戦パート 混沌のロキ勢力VS両星のルイン勢力 輪廻の回廊
ギルアテ、エゴイストテュポーンが放出された頃、ジャンカの町でその様子を見る者が
いた。
「本当にやるつもりなのかい? 体壊すよ?」
「……二言は無い。約束はした。借りも……返さねばならん」
「借りねぇ……まぁいいけど。私は静観するだけだからね」
「そう言いながらいつも手を貸すのがお前だがな」
「どうだろうねぇ……でも本当に出来るの? 戦場の全ての魂を拾い上げて作り替えるな
んて」
「ここには、あいつもいるからな……」
横たわり、少女に泣きつかれている男、アルカーンを見ながらタルタロスはそう呟いた。
直ぐ近くには十王と呼ばれる者たちを招来し、既に何事かを始めている。
彼らはルインから無茶な頼みを引き受けていた。
戦場で死すあらゆる者たちを、再びロキの下に向かうのではなく、新しい生命として、破
滅や混沌ではなく、清らかに生きれる道を与えて欲しいと。
ロキに一度でも魅入られた者は、その魂の輪廻すらも魅了され、奪われる。
生涯混沌の奴隷として生きねばならぬ彼らにおいて、死とは意味をなさない。
だが輪廻の回廊さえ断ち切れれば、新たな道を歩むことが出来るという。
そのために、一つの指定した種族で一度肉体……つまり魄の入れ替えが必要だという。
「数千の集団だけでも大変だろうに。あーあ。ヒューを連れて来れば良かったなぁ」
「呼び出してある。そのうち来るだろう」
「……君って相変わらず勝手だなぁ」
タナトスが呆れているところで戦況は大きく動いていた。
出鼻をくじかれたものの、圧倒的な戦力差で群を推し進めるロキの軍勢。
指揮を執るのは神兵ミストラという者。
ロキの配下として最も切れる頭脳を持つ、冷静で冷酷さを併せ持つ男。
「残念ながらあの呆れた神の遣い、エプタというものはおりませんか。全軍の指揮を任さ
れた以上、条件は達成しますが……軍勢は幾ら死んでも構わないとの仰せ。それに言うこ
とを聞かない者たちばかり。一体誰が真っすぐ進めといいましたか?」
「マーカスとリトロは離した方が良い。リトラベイは放っておけ。止めても無駄だ」
「あなたはどうなのですかフェイツ。私の言うことを受け止める気概があると?」
「我は常に最後であり最強の位置に居ねばならぬ。貴様とて我に命令すること叶わぬと知
れ」
「指揮官を任命されているのは私なのですが……まぁあなたにそれを言ったところで無意
味でしょう。剣聖、信綱」
「……この地にて、我は剣聖にあらず。ただの剣客に過ぎぬ」
西方よりゆるりと軍を進めるその奇抜な乗り物は、せりあがった大陸を直角に八本足で
登っていく。
一方、先制を討って出たルインは……「こいつは俺が引き受ける。ベリアル! 加勢はいらん!」
「ぐっ……この程度で倒せると思うなよ! 小童が!」
上空からの奇襲を受け止めた相手は槍を大きく振るい、上空から襲い掛かって来たものを払いの
ける。
だが……「こ、これは……しまっ!」
「迂闊だったな! ユー、バンッ! だぜ。真・ブラックイーグル!」
槍で振り払われた勢いで空中暗転した姿勢で、ラモトをブラックイーグルから射出する。
攻撃対象の足元は既に凍りついており、まともにラモトの攻撃を食らったそいつはもんどりと倒
れ落ちた。
「この……リトラベイが……」
「あんた、ハクレイ老師と戦ってた奴だよな。リトラベイって言うのか」
「……ツワモノが魂、その成れの果て。死して帰そうとも我が魂命に自由無し……貴様が、羨ましい」
「お前も転生者か」
「我が名は……後藤、又兵衛。古今東西無槍の達人。槍なら負けぬと、知……れ……」
「槍の達人か……安心しろ。お前の呪縛は解き放つ。死して罪状を受け入れ、今度は自由なこの地に生き
ろ。新たな……魂の生に祝福を。次に会うとき俺の名前は忘れているだろうけど、きっと幸せに生きられ
るよ。リトラ……なんだっけ? 又兵衛でいいか。さよならだ……お前は死なない。また会おう」
槍使いは消滅し、その魂はジャンカの町へと向かっていった。
地下からひょこりと顔を出す者が現れる。
「いい手筈だったよ、アネさん。相変わらず氷術に関して、右に出る者はいないな」
「もっとためらうかと思ったけど、ちゃんとトドメを刺せたんだね」
「俺がやらなきゃアネさんがやってただろ? それに……タルタロスのお陰だ」
「まさか本当にここで倒れた全生命を転生させるつもりなの?」
「ああ。あいつは嘘はつかないだろう。それに……条件も出した」
「そう。次の工作に入るから君の封印に入るよ」
「ああ。レッツェルやフェドラートさんは第二地点へ?」
「ラートは南へ。レッツェルはもっと北だね」
「ベリアルの方も片付いたみたいだ。次の目標地点へ移る」
地下にいたのはアネスタの部隊。術兵工作部隊は地上での戦闘を容易にするため、地下
から地上にいる部隊への工作を施していた。
上空では魂吸竜ギオマとベリアルの激しいブレスによる攻撃が続き、ワイバーンやホー
クフレイムなどの飛翔するモンスターを相手に猛攻を続けていたが、一気に片を付けるべ
く一際巨大化したギオマにより、数千のモンスター群は消滅し尽くされていた。
「主殿! ご無事ですか」
「ルジリト、こっちは問題無い。先発はまだいいが、本番はここからだろう」
「敵将を一名落としたのは大きいです。しかし……南部の状況が想定していたより良くあり
ません。至急向かいましょう」
「ギオマは引かせろ。俺とベリアルで行く」
「しかし!」
「どうも頭にちらつくんだ、あのロキの笑い声が。早すぎるとは思うが、喉元を掻っ切る趣味
があると思わないか?」
「確かにその通りですが……主殿にもし何かあれば!」
「心配するな。俺につくのはあのベリアルだぞ?」
「……分かり申した。合図を一つ、持って行ってくだされ。こればかりは譲れませんぞ!」
「分かった。まぁ安心しろ。治癒術が使えるアネさんもいるんだ。それに何よりルジリト。お前
を信頼してるから任せるんだ。ギオマの手綱、上手く引いてくれよ!」
上空を飛翔していたベリアルはゆっくり降りて来て、ルインを乗せると直ぐに飛び立つ。
「フン。躊躇しやがったら上からブレスをぶちかましてやろうと思ってたんだがな」
「そら恐ろしいことだ。だが、決心が鈍る程ぬるい旅をこなしてきたわけじゃない。お前な
らそれくらい、分かってるだろ」
「てめえの記憶を見て来た限り、甘ぇ甘々の甘すぎる国にいたんだ。それくれぇ葉っぱかけ
ねえと、びびって小便漏らすだろうよ」
「否定出来ないのが悔しいところだが……もう甘ったれた考えじゃ、誰一人守り通すことが
出来ないのは分かってる。お前も、俺もな」
「ぬかしやがる……行くぜ、ルイン!」
「戦場を支配するぞ! 最大限飛ばしてみろ、ベリアル!」
共に戦って来たドラゴントウマでありベリアル。
それはルインにとって最大の理解者であり共存者です。
戦パートはまだ始まったばかり(その間に勿論本編を考案していたりもします)です。
お楽しみ頂ければ幸いでございます。




