第八百八十六話 戦の決意は勇か、或いは臆か
明日より切り離されたパート【戦パート】に入ります。
第八百八十七話は【戦パート】終了後に開始されます。
物語として分岐しているわけではなく、【戦パート】を見たくない人用に切り分けすることにしました。
幅広く展開される戦術要素を含むかと思いますので、お楽しみにして頂ければ幸いです。
頑張って今日書き上げます!
主要として登場するであろうルーン国側の人物を別途掲載する予定です。こちらも本日中に書き上げます。
全て俺の責任だ。
この状況の何もかもが。
メルザやカルネ、町に居た全員を危険にさらした。
考えが甘かった。見通しが甘かった。
だから……「もう、うんざりだ! 俺たちの平穏をぶち壊すお前らなんて……!」
「同感だぜ、相棒」
「なっ……」
俺の全力の攻撃だった。相手に対しての八つ当たりにも近い攻撃だ。
目の前の敵をバラバラにしてもいいと思えた。
そんな攻撃を……受け止めたのは死竜トウマ。
……ベリアルだった。
「ったく、痛ぇなおい。こんな痛ぇもんをよぉ……おめえ一人で抱えてんじゃねえ、馬鹿
野郎が!」
思い切り前爪でぶん殴られ、後方へ吹き飛ばされた。
トウマの力で殴られればひとたまりもなく吹き飛ぶに決まってる。
全身に迸ったのは……痛いだけじゃない。頭の中の意識がはっきりしていく。
あいつはもっと、酷い傷を負わせてしまった。
「てめえらが何者かは察しがついてる。もう、捕縛する必要もねえ。後は……任せな」
「ベリアル、お前……」
「うぬゥーーー! 貴様らァ! この魂吸竜ギオマをさしおいてェ! その魂、食らい尽
くしてやるゥ!」
「随分と腑抜けた顔をしていますのね。あなた、それでもこの町の太守なのかしら? たか
が町を襲われた位で情けないですわね、情けないですのよ、情けないに違いないのですわ!」
「ややこしい奴らも来やがった。ここは俺たちに任せな。おめえは行くところがあるだろ」
「その通りだ……メルザは、カルネは何処だ!?」
「幻魔界だ。四幻のやつらなら向かえるだろうよ。行け。始末は任せろ」
「……分かった。その前にルーン国にも向かっておく。ベリアル……すまない」
「プリマもいるんだけどなー」
「プリマも頼むよ。俺を止めてくれて、助かった」
「ふん。こいつはでっけえ貸しだからな。忘れるんじゃねーぞ」
「ああ! 流星!」
辛いとき、こいつはいつでも協力してくれた。
でっけえ貸しだと? そんな程度で収まるかよ。
お前に返さなきゃならないものなんて、多すぎて数え切れやしない。
お前が嫌いだった。でも俺はお前無くして生きてはいけないのだろう。
相棒……か。
確かにその通りだよ、馬鹿野郎。
――流星ですぐさま泉まで向かい、ルーン国に入る。
こちらは襲われてはいないようだ。
既にイビンが負傷者を運んでいるようで、慌ただしくなったばかりの様子。
直ぐに家へと向かい、ファナ、サラ、ベルディア、レミに会いに行くと、ファナとサラ
だけがいた。
他の二人は散歩中か?
「何があったの? 酷い顔よ」
「外、騒がしいわね。主ちゃんは?」
「子供たちは……無事か」
「え? うん、ちゃんと寝かせつけてあるけど……ねえ、本当に大丈夫?」
「……大丈夫じゃない。絶対に外へ出るんじゃない。襲撃を受けた。危ない状況だ」
「それなら私たちも!」
「駄目だ。相手が誰なのかは予想がついてる。何が起こるか分からないんだ」
「だったら尚更じっとなんてしてられない。私たちの子供は私たちが守らないといけないのよ」
「お前たちには前線に立って欲しくないんだ。だが……きっと出来ることはある。ルジリト
が何処にいるか知らないか?」
「外だと思う。ねえ……ちょっとだけ待って。これ、カルネちゃんの帽子。私たちで編んだの。
持って行ってくれない?」
「暖かそうな帽子だ。必ず、届けるから」
帽子を受け取ると、再び流星で町を出ようとすると、二人に抱きつかれ、引き止められた。
心配すんな。簡単にくたばる程、やわじゃなくなったんだ。
でも、有難う。お前たち二人は昔から母親のような優しさがあった。
「子供たちを頼む。お前たち二人だからこそ、任せられるんだ」
――再び泉からジャンカの町へ出ると、リュシアンとルジリトが膝まづいていた。
こちらから探す手間が省けたな。
「すまない、ゆっくり状況を説明している暇は無い」
「申し訳ないのですが、女王の下へ向かうのはリュシアンのみです。主殿」
「リュシアンを連れてってもいいのか?」
「数刻であれば問題ありません。出来るだけお早いご帰還を」
「ああ。ドラゴントウマ……ベリアルにも助力を。もしロキを見かけたら伝えてくれ。お
前のふざけた奇襲を宣戦布告とみなす。必ず後悔させてやる、と」
「……しかと。本当に予測が嫌な方向で当たってしまいましたな」
「ああ。だが本当に無事でよかった……」
「ベリアル殿のお陰でしょう」
「いや……タナトスか、或いはタルタロスか。何れにしてもあの二名の治療も頼む」
「……ふむ。後ほど調べておきます。ではリュシアン」
幻魔界か。再度向かうことになるとは思わなかったが……長居するつもりはない。
リュシアンは幻魔への道を開けるのか。
いきなりウガヤに襲われたりはしないと思うが……気を付けなければ。
――到着したのは見覚えのある場所だ。
あのときは、ベリアルと交代していたが。
ここはクリムゾンの庵だな。
到着して直ぐ、メルザが駆け寄って来た。
「ルイン! どこ行ってたんだ? 心配したぞ」
「ツイン、おかえ、なさい」
「……ああ、ただいま。メルザ、カルネを抱かせてくれないか」
「んあ? どーしよっかなー」
「メルちゃ、ツイン、おはな、おはな」
「しょーがねーな。本当にカルネはルインルインばっかり言うんだぜ」
「……ああ、そう、だな……本当に、良かった、良かったよ……好きなだけ引っ張れ」
生きていることの実感。これを失って生きていけるはずもない。
俺はこの先、こんなに小さな命をどうやって守ればいい?
相手は混沌の神や地上を滅ぼそうとするような凶悪な奴らだ。
そんな奴らがこんなにもか弱い命を狙う。
そんな無条理を許せるはずがない。
「ツイン、泣いてる。メルちゃ、泣かした?」
「俺様何もしてねーぞ? どうした……ばっ」
気付いたら俺は、二人を抱き締めていた。
失うのが怖い。ここから出すのが怖い。
ジェネストもクリムゾンも、サーシュもリュシアンもその姿をただずっと見つめている
だけだ。
あいつらは分かってるんだ。
俺がどうするかを。
決して逃げたりはしないということを。
「カルネ……ファナとサラが編んでくれた手編みの帽子だぞ」
「おお! もー出来たのか。すげーなあいつら。俺様まだ手が上手く使えなくてよ。一緒に
やるって言ったんだけどな」
「メルちゃ、下手くそ。ごみが出来た」
「ひっでー! おいカルネ!」
「ふふっ……ああ。この幸せを破壊する奴に、何の容赦をかける必要がある? 守るために
戦う必要があるに決まってる。誰とも戦いたくない。けれど何かを守るためには避けられや
しないんだ。どんな綺麗ごとを並べても、降伏した先にあるのは絶望と死、殺戮と奴隷の道だ
けだ。誰かが助けてくれる? そんなわけない。命を懸けて戦おう。逃れたいものは全員ルーン
国に匿う。メルザ。お前たちを守るために命令してくれないか」
「何言ってんだ? ルイン。戦うなら俺様も戦う!」
「分かってる。俺が死ねばお前は生きていけない。お前が死ねば俺も生きてはいけない。ジェネ
スト。ここで、カルネを守ってやってくれ。頼む」
「……言いたいことはありますが、承知しました」
「殿方殿。私は共に行くとしよう。女王を守るのに力は必要だろう?」
「頼むよクリムゾン。ロキのことだ。必ず段取りを踏んでから進軍してくる。ジャンカの
町にいたあれはほんの洗礼に過ぎないはずだ」
そして、メルザの命を奪おうとしたあれも、単なるあちらからの宣戦布告ののろし程度に過ぎない
ということを。
ジェネストに預けたカルネは当然泣きわめくだろう。
だが、次に会うときは戦を終えてからだ。
そして共に地底へ……俺の里帰りをしよう。
カルネやクウ、子供たちを連れて。
だから、必ず勝つんだ。
ロキの軍勢に。




