第八百六十七話 新たな脅威
「ターゲットに反応はあるが姿がみえない! どうしたらいいんだ!」
「ルイン。プリマには見えるぞ。霊体だ」
「……止めてくれ。せめて見えるっていってくれ」
「こいつぁスピリットインフェルヌス。冥府で膨らみやがった魂のカスの集合体みてえな
もんだ」
「何だそりゃ!? 目を閉じて戦えってことだな。よし……」
怖いわけじゃない。別に見えないからって何が出来るっていうんだ。
こっちは既に見える死霊にとり憑かれてるんだぞ? びびってるわけがない。
……だからせめてどんな攻撃してくるか教えてくれないかな。
「歪術! 双鎌の舞!」
プリマは俺の上空をクルクルと舞うようにして美しく二つの鎌を振るっている。
真剣な眼差しで空中の何かを斬っているようだが、俺にはさっぱり分からなかった。
「そいつ、連れて来てよかったじゃねえか。おめえの仲間にゴーストイーターを渡した
が、それと同様のようなものじゃないと戦えねえからな」
「普通の剣じゃ斬れないってことか?」
「当然だよ。君、魂が普通に切断出来ると思う?」
「いや……そんなこと言われても、魂って目に見えないなら分からないだろ」
「おいルイン! おめえ、俺と魂を共有してたのに、何も伝わってなかったってのか?」
「いや、それはあれだ。何かいるってのは分かってるんだが、具体的には……」
タナトスの肩にいたベリアルが、俺の頭を突き出す。
これ、結構痛いな! こいつの攻撃力そのまま受け継いでるのか!?
「目でも耳でも気配でもねえ。魂を感じるってのは存在そのものを感じるってことだ」
「それって気配とどう違うんだ……」
「気配ってのはそいつの持つ匂いや衣のこすれる音や足の音呼吸の音も含むだろう。つまり
頼れるのは五感に準ずるものだろうが」
「うっ……つまり神魔解放しても何の意味もないってことか」
「あたりめえだ。仕方ねえな、共有感覚を思い出させてやる。言うなればそうだな……色みてえな感覚だな」
「色……?」
そう言うと、ベリアルは俺の頭の上に乗り、瞑想し始めた。
何か凄く頭の上が暖かく感じるような、感じないような。
そして――「おい。聴こえるかよ」
「ああ。喋ってるだろ?」
「喋ってねえよ。おめえな。この体でそもそも喋れると思ってやがるのか?」
「え? だって全員に伝わってただろ?」
「おめえとタナトスとヒュプノスにしか聞こえてねえよ」
「あれ……んじゃ何でベリアルの言葉が分かるんだ」
「魂の共有だ。あいつら二人には共有してねえけど読み取ってやがる。仮にも管理者の中で
死に直結する野郎どもだ。それくらい簡単にやってのける。今お前の中で最も伝わりやすい
部分で話してるのは分かるか」
「ああ。頭か……脳内で考えろってことか」
「おめえならもっと詳しく理解してると思ったが……」
「ん? ああ、そういうことじゃないのか。ええと……ベリアルのいる位置は……」
場所でいうなら頭頂葉か。確か感覚の統合を司る部分にあたる。
最も担うのは確か……「空間感覚と指示の認識だったか?」
「おめえ、やっぱ頭に精通してんのか。回りくどい奴だとは思ったがよ」
「昔勉強しなきゃいけなかっただけだよ」
「空間感覚を広げてみろ。ただし勘違いするなよ。視覚の情報を頼るんじゃねえ」
「……なんとなく分かった気がする。神魔解放を会得しないと出来なかっただろうが……」
五感だけじゃどうあがいても無理だ。
自分の感覚で頭頂葉の位置を把握してればそこへ意識的に集中すること位は出来て
も、その構造と機能へ随意に判断して行動させるなんて本来不可能だ。
それを可能にするため誘導して、その見えないものを知る感覚を共有させたのがベリアル。
こいつにはこんな世界が見えていたのか……いや、見えたのをちょっと後悔している。
プリマが戦っている方の感覚がやばかったからだ。
戦ってる数が多い。既に半数程は切り伏せたのだろうが、色でいうなら紫のもやのような奴を
幾つも落としていってる。
何匹かはヒューメリーの放出した液体に引っかかり落下したのもいるが……先ほどまで
これらが全て把握出来でてなかった。
つまり俺は……「幽霊、見えるようになっちまった。いや見えてるわけじゃないんだけど」
「へえ。そんな短時間で分かっちゃうなんて便利な方法だね」
「タナトス。おめえは見えてるのに何遊んでやがるんだ? さっさと戦うかアレを探すかし
ろ!」
……と、どなるベリアル。
そのアレってのは何なんだ。
ここにレアエネミーでも涌くっていうのか?




