第八百八十五話 一触即発
大変遅くなりましたm(__)m
「いけ、ナナー!」
「万華鏡角眼! その視力、削り取るだ!」
万華鏡角眼発動と同時にルインへ合図をすると、上部の結界がバリーンと音を立てて崩れさる。
時を同じくして、石化が解かれ落下するアルカーンをナナーが飛び跳ねてキャッチした。
力は入らず意識も無い。
「もうこの首輪はいらねえ! トウマで暴れる、奴は……近ぇ! グラアアアアアアアア
アアア! てめえら、全力で女王とカルネを守りやがれえええええええ!」
ベリアルの巨体と響き渡る全力の咆哮で、ジャンカの町は一瞬にして壮大な騒ぎとなる。
その呼び掛けに応じるかのように、次々と四方八方から人々が押し寄せた。
「あれはドラゴントウマ! 主殿がお戻りか!」
「女王、なぜこちらに!」
「不覚を取りました。先ほどの銃声は一体……お約束通り抱えてでも戻りますよ!」
「えっ? 俺様が狙われたのか?」
「先ほどの声はベリアル殿でしょうな。殿方殿は何処へ?」
「てめえら! ぼさっとすんな!ジェネスト、その位置から領域には戻れねえ! 幻魔界でも
構わねえから移動させろ! ルインは直ぐ来るが、まともな状態で来やがらとは思えねえ」
ベリアルが吠え終わる前に更に行動が起こる。
銃声が鳴り響き、女王の周囲を掠めた。
「急げ!」
「あ……ルイン……」
「承知!」
その場からジェネストとクリムゾンに連れられ姿を消すメルザとカルネ。
ひとまず安堵したのも束の間……周囲が敵だらけであることに気付く。
「くそ、一人で命を取りに来るほどアホじゃねえよな。用意周到だ
ぜこりゃあよ」
既に眼帯を付けたウェアウルフ以外にも、複数の銃を持つ亜人に取り囲まれていた。
そのウェアウルフには血だらけでしがみつくように動きを封じているメイショウ。
それを跳ねのけようとしているが、光の十字架のような輪にガチガチに固められ、上手
く銃を撃てずにいる。
ミズガルド、ビーやフェドラート、アネスタたちが一斉に戦闘を始めた。
イビンは大きな亀となり、町民を避難させ始めている。
ベリアルにとって最も気掛かりだったのは……地上を見下ろすルインとタルタロスだった。
「おいルイン! 落ち着きやがれ! ひとまず女王もカルネも無事だ!」
「俺のせいで……俺が、俺が弱いから町が荒らされる。俺が弱いか
らカルネがあんな目にあう。俺が、俺が弱いからメルザが、メルザが泣くんだよ、く
そったれがーーー!」
黒い衣が大きく広がり、蒼黒い長髪が風になびく。
その瞳は怪しくも紅色に光り……黒い残像を重ねながら瞬時に移動していく。
残像は次々と町にはびこる銃を持つ者を貫いていった。
残されたタルタロスはどうやらルインを引き留めていたらしく、胸を押さえていた。
「……あれは、止まらん」
「げっ。おめえやられたのか。まじかよ。てめえに一発入れるのがどれだけ大変なことだ
と思ってやがんだ」
胸に当てた手を離すと、そこはぼっこりと風穴が開いていた。
しかし何ともないといった表情のまま会話を続けるタルタロス。
「……あいつは自分に対しての無力差を引き金に成長する男なのだろう。カイオスもそう
だった」
「あれは放っておくとやべえだろうが」
「もうタナトスが向かっている」
「それ、逆効果じゃねえのか?」
「いや。口下手な俺より、上手くやるだろう」
「俺がやったほうがまだましだろうが!」
「……お前はスイレンにとっての何だ」
突然意味不明の疑問を上げかけるタルタロスに怒りを覚えるベリアル。
「おめえが俺たちを魂の共鳴者にしたんだろうが!」
「だからこそだ。お前にとってスイレンは何だ」
「けっ。おめえになんざ話す義理もねえ」
暴れまわるルインの下を目指し、飛び立つベリアル。
それを見てタルタロスは過去を思い出していた。
神を憎み、運命を呪い、着いて来ない味方を見限り、暴れ回っていたベリアル。
壮絶な殺し合いの中を生き抜き、戦いの果てに敗れて死に至る。
死してなお、傲慢であり何ものも無理やり従わせようとしたベリアル。
己のために生き、交渉を持ち掛け生きる大悪魔。
スイレン……貴様は凄い男だ。
変わるはずの無い真の悪魔と呼ぶに相応しいあいつの魂までも変えてしまった。
……まるで心配しあう、兄弟のようだな。
「……地底にありて数万年。これほど愉快なことはあるまい」
ゆっくりと地上に降りたタルタロスは、この行く末を見守ることにしたのだった。
町を荒らしていた者たちは、口々にルインに恐怖を覚え尻込みし始めた。
「こ、こいつやべえ! 聞いてた話より何万倍も強えじゃねえか!」
「メイショウはなぜ邪魔をした! 話が違うではないか!」
「おい貴様ら一体何者だ! 一体どこから現れた!」
「黙れ邪神の手先風情が! 我ら善神の意の下、始末する!」
地上では沖虎、彰虎、白丕が幻術を用いた応酬戦を繰り広げていた。
相手は亜人だけではなく、特殊な装備をした者が無数。
どうみても町にいた者たちではない。
「沖! こやつらは恐らく召喚者だ。呼び出した奴を叩かねば次から次へと呼び出すぞ!」
「主が戻って来たんです。我々に負けはないですぞ、姉上!」
「少々雰囲気がおかしい。正気を失っているかもしれん。主の力を頼らず我らで切り抜け
凱旋するぞ!」
戦線は広がり続けており、おまけに町民も守らねばならず、姉の白丕に言われても、心
情穏やかではなかった。
闘技場からも騒ぎがあり、町中は大混乱を起こしている。
既に戦場と化してしまった町だが、最も冷静に指示を出す者がいた。
ルジリトである。
「リュシアンよ。あの竜は間違いなくベリアル殿。言伝を頼めるか。サーシュは指揮者を
特定せよ。ビュイは闘技場にてギオマ殿へ至急依頼を。主殿を止めるようにと。行け!」
直ぐに亜人が襲って来るが、難なく切り伏せてみせるルジリト。
切った感触からも既に何者であるかは把握しているようだった。
「やはりホムンクルス。兵として何体創造したのか。狙いは間違いなく女王。ベリアル殿が
叫ばなければどうなっていたことか……それに、本命を止めたのはナナーか。ふむ……」
状況推測したルジリトは、アルカーンを救出したナナーの下へ直ぐに向かう。
更にその頃闘技場では……「ぐぬゥ。この攻撃すら効かぬとはやりおるようになった
なァ!」
「おバカな竜ですのね。今はそれより良くない状況のようですのよ。あれは子飼いの竜で
したわよね。何かあったのかしら」
「うぬゥ。ルインの奴めェ。このギオマを差し置いて遊んでおるなァ!」
「遊んでるのはあなたですのよ。ふう……ひとまずお遊びはここまで。テンガジュウ!
見に行きなさい! ……あら? いませんわね」
「お姉様。テンガジュウなら釣りしてくるって港に行っちゃいました」
「おのれテンガジュウめ。主の戦闘中に釣りをするなどと!」
「もういいですわ……わたくしが行きますわ……」
『お供いたします!』
そして……ルインは。
「お前らが……お前らのせいでええええ!」
「ひいーーーっ。冗談じゃねえ!」
完全に我を失い、町へ攻めて来たと思われる奴らを見境なく粉砕し、震えあがらせてい
た。
完全に流星を使いこなし、流れる星が如く移動しながら相手を撃ち抜くその姿はまさに
黒き流れ星、黒星のベルローゼを思わせる。
そのルインにようやく追い付いたベリアル。
「おいルイン! 落ち着きやがれ! くそ、俺が分からねえのか!?」
「よっと。無駄だぞ。プリマも止めようとしたけど全然聞こえてないみたいだ」
ルインから飛び出てベリアルに飛び乗る小さなプリマは、暴れるルインの様子をじっと
みていた。
「判別はつけてる。見境なく襲ってるわけじゃねえ。こいつは町を守ろうと必死なんだ。
てめえの大切を守りたくて必死にもがいてるようにしかみえねえ」
「じゃあそいつら全員殺せばいいだろ。何で誰も殺さないんだ」
「この場所を汚したくねえんだろ。もう血で汚れちまってるけどな」
「じゃあ追い払って殺せばいいのか?」
「そういう問題じゃねえ。殺しのない世界から来たんだ。本当は誰一人殺したくねえんだよ!」
だから俺が、おめえの代わりに……その役目を負う必要があんだろうが!
「プリマ。てめえはそこから指示だせ。俺が飲み込んでやらあ!」
「分かった!」
町には火の手が上がりはじめ、せっかく造られた町の景観は大きく損なわれていた。
それすらもルインの心を大きく引き裂くだろう。
それでも彼は吠え、崩れることなく戦い続ける。
主が安心して暮らせぬ、己の不甲斐なさを責めるために。
少し広範囲の展開となっていて分かりづらかったらすみません!
更に展開していく形になるかと思いますが、明日分ではなく明後日分(まだどちらも書いておりませんが)
に関して、切り口の違う描写で執筆を検討しております。
自分に上手く書けるのかという部分もあります。
ですが頑張ってみようと思いますのでお楽しみに!




