戦パート 混沌のロキ勢力VS両星のルイン勢力 原初の血その三 等しくない幻術の力
いよいよ戦パートも大詰めです。
「……そんな、バカな」
女王の下へ追いついたミストラは驚愕していた。
目の前の光景……そこにあって然るべき存在が、無い。
「バルフートが消えた? それにベヒモスと戦うあれは一体何だ。聞いていない。主は何
を考えているのでしょう? いや、今はそれよりも!」
不思議な浮かぶ石に乗ったまま、ミストラはその石を動かし、割れた海へと向かう。
少し離れた場所でベヒモスと対峙する竜に激しく睨まれ、背筋が凍り付く。
竜の放つ殺意。この卜伝、生涯敵無しを売りにしたのは戦わずして勝って来たからだ。
だがこの目は、対峙してはならない相手。
「ガァーー! 邪魔だ、いい加減離れやがれ二本角の執着野郎がぁーー!」
「……! グゴゴゴゴ!」
ベヒモスは竜により吹き飛ばされ、海に沈みつつ再度頭を振り上げる。
その角に何かが集約していった。
ベリアルは直ぐに竜巻が沸き起こる場所を目指した……が、その様子を近くで見て安堵す
る。
「俺の助けは余計な世話か。これじゃ俺が笑われちまうじゃねえか……おい執着野郎。
こっちだ。よく狙えよ……撃つんだろ?」
「グゴゴゴゴゴゴゴ! グゴーー!」
ベリアルに挑発されて、二つの角から強烈な圧縮砲が放たれる。
しかしベリアルは放たれると同時にパッと鳥の姿へ変わり、小さい体で容易に回避して
みせた。
……その回避先にいたのは、ブツブツと独り言を呟き続けるミストラ。
まるで理解せぬままその身にベヒモスの圧縮砲を全身で受け、海へと沈んでいった。
「ひゅー。いい一撃だったぜ。ありがとよ。くたばんな!」
状況を全く把握していないベヒモスは、竜を探していた。
見えない位置から今度はベリアルがエゴイストテュポーンを放出し、ベヒモスは
それに飲み込まれていった。
「時間食っちまった。おいルイン、女王! 生きてやがるんだろうな!」
鳥の形態のまま竜巻の中に飛び込んでいくベリアル。
その中央部分は信じられないような光景だった。
「こりゃあ、イネービュの奴だな。竜巻だけでこうはならねえ。あの野郎、結局手助け
するならもっと早くしやがれ……」
海は深く深く引き裂かれていた。
ズタボロのルインを抱え、女王は優しくそれを撫でている。
ベリアルは女王の肩に止まると、嘴で女王を突き出す。
「いててっ! 何すんだこの鳥! あれ? おめーはルインの肩に乗ってた鳥か?」
「おい。何でこんなところに来やがった。おめえが狙われたらまずいなんてもんじゃねえだろうが」
「鳥……俺様腹減ったよ……」
「食材を見るような目で見るんじゃねえ! ったくこいつは昔から食い意地ばかり張ってやがる」
「昔から? 俺様、そんな昔からお前のこと、知らねーぞ?」
「今はそんなこたぁいいんだよ! それよりルインの奴は生きてやがるんだろうな」
「ああ、へーきじゃねえけど生きてる。大分無茶したみたいだ」
「そりゃそうだろ。死ぬ気でやんなきゃあのバルフートは封印出来ねえ。しかし予想した
通りというか何というか。消滅ブレスの体制に入ってやがったから、あの大陸の半分くれ
えは消し飛ぶかと思ったぜ」
「なぁなぁ。俺様……この竜巻出したのはいいんだけど、消し方分からねーんだ」
「……てめえの能力に振り回されてりゃ世話ねえんだがな。仕方ねえ。乗せてってやるよ!」
メルザの下に回り、鳥の姿からドラゴントウマの姿へと変貌するベリアル。
上空に高く飛び、竜巻の届かない範囲まで飛翔した。
しかし、それを狙っていたのか……その位置に業火が飛んできた。
「熱っ……痛ぇーーな! ……飛竜種共の群れか。絶好の機会だ。そりゃ狙って来るよな」
飛び上がったその先に待ち構えていたのはどう猛な飛竜種の群れだった。
数はおおよそ百体ばかり。
色は赤く、見た目で火竜種であることは想像出来る。
竜に乗る喜びを感じつつも、メルザはルインを抱えて考え込んでいた。
「うーん。なんだっけ。アメちゃんがやってたやつ。そーだ、氷永重斗!」
巨大な回転するスパイク状のものが、メルザの周囲に展開される。
それらはグルグルと高速回転し、猛烈なキーーンという音を発し始める。
ベリアルはその背中に冷たいものを感じていた。
「ただの幻術じゃねえ! 大気が呼応してやがる。あの竜巻もそうだったが、何てやべえ幻術を
使いやがるんだてめえは」
「俺様の邪魔すんな、いけーー!」
メルザが撃ち放ったその術は、高速回転しながら竜目掛けて進んでいく。
竜の一匹がそれに火のブレスを吹きかけるが……そのブレスを引き裂いて、竜を
真っ二つにしてしまう。
更にそのまま他の竜を目掛けて追尾していき、バタバタと竜が海に落下していった。
「……おい。たった一発で竜の群れをせん滅しちまうのかよ」
「分からねーけどよ。早く帰ろーぜ。カルネが待ってんだ。ルインも寝かせてやりてーし」
「そうしてえのはやまやまだが……戦力を分散させてんのはギオマやベルベディシアがい
やがるのを知ってのはずだ。あいつらがもっとも届かねえだろう南からこのバルフートを
引っ張ってきたってこたぁよ」
「ん? 何言ってんだ?」
「つまり、鉢合わせるとしたらここってことだ。いるんだろ、ロキ!」
「うふふふ……正解。それに、ここまでは想定内なんだよね」
竜の軍勢を蹴散らしたメルザの術を、指で挟み受け止めている一人の女性。
姿はミレーユ王女そのものに見える。
不気味な笑みを浮かべたまま、術を愛でるかのように確かめていた。
「本当に上手いことを考えたよね、イネービュは。実体から切り離して封印しておくこと
で他の神に悟られないよう、原初の力を封印しておくなんて。お陰で随分探したよ。シラ
に奪われる前にさ、引っ張りだせた方の勝ちなんだよね……うふふふふ」
「何ほざいてやがるか分からねえが、てめえの目的は何だ? おめえも一応は神だろう
が。直接手出しなんかしやがったら……」
「何も手出しなんてしないよ? 一度も攻撃なんかしてないでしょ? 神の道理に反する
ことは何もしていない。だから絶対神も、他の神々も手出ししない」
「なぁなぁ。あいつわり-奴ならやっつけて、さっさといこーぜ?」
「あいつは神だ。人が敵うような相手じゃねぇ……」
ベリアルが言葉を続ける前に、メルザが親指で円を描き出す。
クルクルと回しながら標的と定めたロキに指を合わせた。
「燃流星連斗!」
対象となるロキを取り囲むかのように、八方から燃え盛る流星がロキを襲う。
受け止められると確信しているかのように手をかざすと、その一つに触れ……その手ごと弾け飛んだ。
更に弾け飛んだ先の流星をもろに受け、さらにそれらを繰り返し全身に受け、墜落するロキ。
様子を見て一番驚いていたのはベリアルだった。
「おめえ……話を聴けって以前に一体何しやがったんだ!? 神を弾き飛ばしやがっただと!?
まさかおめえ……神に抗なう力を持つってのか」
「う? 俺様よく分からねーけどよ。何かすげーすっきりしたぜ! 行くぞ、えーとベロベロ?」
「俺はベリアルだ! こっちもスカッとしたぜ。まぁあんなんでくたばる奴じゃねえが、時間稼ぎ
くれーにはなるだろ。行くぜぇーーー!」
――トリノポート大陸に戻り、上空からその広い大陸を見渡す。
あらゆる場所で火の手が上がるが、軍勢はルーン国側が圧倒し始めていた。
北側は魂吸竜ギオマが、その奪い取った魂を放出してあらゆる敵を葬り、リ
サイクルをし、余分な魂はジャンカの町へと飛んでいく。
中央はミズガルド、ビーと雷帝ベルベディシアにより、ほぼ制圧。
南部から来る大軍勢は援軍として向かったアースガルズ、ジパルノグ軍により見事防戦
していた。
更に……南の敵軍勢は、ハルピュイアの襲撃にあい、逃げ惑う者が多く見受けられる。
ベリアルは上空から戦況を飛翔し見渡しながら、ジャンカの町を目指し、飛び続けた。
「これで終わりゃ万々歳なんだが……恐らくそうもいかねえだろうな」
「なぁ。お前さ。ずっとルインを守ってくれてたんだろ?」
「……違ぇな。こいつを守ってたのは俺じゃ無く竜の方だろ。俺ぁ……守られてたに過ぎ
ねえ」
「でも、今はベロベロが守ってくれてるだろ?」
「そりゃ、お互い様だぜ、女王よ……それとその名前で定着させんのは止めろ」
メルザのボケっぷりを懐かしく感じるワンシーンでした。
そして、原初の力を身に戻したメルザは完全な壊れキャラでした……。




