戦パート 混沌のロキ勢力VS両星のルイン勢力 女王とカルネ、原初の血その二
「深淵に見舞え! シャル、イー、テトラ!」
「ふん……甘いですね。この程度で私が倒せるとでも?」
メルザを助けるべく、急ぎ追いついたクリムゾンは相対する敵に斬りかかる。
「不意打ちのあれを回避するとは。並みの使い手ではないな。だが女王に指一本触れさせはせん」
「あなた如きが良く言う。この七刃、ミストラの実力をお見せしましょう。ついて来なさ
い」
「断る」
「……なぜですか? 此処でやりあえば女王にも被害が及ぶかもしれませんよ?」
「魂胆は見えている。俺を遠ざけその隙に別の者に女王を襲わせる。或いは俺だけを置き去
りにするのだろう」
「……ほう。多少は兵法にも通じているようですね。この世界には下らぬ力の争いに満ちてい
るのかと思いきや、どうして……なかなか大陸攻めは楽しませてくれます。ですがね……戦いの
本質は大きな流れ。戦わずして勝つ。武略はあって然るべきもの。知略を活かし謀略を重ねそ
こに悪略があれば……敵はいなくなる。天下無敵とは即ち、武ではない」
「……っ! 女王!」
ミストラが対話を重ねている間に、メルザの周囲は既にひし形の石により取り囲まれていた。
何の術か分からず戸惑うメルザ。
ミストラが手をかざすと、石は肥大化して女王を包む形となった。
「いかん……アニヒレーションズ!」
「無駄です。物理攻撃など何の意味も持たないですよ」
「なれば……仕方あるまい。我々幻魔人は本来幻の力によって生きている。幻の力は世界の力。
即ちそれは大気の力。幻に属するこの傀儡を、我が身命ヲ賭して今ここに……」
「んあ? 出られたぞ。俺様急いでるんだから邪魔すんなよな!」
クリムゾンが何かを行おうとしたその直後、メルザを包んでいた石は崩れ落ちた。
メルザは両者を無視して再び南西に向けて飛び去って行く。
余りの出来事にミストラもクリムゾンも硬直してしまう。
「……どういうことでしょう。私の技が内側から崩される? そんなまさか」
「隙ありだ! アニヒレーションズ!」
無数の斬撃がミストラを襲う……しかしミストラは霧となり、その場から掻き消えるよ
うにして別の場所へ移動した。
「あなたと遊んでいる暇は無いのです。これの相手でもしているといいでしょう。では」
「くっ……待て!」
その場に複数体の超巨大ゴーレムを放出すると、ミストラはメルザの後を追い、その場から消え
去った。
――ジャンカの町付近では、激しいぶつかり合いが起こっていた。
そして、既にルーン国への許可をもらっていた者たちで統率された軍が今にも出陣を
待っている。
「敵は西より軍勢で攻めて来る! 今こそ国の恩義を果たすとき。我らを救った英雄オズ
ワルは既に帰らぬ者となった。しかし、その英雄亡き後、我らを救った英雄はこの国にい
る! 皆で今こそ英雄を援護し、我らが大恩に報いるときだ! ルイ・アルドハル・メイ
ズオルガの名において命ずる。ルーン国の窮地を救い、未来永劫我らアースガルズ国最大
の友好国とするのだ!」
『うおーーーーー!』
アースガルズ国よりの部隊一万を率いるは英雄、オズワルの息子、ヘンブレン・ジョウ
イ・オーウェン。
煌びやかな鎧に身を包み、ジャンカの町から突撃を開始した。
更にその後……「ジパルノグより集められたのはナチュカ騎兵五百、猟騎兵千です」
「ランスロットの力を持てばその十倍は力を発揮する。我らが伝書の力、見せつけてやろう
か。さぁモジョコよ。爺と一緒に」
「やなの。ルインお兄ちゃん、いないの?」
「モジョコ。ルインお兄ちゃんは忙しいの。ほら、お爺ちゃんショックを受けて固まっちゃってる
から、ね?」
「うん。グレンお母さん。お爺ちゃんごめんなさい。モジョコ悪い子だったの」
「……今、我が軍の指揮は最大限に上がった! 我らも参るぞ!」
『お、おーーー!?』
そして――メルザがカルネの下へ向かった頃。
ルインはバルフートの腹の中にいて、声を聴いていた。
「ツイン……ツイン」
「……カル、ネ。はは、こりゃもうあの世行き確定か……」
「ツイン、ダメ。お鼻……お鼻!」
「鼻。一杯引っ張られたな。手、届く、かな……」
「ツイン、がんばて。メルちゃ」
「ああ。メルザは力を失ってるんだ。だから、此処へは来れない」
「ツイン、早く、会いに来て」
「……俺は、何を考えてるんだ。目が見えないからって諦めて。違うだろ。そうだ、待って
るんだよ……」
鼻に手が届いた。その手で自分の鼻を思い切り引っ張った。
俺はあいつにこんな温かみをもらってたんだ。
遠くにいても、見えなくても、手に取る様に分かるように。
カルネの、俺への愛情を。
きっと俺の目が見えなくても伝わる様に、ずっとそうやって鼻をいじってたんだ。
バカだな、俺。気付いてやれなかった。あいつの愛情表現に。
……目が見えない俺を思い、見えてる虚像を伏せ、強く生きれるように。
有難う、カルネ。俺は諦めない。このバルフートから必ず、脱出してみせるから。
「鼻つまんでるのに、喉の裏や心臓の方が余程痛い……」
此処は間違いなく奴の腹の中。
そして、奴は暴れている。
俺の攻撃で内部に相当なダメージが入ったのだろう。
思い切り目の力を使ったんだ。奴に手痛いダメージを負わせたのは間違いないんだ。
そして、俺自身にもダメージが来るところまで目視した。
両腕から体を伝わり、目の力を使う。
その伝わった流れの箇所に多大な出血が迸る。
全力で使えば自傷を必ず伴うことが分かった。
ベルローゼ先生から託されたフォーサイトの力……こいつはそもそもゲンドールからく
み上げた力なのかもしれない。
神魔解放の影響か、僅かながら回復の兆しはあるが……此処に長くいれば消化されてしま
うだろう。
そうすればにやついたタナトスに笑われながらタルタロスの下へ飛ばされる?
冗談じゃない。
「全身から血しぶきを上げても、お前を封印してやるよ! こっちの技は封印してたん
だけどな。お父さん、力を貸してください。紫電清掃、二人静!」
久しぶりの雷撃。上手くいくかは分からない。
だが多少の雷撃が走っているのは感じた。
それと同時に目の力を合わせ……先程と比較にならない激痛が全身に走った。
……無茶過ぎる。全身バラバラになりそうだ。
いや、もうバラバラになったんじゃないか?
これ以上、どうすることも……だが、激痛が走り震える手は、自然と俺の鼻に向かう。
そのたびに、見えない視線にメルザとカルネの顔がちらついた。
そして……エイナ、クウカーン、レイン、ルティア。
次々に脳裏に大切な者の顔が浮かぶ。
皆……俺を待っている。
「まだ……動く!」
【絶魔】
「こんなところで……くたばれるわけ、ねえだろうがーーーー!」
最大限、最後の一撃をもう一度。
もう血なのか奴の胃液なのかも分からない。
ドロドロに感じる状態で、俺は今一度剣を手に取り技を撃ち放つ。
「ここを乗り切り、もう一度会うんだ! オペラモーヴ!」
撃ち放った瞬間、俺の身体は突如水に溺れて冷たくなった。
もう指一本動かせない。
だが……ここは奴の腹じゃない。
ざまあみろ……俺は……勝ったぜ……。
ベリアル、助……「ルイン! ルイン! 良かった、無事だった。また海水が来る。邪
魔しないで! 風竜破幻斗!」
海に猛烈な竜巻を引き起こし、海水を弾いてルインを助け出すメルザ。
血みどろのルインを抱きかかえると、その表情を見て涙を流す。
「良かった、良かったよ……俺様、やっと、やっとルインを助けられた。今度はもう、ぜ
ってー離さないから」




