去っていく。
ひったくりだ。
それは素早く依頼の品を抱えると、あっと言う間に大通りを駆けていく。
マ「ど、ドロボー!」
運悪くひったくりの行く先に人はいなかった。ただ1人を除いては。
ミ゙「任せるっス!」
それがミカとの出会いだった。
ミカはひったくりの腕にわしと組み付くと、品物を掴んで離さない。
ひったくりは、なんだこいつ、と毒づくとミカに何度も拳を振るう。
ミカはミカで傷だらけになりながらも、頑として引かない。
騒ぎに周囲が気づき始め、ひったくりは頃合い悪しと感じたのか、品物を諦めると路地に消えていった。
マ「君、大丈夫かい?そんな傷を負って…。」
ミ゙「なんてことないっスよ!正義は勝つんス!
はい、荷物をどうぞ。」
煤だらけになった服を払うと品物をマイアに手渡すミカ。
品物はよくある手編みのセーターだった。
しかし通りすがりの人にこれだけ必死になれる人が他にどれだけいるだろう。
マ「ありがとう、とても大切なものだったんだ…。お礼に傷の手当と食事のご馳走でもさせてほしいな。
君の名前は?」
ミ゙「ミカ。ミカっスよ。あなたは?」
マ「マイアだよ。さぁ来て来て。」
年も自分より幼そうな少女。そんなミカの傷だらけの顔を見ながら、お人好しの彼女の行く末に一抹の不安を感じるマイアだった。
そしてここから2人は共に過ごすようになり、長い冒険の日々を送るようになったのである。
ああ、こんなこともあったな。
遠い呼び声が次第に形になり、昔の記憶は退いていく――。
ミ゙「マイア…マイア…」
マ「ミカ。…眠っていたね。」
ミ゙「今日はウリウの洞窟に転生者を迎えに行く日っスよ。
いつも最初が肝心!引き締めて行くっスよ!」
夢というものは面白い。それは特段意識しなければすぐ忘却の彼方に消えてしまう。
マイアは今日の夢をしっかり噛みしめ、目の前の女の子を守りたいという気持ちを新たにする。
やがていつものドーム状の空間にやってくると、ミカは転生の儀を行う。
中央の空間に白い柱が立ち、いつものように何者かが現れるのだった。
ミ゙「はじめまして!あなたの名前を聞かせてほしいっス。」
今回のお話で100話ということで、とりあえず1章終了です。
残念ながらしばらく更新が途絶えると思いますが、また折を見て続きを書いていきたい気持ちはあります。
感想など書いていただければ励みになります。
それではしばしのお別れを。ぺこり。