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眠れない男

作者: トマホーク32型

...チクッ..タク..チクッ..タク...机に置かれた時計が今まさに、午前4時を指そうとしている。...チクッ..タク..チクッ..タク...来たっ、「ふぅ〜〜〜.....」新記録達成、これで丸1週間寝れてない。嬉しくないけど少し嬉しいような、複雑な気分だ。


「よぉ〜なに嬉しそうな顔してんだよ」ソファーで足を組んで、自慢げな顔をこちらに向けてくる。その憎たらしい顔に拳をめり込ませてやりたい。


「...嬉しくない」静止させるように睨みつける。


「い〜や嘘だね、今嬉しそうな顔してた」こちらの気分などおかまいなしに返す。無邪気な態度が余計腹立たしい。


「大体お前のせいだろ!寝ようと思っても、いつも現れて邪魔しやがって!」立ち上がって怒鳴り散らした。こいつのせいで1週間眠れずにいる。これでキレない人がいるなら見てみたい。


「そんな怒るなって、お前の好きな曲流してやるから」「眠い時にいつも大音量で流しやがって!嫌いになったわ!」後ろの窓に近づき背を向けた。こんな奴の顔、見たくもない。


.....分かってる、こいつは脳みそが作り出した幻覚。幻覚と喧嘩するなんて正気の人間がすることじゃない。幻覚が先か、眠れなくなったのが先か、思い出そうとしたけど、頭が痛くなってやめた。


「なぁ〜そんな怒るなって、気分転換に散歩でも行こうぜ」後ろから能天気に投げかけてくる。「.....」「なぁ〜、なぁ〜ってば!」


「もうっ、うるさ.....い?」黙らせようと振り返ると、直径1.5メートル程の巨大なシャボン玉が宙に浮かんでいた。ついに幻覚を見るようになったか?いや元からか。


「へへっこれに乗って散歩しようぜ」自慢げな顔をこちらに向けてくる。その憎たらしい顔に拳をめり込ませてやりたい。






「ほら早く早く!」ベランダの外側で、巨大シャボン玉に乗ってこちらに手を伸ばしてくる。


「無理無理!絶対無理!」ここはマンションの5階、幻覚に連れられて飛び降り自殺など冗談じゃない。「も〜いいからほら!」腕を掴み無理やり引っ張る。「きゃーーー!」ベランダの外に引っ張られ、シャボン玉に乗せられた。シャボン玉は重さで形を柔軟に歪めたが、以外に安定感がある。


「へへっ、きゃーーだって、可愛い声出すなよ」からかうように言った。「うるさい!それより幻覚のはずじゃ...」「まぁー細かいこと気にすんなよ、それよりほら!」両手を大きく広げて言った「気持ちいいだろ?」


午前4時の薄明るい空、朝の始まりを告げる、清々しくて、ちょっとだけ寂しい空気。体いっぱいに吸い込み、ゆっくり吐き出す。「まぁ、悪くない」「へへっ」憎らしい顔で笑った。




シャボン玉は午前4時の空をゆっくりと風に流されていた。「ちゃんと戻れるんだろうな」目的なく流れている気がして不安になり、聞いてみた。「大丈夫だって、気にすんな、...はぁ〜〜あっ...眠みぃ」「なっ!お前だけは眠いって言うな!」肩を掴んで思いっきり揺らす。「おい!危ないから!危ないからやめて!」どこか楽しそうに言った。


冷えた空気を頬に感じながら、街をゆっくり見下ろした。街の大半はまだ眠っている。「........ねぇ、私たちどこかで会った?」なぜか無性に懐かしくなって聞いてみた。


「へへっ、やっと思い出した?俺たちはずっと前から出会ってるよ」待ちくたびれたかのように言った。「.....だれ?どうして私を寝かせないようにするの?」「違うよ。ゆかり、お前を起こしに来たんだ」「え?」




「...かり!....ゆかり!ゆかり!...あぁ〜良かった〜!やっと目を覚ました!」私は病室のベットで目覚めた。ずっと眠っていたせいか、頭が良く回らない。「けんた、泣いてる、どうしたの?」


「ゆかり、お前交通事故で1週間も意識不明だったんだぞ!」「.....そうだったんだ...なんか、とても長い夢を見てたんだけど...忘れちゃった」


「へへっなんだそれ、俺なんか心配で1週間眠れなかったんだぞ」自慢げな顔をこちらに向けてくる。なぜだか、泣けるほど愛おしい笑顔だ。

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