第八百四十七話 海中生物、アルカディアファライナ
「あなた様! 相手が悪いのでございます! あれはアルカディアファライナでございま
す!」
「ああ、どうみてもまともにやり合う相手じゃないな。プリマ、力を渡すから一緒に戦っ
てくれ!」
「やってはみるけど上手くいくか分からないぞ。歪術使って海を割ったらトリノポートと
シフティス大陸どっちも海水で沈むけどいいか?」
「それはダメだ! 他の方法で戦って……いや、こんなのどうやって戦えってんだ。巨爆
烈牙剣だって僅かに傷が付く程度だろ」
プリマは俺の肩の上に乗り、対峙するバカでかいアルカディアファライナとかいうクジ
ラモドキを睨んでいる。
全身……いや半身姿を現しただけでも、目の前に巨大な絶壁が出来たかのようなサイズだ。
こんなのとまともに戦えるはずもないが、今の形態なら退けること位出来るかもしれない。
しかしこの形態、長くこうしてはいられない。
「どうするんだ。プリマは歪術使ってもいいのか?」
「足止め程度で出来ないか? 多分だが……タナトスの爆輪で怒らせただけだし、無理に倒す
必要はない」
「分かった。アメーダ、足場作ってくれよ」
「氷臥斗! もう広げていってるのでございます。早くしないと足場を全部砕かれるのでござ
います」
「しかし……封印外へ二人を出しただけでは、変化がみられないな。トウマは変わったのに」
絶魔形態でのモンスターは昇華した形態となって出て来る。
しかし、プリマもアメーダもそのままに思えるのだが……やはりまだ、この形態の全貌をつ
かめていない。
「歪術……あ、やっぱダメだ!」
『ギュラアアアアアアアアアアアア!』
プリマの歪術は僅かに巨体部分を歪ませただけだった。
クジラモドキが更に怒り、大きく吠えると周囲一帯から押し寄せる津波が沸き起こる!
やばい。せっかくアメーダが作った足場が……このままだと歪術で足止めも出来ない。
そう考える間もなく、氷の足場に亀裂が入り、タナトスが慌ててしがみついてきた。
「た、助けて! 本当に泳げないから! このままだと津波で流されるよ」
「だえー。空飛べないだえー」
「あなた様。まだ氷があるうちに、上へお願いするのでございます。その後また足場を作
るのでございます!」
「分かった、全員つかまれ! タナトス、お前が蒔いた種だから少しは協力しろよ! バ
ネジャンプ!」
勢いをつけて上空高く飛翔した。上空から見下ろしても何て巨体だ。
トウマや大きくなったギオマは言うに及ばず、これまで目にした生物の中で最も巨大だ。
こんな巨大生物が海に潜んでいたなんて……しかしあんなのがいるのに七壁神の塔はよく
破壊されていないな。
「でっけーー」
「そうでございますね。アメーダもこれほどの生物を直接見るのは初めてでございます」
「だえー。眠らせる?」
「ヒューメリーの力なら、あんなでか物でも眠らせられるんだな?」
「だえー」
「海の中だと無理があるだろう? それにあれほどの巨体を眠らせるにも時間が掛かる
よ。上空に飛んだけど、ここからどうするんだい?」
「アメーダ、足場は……やべ!」
俺たちが上空にいる間に、奴は位置を変える。
巨体の動きで海は大荒れ。こんなやつが陸地付近に現れたら大ごとじゃ済まないだろう。
「まずった。このままだとこいつの上に着地する。タイミング悪いと海に沈むぞ!」
「その背中部分を凍らせれば大丈夫でございますか?」
「そうすると歪術使っても氷が歪むだけだぞ」
「だえー。氷は眠らせられないよー」
「君の使うブレス技でどうにかならないのかい?」
「無理だ! 規模が違い過ぎる! 海に潜られたら効果も無いし。あいつの背中にそのま
ま一度着地を試みるぞ! もし潜りそうなら直ぐ氷を張ってくれ」
皆を担いだまま奴の巨体目指して急降下する。
直ぐに周囲を氷で固めれば何とかなると思っていた。
「ちょ、着地位置、まず……手が使えん!」
「氷術を使うと攻撃してしまうのでございます!」
「うわあーーー!」
「海の中よりはましかぁー」
「だえー」
「冷静に、言ってる場合かーーーー!」
着地した場所……いや出来なかったのだ。
そこには巨大な穴が開いていた。
俺たちは全員その中へと落ちて行った……。




