第八百八十三話 武器屋にある希望の歪み
七百八十三話になっていたのを八百八十三話に修正しました。
ある意味タイムリープ……。
再びループする結界内。すぐさま飛び立つベリアルは、空を飛び闘技場の外へと向かう。
「グッハッハッハァー! やりおるな小娘ェ! 随分と成長したようだなァ!」
「あら。わたくしはまだまだ可憐な小娘のままですのよ。あなたのように老け込んで年をとったり
しないのよ。しないのね。しないに違いないのだわ!」
……こいつら、ずっとこんな調子で戦ってやがんのか。
まぁいい。まずは武器屋だな。
――武器屋へは空を飛んでいけば近い距離だ。
到着して中の様子を伺うが、そこにカイロスの姿は無かった。
……やっぱ外れか。にしても何て盛況さだ。爆売れじゃねえか、この武器屋。
どれも一級品っちゃ一級品だから無理もねえが……ん? あそこは……おかしな場
所、あるじゃねえか!
武器屋をくまなく探していると、明らかにおかしな場所を見つけたベリアル。
そこには明らかに何かを施したとみられる痕跡……歪みが生じていた。
考えても仕方ねえ。入って見るしかねえな……。
鳥のままその中に突入すると、妙な色の世界へと移る。
そしてその中には……ナナーがいた。
「おいナナー。何でおめえがこんなところにいやがる」
「鳥が入ってきただ! 喋ってるだ? どうやって? どうやって入ってきただ?」
「俺ぁベリアル……お前のご主人様だぞ。そうだな、俺の力ってことにしておけ」
「ご主人様? 本当にご主人様だか? それならお父ちゃんを助けて欲しいだ!」
「お父ちゃん? お父ちゃんっておめえ……カイロス、いやアルカーンのことか」
「そうだ! お父ちゃん、ここにナナーを飛ばして、それで……」
「落ち着きな。状況を話せ。外で何があった?」
「外はずっと同じことが繰り返されてて……怖かっただ」
「これはアルカーンの術か何かだろう。あいつは何処にいやがる?」
「上で……石になってるだ……」
「……まさか犠牲秘術、石化時限縛りだと!? あの野郎、消滅するつもりか!」
「知ってるだか? このままだとお父ちゃん、死んじゃうだか!? 助けて、助けて欲しいだ!」
「落ち着けっつってんだろ。まだ死ぬと決まったわけじゃねえが……このまま放置して繰り返せば
奴の寿命が尽きて時が動き出す。そうなりゃ奴の苦労も水の泡だ。恐らく状況を把握して直ぐに行使出来た
のがその術なんだろうが……参ったぜ。おいルイン! 聴こえたな。状況がやべえ。策を考えろ」
「……その石化時限縛りの術ってのが何なのか分からん。ナナーは無事なんだな? 手伝えそうか?」
「……出来るな、ナナー」
「うん。頑張るだ……だからお父ちゃんを」
「あたりめえだ。俺の信念はガキを放っておかねえことだからな。石化時限縛りってのは秘術の部類だ。てめ
えの能力を最大限行使出来るがてめえ自身が石化しちまう。石化中はそいつが持つ能力を最大限発揮し続けら
れるとんでもねえ術だが、リスクがでけえ。解除するかどうかは本人の意思だが、解除しないまま時が経ち過
ぎればそいつはくたばる。使用から既に数日経過してるだろう。かなりやべえ状況だ」
「つまり急がないとどんどんリスクが増すのか。メルザは見つかったか?」
「いねえ。ついでに言うならカイロスも見たわけじゃねえ」
「結界の上部に張り付いてるだ。それに女王様の居場所なら、分かるだ。でも……」
「おめえ、見たのか?」
「見てただ。眼帯を付けた奴が女王に発砲しただ。最初の一発はルインと戦ってた奴がか
ばっただ。二発目を受けたのは、カルネちゃんだっただ。そして……その眼帯を付けた奴をミズガルドさんが
撃ったところだっただ。場所は……港へ続く道だっただ」
「何でそんな場所にいやがる」
「凄い騒ぎになっただ。ナナーはお父ちゃんに散歩に連れて行ってもらってて、それで……」
「功を奏したってわけか。もしかしておめえ、最初から中にいたから干渉出来るんじゃねえか?」
「分からないだ。でも、出来るかもしれないだ」
「……ナナー。おめえが撃て。先制でその眼帯を排除出来れば或いは助かるかもしれねえ」
「分かっただ。やってみるだ……でも失敗したら」
「そんときゃ再びループが始まる。地獄がループされるだけだ。いや、出来れば俺も見たくはねえ
が、ルインだったら一体どうなっていやがったか。しかしカイロス……てめえってやつは本当にとん
でもなく愚かで最高な奴だぜ」
「いつも、困らせてばかりだっただ。でも……死んだ本当のお父ちゃんのように優しいだ……」
「作戦は決まったが、ルイン。何か問題あるか?」
「大ありだ。お前、ナナーに殺させるつもりか?」
「最悪そうなるが……四の五の言ってる場合じゃねえだろ。原因の場所に向かうぞ」
「分かっただ。でも武器はどうするだ? もらった筒で攻撃するだ?」
「ベリアルの能力は交渉する者っつってな。欲する者と交渉して力を分け与えることが出来んだよ」
「それじゃお父ちゃんを助けたいだ!」
「そうじゃねえ。取引がいる。あんときゃ俺がおめえの力を欲した。その取引条件があの武器だ。今取引すんのは
おめえがカイロスを助けたいってことじゃねえ。俺たちがこの状況をどうにかしてえってことだ。つまりおめえが
望んで交渉するんじゃねえ。俺が望んでおめえと交渉する必要がある。つまり分かり易くいうとだ。おめえに力を
託すから、ご主人様の願いを叶えろ。相手は眼帯野郎。おめえの力で倒し、世界を取り戻せ。ナナー!」
「分かっただ!」
契約が成立すると、ベリアルの小さな鳥口から角にはまるような装備品が落ちて来る。
「角眼鬼族にぴったりの装備が出やがったな……さぁ行くぜ、ナナー」
「ちょっと口から出たの使うの、いやだ……」




